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毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
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より深く。

「【サーペント・ブレス】だとよ。ふふ、まんまなネーミングだな。」


 サーペントを倒した後、その周りの書架を読んでほくそ笑む。昔の人のネーミングは単純でいいな。【ラーヴァ】の横にパイロ・レックスとか、サーペントの横に【サーペント・ブレス】の書架とか。あれ?もしかしてその辺リンクしてるのかも?


「もしかすると、書架に収められている情報と出現する魔獣はそれなりの関係を持っているのかな?」


“でも、ニクシーに関係する魔術なんて、ありませんでしたよ?”


 ああ、そうだな。短絡的に過ぎたようだ。古代人を馬鹿にし過ぎたのかもな。それにしても、【サーペント・ブレス】は中々強力そうだし、実際食らったからイメージも着きやすいな。地上に出た後マイヤのやることが増えそうだ。水属性って色々使い道があるんだな、バランスの良い魔術なのかもしれん。


 そんなことを考えているうちに、23階層に繋がる下り階段が見えてきた。21階層に比べると、随分魔獣が少なかった印象だが、収蔵されている魔術の数に比例するのかもな。火魔術はかなり用途が広く、一般に一番扱われる魔術だし、その分術式の開発も進むわけで、収蔵量が増えるのも解らんでは無い。

 さて…23階層は何のフロアか?


 階段を下り、23階層の扉を開くと、大理石の床から生えているかのように見えるレドンド・ドラコの姿。どうやら土属性のフロアらしいな。あちらさんもこっちの存在に気付いたようだ。見るなり岩石の散弾をぶちまけてくる。 ガリガリガリ! 私の張った強化毒膜の壁と岩が衝突、硬い物質が削れるような音が周囲に響き渡る。が、貫通するほどの威力は無い。


「ゴガアア!」


 続いて奴が展開したのが地面から槍のように付き出す岩の魔術、これを跳躍して回避しながら、奴の頭にディアブロの一撃をお見舞いする。超重量武器の良いところは、硬い的には打撃武器としても使えるところだろう。


ガギィン!!


 思い切り打ち込んだディアブロと、岩石のようなレドンド・ドラコの頭部が火花を散らす!一撃でめまいを起こすほどの威力ではあったようだが、流石に仕留めることは出来ない。だが、ディアブロの形状を生かして遠心力をかけた2撃目を間髪入れず相手の頭上に唐竹に叩き込む。今度は硬質な音とともに何かが砕けるような鈍い音が鳴り、そのままトカゲは沈黙した。


「大分、人化状態での武器の扱いも良くなったみたいだな。」


 霧散するトカゲの姿を見ながら、そんな風に呟く。属性が土、という事で、前衛は私が勤め、中衛にミスティ、カーミラは調べもので、後ろにオリヴィアという形をとる。土属性はスピードの遅い獲物が多いから、毒の物量で押し切れる。毒属性の魔素の使用量は他と比べ極端に合理化出来ているから、霊水の節約にもなるしな。


「ここも、1000年前前後の資料ね。21階から25階までは、もしかすると同時期の記録が収められている可能性はありそうだわ。」

 

 カーミラが言う。取りあえず今のところ土属性の魔術を使えるメンバーがこの中に居ないため、読み込みもそこそこに前進していく。途中お馴染みのマッドヴァイパーの群れを毒槍でやり過ごしながら、土属性の習得をどうするか考える。

 浅い階層で参考程度に記録が残っている土属性の術式を貰って来て練習するか。ストーンバレットみたいな、簡単なやつを繰り返し練習していれば、そのうち中級の魔術も視野に入るだろうし。


「うわあ、これ物騒ね。【ヨルムンガンド・リバース】。底が見えないほどの地割れを引き起こすみたいよ。こんなものいつ使うのかしら?」


 多分、かつての戦争で用いられた禁術みたいなものなんだろうな。人間同士がもっと密集して色々国家をつくっていた時代のようだし、その分だけ領土争いも苛烈だったのだろうし、今と違って何処も魔素で満ちて様々な資源に溢れていただろうから、利権も複雑に絡み合っていただろうしな…。おや、敵さんだ。


「あれは初めて見るな。」


 巨大な、カマキリ型魔獣、ドラゴン・マンティス。腕が4本あり、鉱石を研いだような独特の鈍い輝きを持った刃が付いている。その奥、巨大な体の象のような魔獣はギリメカラ。全身に目玉が付いており、いかにも気味が悪い。攻撃方法はさて、どんなものだろうかね?


