表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
70/105

深層のはじまり。

 20階層から下に降りていく算段を付ける。テレスタも流石に人化状態ではかなり厳しい道のりになるので、場合によっては蛇の形に変化する予定で行動する。拙攻はミスティ。そのまま倒せれば別に構わないが、相性もあるので、調子に乗って深追いをしないよう注意する。

 カーミラはもっぱら資料の探索と読み取り。オリヴィアがその背後を固めて、必要であれば念話で全員に師事を出す形だ。

 そして、4人は今21階層へ降りてきたところだ。魔素が心なしか今までの階層よりも濃くなっている感覚はある。天上は高く、書架の高さもかなりのもので、一つ一つが花崗岩のような岩で創られているようだ。ミスティが亜竜化を行い、周囲の警戒をしながら進んでいく。その身体からは僅かな魔力が漏れ、半径数十メートルに広がっていく。風の術式で空気の振動から相手の位置を把握することが出来る、彼女の能力の一つを使って奇襲に備えようという訳だ。

 テレスタ、カーミラ、オリヴィアの順で後に続く。と、ミスティが大理石の柱のような巨大な書架を通りすぎた所でピタリと足を止める。


「上か!」


 そう叫んだミスティの頭上から炎の息吹を吐き出して降下してきたのはアンズー。オリヴィアと戦った時以来だろうか?獅子の頭に青い鳥の身体。強力な火炎は相変わらずだ。

 ミスティは奇襲をバックステップで交わすと、右拳から強烈な風の弾丸を放つ。アンズーはそれを回転しながら上方へ回避。その際に薙ぎ払うように左右の翼を広げ、無数の羽を飛ばしてくる。フェザースラッシュ、とでも言えばいいか?羽の刃が4人全員に襲い掛かる。

 が、それをミスティは危なげなく暴風障壁を創って散らしていく。そして左手に溜めた風の刃を放とうとするが、不意に視線を上方のアンズーからを廊下正面に向けた。そこに現れたのは、全身が黄金に輝く火炎属性のオオトカゲ、パイロ・レックス。Aランクの魔獣の中でも上位に位置する、人間族から見れば化け物のような強さの魔獣だ。ズルズルと腹を地面に引きずりながらのっそりと現れたそれは、ミスティを視界にとらえるや否や、口腔から巨大な火球、いやマグマの塊を射出する。


ゴオオウ!


「らああああ!」


 ミスティは躊躇なくこれに風の刃を叩きこんで相殺、そのまま相手に突っ込んでいく。


「ああ、だから一人で行くなって!」


 テレスタは彼女のフォローに回るため、上空のアンズーに無数の毒槍を展開していく。火炎属性の防壁とはそれなりに相性のいいテレスタ。相手もそれを解っているのか、毒槍を空中で縦横無尽に回避していく。だが、オリヴィアと戦った時と比べ、はるかに毒魔術のレベルの上がっているテレスタは、圧倒的な物量にものを言わせて、アンズーの周囲360度を包囲するように毒槍を生成。一気に射出すると、流石のアンズーもそれを全て避けきれず、身体の至る所に矢傷を負った。同時にまるで身体が焼かれるかのような痛みに襲われて墜落する。強烈な出血毒による筋肉の痙攣が、自由に飛ぶことを許さない。テレスタは地に落下するアンズーの頭に、すかさずディアブロを叩きつけ、その命を刈り取っていく。


 パイロ・レックスは強烈な溶岩の散弾を放つ。一撃目の溶岩弾を風刃で相殺されたため、闘い方を切り替えてきたのだ。摂氏800度を超える散弾の雨は火炎魔術よりもはるかに達が悪く、周囲を炎熱の海に変えていく。その様子にしかし、ミスティは歓喜していた。


「ハッハ、いいね!退屈しのぎにちょうどいい相手だ!【メテオ・フィスト】!」


 叫ぶと同時に、風の弾丸を雨のように浴びせていく。トカゲの方は、風の弾丸をまともに受けるのは危険と判断したか、溶岩のドームを壁の代わりに生み出し、ミスティの起こした嵐のような攻撃を耐え忍ぶ。とは言え、メテオ・フィストはテレスタのガードをも貫いた暴風の弾丸だ。そんな強力な術式を防ぐことのできる防壁がそうそうある筈もなく、溶岩の壁を突き抜けて、パイロ・レックスの背中の鱗に着弾する。


「ゴアアアアア!」


 苦悶の声を上げるパイロ・レックス。お返しとばかりにシールドにしていた溶岩を放射状に放つも、風を纏ったミスティに取っては止まって見えるような攻撃だ。溶岩の間を縫ってトカゲの背に肉薄する。


