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毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
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異名を持つ魔獣たち。②

 大剣をクロスして振り切ると、その残心に巨大な稲妻の刃が現れる。オリヴィアはそれをティンクル・バリアで受けていく。続いてボティスの右腕の横凪、左腕は袈裟懸け。いずれも空中で飛行しながら回避。振り切り際を狙って、光の術式を組む。キラリとオリヴィアの身体の周囲が光ると、5本の光の矢が姿を現した。

 高速で発射されるそれを、ボティスは雷の大剣で払い落としていく。1本、2本、3本…5本目の矢が胴体へ肉薄するが、それを表皮付近に巡らせた雷の干渉で無効化していく。


“厄介ですね!表皮にまでディフェンスがあるとは。”


 オリヴィアは舌打ちをひとつ。続けて両手を構え、レーザーを照射する。それを大剣で反射させるボティス。かなり強力な雷電を纏っているらしく、大剣の腹を貫くことが出来ずに光線は天上へと逸らされる。

 と、そこへ紫電を纏ったボティスの尾が襲来。これもティンクル・バリアで受けるが、横凪の尾の衝撃自体は受け流すことが出来ず、そのまま真横へと大きく吹き飛ばされてしまう。そして、オリヴィアの吹き飛ばされた先に両手の大剣の切っ先を向けると、先端から極太の雷撃を見舞った。


ッドオオオン!!


 光に遅れて音が破裂する。ティンクル・バリアは生半可な威力の攻撃では破壊できない、破壊出来はしないが…


“流石に、これを受け続けるほどの魔素は持ち合わせていません。”


 ボティスの攻撃を何度もしのげるほど、底なしの魔素をオリヴィアが持っているわけでは無い。守りながらの攻撃となると、どうしても奴の防壁を突破できる強力な術式を使えない。


“だとすれば、活路は状態異常ですか。”


 光魔術の忘れられがちな特色、闇。オリヴィアはボティスの周囲に深淵なる闇のフィールドを形成していく。異変に気付いたボティスが雷撃の大剣を振り回すが、実際に闇の取り付いているのは奴の頭。剣の周りに闇が拡がったわけではないのだ。簡易の闇空間とでも言えるだろうか。魔素の消費を節約しながら、オリヴィアは次の攻撃の布石を打ち始める。

 と、そこでボティスは全身に紫電を巡らせ、視界をふさいでいた闇の魔術ごと術式を破壊する。そのままオリヴィアを視界にとらえ、大剣で切りかかってくる。それをボティスの身体を中心に空中を反時計回りに回転しながら避けていくオリヴィア。


“一撃でも喰らえば即詰み。すべて避けきって、当てて見せます!”


 その間にも、ボティスの攻撃は苛烈さを増していく。横凪、かち上げ、袈裟懸け、打ち下ろしからの変化。少しずつティンクル・バリアが削られていく。そして、高々と両手の剣を持ち上げた後、クロスした剣を振り下ろしてきた。


“その攻撃なら、先ほども――”


 見ました、そう言おうと思った瞬間、全身が泡立つ。残心の纏った稲妻の奥、ボティスが口から紫電をオリヴィアに照射してきたのだ。間に合わない!そう思った瞬間、オリヴィアは爆風で遥か後方まで吹き飛ばされる。

 ゴロゴロと床を転がる。ティンクル・バリアは今の一撃を凌げず崩壊、オリヴィアも吹き飛ばされた衝撃で両方の羽を潰してしまい、地面に強かに打ち付けられて右肩が脱臼している。


“ぐ、ううう。Sランク、言うだけのことはありますね。”


 自らが吹き飛ばされたことで起こした粉塵の中で、オリヴィアはしかし、自分の布石を完了させていた。光の術式で組んだ反射板を、ボティスの周囲にばらまいてきたのだ。わざわざ近接戦闘で危険を冒した価値はあった。


“何しろ貴方は一度私の光線をはじいている。その意味するところは、表皮のディフェンスではそれを防げない、ということ。”


 やがて、粉塵が晴れ、ボティスがオリヴィアの姿を捉えた時、彼女は既に術式を組み終えていた。


“【リヒト・ジョール】!”


 術式を発動すると同時に、ミスティの周囲5か所から放たれる光線。真直ぐに己に向かってくるそれに、大剣を構えるボティス。しかし、その光線がボティスの周囲で激しく乱反射を起こす。それはさながら光の監獄。やがて、乱反射する光があらゆる方向からボティスの身体を貫いていく!


「グガアアアアア!」


 苦悶の声を上げるボティス。それでも、大剣2本を振るって何とか術式を凌ごうと電撃を走らせる。だが、オリヴィアは甘くない。


“とどめまで、手を抜くつもりはありませんよ。”


 そう呟く彼女の左手に握られているのは、普段より幾分サイズが小さくなったブリューナク。魔素が限界に来ているため、これ以上の出力は出すことが出来ない。だが、今のボティスを葬るには十分だ。


“やっぱり、単純な力押しが私の性に合ってるようですよ!ハッ!”


 オリヴィアがブリューナクを投げると、それは光の檻に囚われていたボティスの胸を貫き、彼方まで一条の閃光を走らせた。






“鉄巨人と、イカか。”


 目の前にをふさぐのは、天井まで届こうかという巨人と、フワフワと空中を泳ぐように漂う巨大イカ。妙な取り合わせだ。


“なあ、カーミラ。”

「うん?何?」

“こういうのって正面からガチンコじゃなくても良いと思う?”