「ミスティ、一発デカいのをかますから、風の障壁でガードを頼む。」


 こくり、と頷くミスティを横目に、術式を組む。ヒュデッカで奪った、ドレイン型瘴気の魔術だ。キノコみたいな魔獣から学んだのだが、対象から生命力と魔素を吸い取り、枯らせてしまう割と凶悪な魔術である。 ボウッ と音を立てて霧が発生すると、前方の2体の魔獣が苦しみ始める。


「ギィイイイイ」


 と苦しそうな呻きを上げて切りかかってくるドラゴン・マンティスの腕をディアブロで受ける。横、斜め、強烈な威力の斬撃が降り注いでくるが、その間もドレインを止めない。こちらは只管ディアブロを回転させ、強力な刃の防壁として使用する。ほどなくカマキリの振りかぶって来た腕が捥げ、蒸発していく。殆ど吸い尽くしたようだな。ディアブロで難なく横凪にしてとどめを刺すと、カマキリは霧散する。

 さて、この分だと象の方は…。ん?無傷?


「バオオオオ!」


 ギリメカラが怒りの咆哮を上げる。見たところどうやら、自分の受けた毒攻撃を全て地面に流す、という固有の土属性術式を用いているようだ。奴の周りの地面が朽ちてぼろぼろになっている。面倒だな!


「アタシにやらせな!」


 中衛から飛び出してきたミスティが風刃を叩きつける!象の鼻先にそれが迫ると…ビシッ!奴の立っているすぐ横の床に巨大な亀裂が入ったが、相変わらず相手は無傷。


「なんだぁ?こりゃ?転嫁ってやつかい?」


 転嫁…自分の受けたダメージを何かに押し付けるわけだ。それは土属性と言うより無属性だな。もしかして土と無属性の複数属性を組み合わせた魔術か?面倒な相手だ。


「ミスティ!魔術は無効かも知れん。直接物理攻撃を叩きこむ!」


 私はそういうが早いか相手に突っ込んでいく。ギリメカラは巨大な鼻を鞭のようにしならせて地面に叩きつけてくる。それをヴァルディッシュで受ける。刀身に沿って鼻が流れて行ったところで、地面からかち上げ、鼻の根元から叩き斬りに行く。 斬! しかし、思いの他硬い。否、直前に土の壁で受けたか!威力が減衰されたようだ。

 すかさずギリメカラは巨大な右脚で私を踏みつぶしにかかる。こいつを貰うのは酷く拙いので、左に跳躍して回避、がら空きの胴へ突きを入れようと構えるが、『ギロリ』とこちらを睨みつける無数の目。そうか、こいつは死角が無いのか、と思った瞬間、地面と空中の2カ所から土槍が飛び出してくる。刹那にこれをヴァルディッシュを回して切り払い、その回転を利用して奴の背中から刀身を叩きこむ。遠心力の乗ったディアブロの重さに、ギリメカラの防御障壁は幾何もヴァルディッシュの威力を減衰できず、そのまま背中に深々と刃が突き立つ。


「バアアアオオオオオ!」


 苦悶の声を上げるギリメカラ。魔術は通らないようだが、物理攻撃が効くならこのまま押し通ればいいだけの話。身体がデカい分、ディアブロには良い的だ。


「ミスティ、私を上へ押し上げてくれ!」


 ミスティの風の付与を受けて、ギリメカラの遥か頭上に跳躍すると、奴の頭めがけディアブロを唐竹に振るう!ドッシャアアアアア、ズズン。頭から真っ二つになった象が倒れると、大きな地響きが鳴り、その死体はそのまま風に吹かれるようにキラキラと霧散していった。

 やれやれ、魔術が効かない相手がこの魔術都市の地下に眠っているとか、中々にシャレが効いているじゃないか。ディアブロを持っていてよかった。今度ヘクトに御礼を言っておかないとな。

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