「喰らいなァアアアアアア!」


 ミスティは叫ぶと、高熱を持ったパイロ・レックスの鱗をものともせず右ストレートを上空から振り抜いた。瞬間、竜巻のような衝撃波が周囲に爆散し、パイロ・レックスは悲鳴を上げる事すら敵わず霧散した。


「相変わらず、無茶苦茶な強さよね。」


 カーミラはその姿に呆れながら、粛々と資料の調査に取り掛かる。火属性にいまいち相性の良くないオリヴィアも、若干時間を持て余してしまった感じだが、きちんとカーミラの守りに付いている。


「あら、この記録、どうも1000年近く前のものみたいよ?800年前の資料を探してるのに、どこかで通り過ぎちゃったのかしら?」


 カーミラは小首をかしげる。が、20階層までの資料はどれもそれなりに新しく時代順になっており、20階層付近で700年前の資料、というのは確認した筈だ。では、肝心の800年前前後の記録はどうなっているのか?


「最深部に所蔵されているのかな?」


 テレスタが言う。


「でも、それなら時代順に考えれば、一番古い1000年前の資料を一番奥にしまっとくものなんじゃないかしら?奥の空間を開けておいて、途中から記録を収蔵し始めるなんて、おかしいわよね?」


 それは確かにそうだ。わざわざ1000年前の資料を階下から持ち出して、800年前の資料をそこに入れたりするなんて作業、するだろうか?考えづらいことだ。


「あるいは、800年前の資料を安置する部屋を後から別で創ったか?」


 テレスタは別の方向性も考える。800年前の資料を、敢えて秘匿とするために、ダンジョン最奥にしまい込んだとするなら、どうだろうか?


“その可能性はあるかも知れませんね。生半可な力の者では手に入れるべきでは無い記録、という事なのかもしれません。”


「ということは、やはりこのダンジョンは最奥まで行かないといけないという訳なのかな。」


「恐らくは、そういう事なんでしょうね。ところで、この階層はどうも火炎魔術の術式が殆どみたいよ。後は火炎との合成術式。かなり込み入った、強力な魔術みたいね。」


 テレスタはカーミラの言葉に興味をそそられ、壁にはまった資料を確認してみる。


(これは…かなり強力な術式みたいだな。覚えておいて、今度アグニに確認させよう。場合によっては今より合理化した火炎魔術を創り出せるかもしれない。)


「何でもいいけど、次のお客さんがいらしてるみたいよ?」


 ミスティが声をかけてくる。テレスタが廊下の奥へと視線を向けると、そこにはまたしてもパイロ・レックスが、2体。かなり強力な魔獣だけに油断するわけにも行かない。資料を読み漁るのはしばらくお預けという事で、テレスタは敵に向き直り、毒槍の術式を組んでいくのだった。





 その日の夕方、4人はまたクレープ屋で軽食を買い、広場で食べながら打ち合わせをしていた。


「やれやれ、まさか21階層を終わった時点でここまで魔素を消費してしまうとは。」


 全く想定外、という風に呟くテレスタ。霊水は大量に持ち込んでいるからまだ何日も持つが、それにしたって思った以上の厳しい環境である。


「そうねえ、流石に私も張り切り過ぎたかしら。」


 ミスティも若干反省の色が見える。亜竜化している時には一切反省する素振りなど無かったが、内心自分が突っ込み過ぎたとは思っているのだろう。


「だね、ミスティ。今日の連中はかなり強力だったから、ミスティ一人で気張るとホントに次から魔素が枯渇しちゃうかも知れないわよ?」


 若干の憂いを持った表情のカーミラ。ミスティが突っ込んでいったことに対して釘を刺す、というよりは、純粋に心配してのことだろう。楽な相手ではなくなってきていることは、他の面々にも明らかなわけだし。


「ああ、ごめんなさい、カーミラ。ちょっと今日は調子に乗ってたと思うわ。次から自制する。」


 ミスティもすんなりとそれを受け容れる。21階層の終わりで魔素切れを起こしそうになり、複数の火炎弾をまともに受けそうになっていたのだから、さもありなん。あの時はオリヴィアのティンクル・バリアが間に合ったから良かったものの、直撃すればただでは済まなかったはずだ。


「明日は22階層を攻略するけど、みんな怪我の無いように地上まで帰って来よう。このダンジョン、思ったより手ごわいぞ。」


 テレスタが確認の意味を込めて言うと、3人もしっかりと頷いた。


  

いつも有難うございます。

最近は評価を下さる方もいらして、

とても有り難いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