「うん、まあ、倒せればいいんじゃないかな?私達騎士じゃないんだし。」

“じゃあ、ちょっと手っ取り早く終わらせるわ。”


 そんな会話をしている間に、グレンデルが鋼の拳を叩きつけてくる。一撃で床に穴が開くほどのクレーターが出来上がり、ビリビリと巨大な地響きを立てる。カーミラの風の付与でそれを空中に交わすと、イカが大量の触手を伸ばしてくる。これをウダルの風の刃で切り落とす。が、即座に触手は再生、テレスタをつかみ取ろうと迫る。


「ああ、面倒だ、今日活躍するのは、ギュネシ!お前だ!」

「うん?俺ですかい?」

「そうだ。あいつらに出力最大の目くらましをお見舞いしてやれ!」

「あいよ、了解した。」


 ギュネシが術式を組み上げ、カーミラにはそれを浴びないよう軽い闇魔術をかける。その間もグレンデルはお構いなしに両手で殴りつけてくるが、パワーはともかくスピードはそこまででは無い。今のカーミラとルノの風魔術で避けられないようなレベルでは無かった。


「ギュネシ、放て!」


 瞬間、強烈なフラッシュが2体の敵を襲う!突然の視覚の喪失に戸惑い、その場で腕を振り回すグレンデルとカナロア。その様子を見ながら、次の準備に取り掛かるテレスタ。カーミラの闇魔術を解除しつつ、呟く。


“さ、次は魅了の毒だ。ああいう脳筋タイプはともかく脳みそを乗っ取ってしまうのが早い。”


 言うが早いか、テレスタは魅了の毒をグレンデルへと吹き付ける。ちなみに、猛烈な出血毒を伴っている。そして案の定、グレンデルはあっという間に脳を乗っ取られる。


「クロノス、あいつの視力を回復してやってくれ。イカに突っ込ませる。」

「了解した。」


 クロノスが回復魔術をかけると、グレンデルは親の仇、とでも言わんばかりの猛烈な勢いでカナロアに突っ込んでいく。対するカナロアは未だ視力が回復していない中、胴体に思い切り鉄の拳を叩きつけられ、体液をぶちまけている。ちなみに、グレンデルの方も鋼鉄さながらの皮膚の間から大量の出血をしている。毒がドンドン体中に回っているのだ。

 しかし、ここで一つ誤算が。カナロアはどうやら水属性の回復魔術を持っているようで、自分自身の傷を回復しながら、巨大な水球の中に逃げ込んだのだ。水の中で身動きの遅くなってしまうグレンデルは、手出しをしようにもダメージが与えられない。


「デカブツは用済みか。そのまま毒が回るに任せよう。イカは、パワーアップしたウダルに任せる。」

「…諾。」


 バリ、バリバリ、と緑色のウダルの鱗から電撃が流れる。小型化している状態でも、ウダルは緑のままだ。そして、術式を組み上げると、カナロアの上空から3条の雷が迸る。それは水壁を貫き、カナロアに地獄の苦痛を与えながら縦横無尽に駆け巡る。


“…へぇ、これでもまだ耐えるか。”


 驚いたことに、今の雷撃をもカナロアは耐え忍んだ。どうやら触手の何本かを地面に突き刺し、アースの代わりにした様だ。頭も中々回るらしいな。一方の鉄巨人は、口からダラダラと血液を滴らせながらその場に倒れ伏した。結局毒だけで倒すことが出来た形だ。死体が霧散していく。

 カナロアは自身に回復を施しながら状況を確認すると、10本の触手の先から圧縮したウォーター・カッターを照射してくる。これを、アグニの炎壁でガード。続けて、巨大な水球をいくつもこちらに向けて飛ばしてきた。これは、アクシズの水球と酷似しているが、数が尋常ではない。カーミラとともに風の付与で上空へ逃げる。そこで手詰まりかと思いきや、カナロアはさらに巨大な渦をテレスタめがけて空中に放ってきた。


「拙いな!クロノス、空間干渉!」

「御意!」


 空間干渉は、間に合えば殆どの術式を凌ぐことが出来る。大理石の床をも削り取る高圧の渦をやり過ごすと、テレスタは指示を出す。


「アグニ、仕上げに光球だ。」

「オーライ、大将、確りお見舞いしてやるぜ。」


 アグニは、高速で光球の術式を組んでいく。たちまち、テレスタの眼前に3つの青い光を放つ火球が生み出されていく。 ドウッ! それらが同時にカナロアへ向かって飛び出しす。カナロアは水壁によるガードを試みるが、それは既にアクシズで対応済みだ。この術式に死角はない。一つ目の光球が水壁にぶつかって猛烈な水蒸気爆発が起こる中、続いて残り2発が着弾。周囲を巨大な炎熱の嵐が襲う!その嵐は巨大な爆発の余波を地面から半球状に創り出した。

 当然、後には何も残っていない。すべての魔物は、ダンジョンへと還ったようだ。


いつも有難うございます。

家で執筆して気分が乗らないときは、

どこかに出かけるとましになりますが、

スマホだと入力がちょっともどかしいですね。

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