王都周辺の街道。
アルダーまでの道中は、それなりの小競り合いが続く道程となった。野盗が多い。人間を捕まえて奴隷に落としてしまえば、かなりの額になるのだろう。そうして全うな職業を離れ、盗賊に身を窶している連中が非常に多い。タリンのこともそうだが、はっきり言って王都周辺の事情はかなり裏から毒されている雰囲気を感じる。
「また、盗賊!」
カーミラが舌打ちと同時に風刃を放つ。最近はルノを顕現しなくても、それなりの力のある魔術を行使できるようになってきている。ルノを呼び出すと魔術の名前についても煩いし、盗賊相手に強力な魔術は必要ない、ということもあるのだが。
「げ、何だこいつら!」
「化け物みてぇに強いぞ!」
「ず、ずらかれええ!」
こちらが牽制に数度ぶつかり合うと、さっさと逃げ出していく盗賊たち。まあ、深追いはしなくてもいいだろう。結構目立つ風貌だし、裏の方でもそれなりに名前が売れてくれれば迂闊には手を出してこなくなるかもしれない。上の方の方々が出てきたら、その時に組織ごと叩いてしまえばいい。末端は結局、食うや食わずでこの身分になった者ばかりだろうから。
「それにしても、本当に盗賊ばっかりね。王都の冒険者なんて、護衛だけで仕事が済む位には盗賊が居るわ。」
ミスティがウンザリとした様子で話す。
“王都での取り締まりは行われていないのでしょうか?いくら何でも多すぎる気がするのですが。”
それはそうかも知れない、とテレスタは思う。普通、こういった重要な街道沿いに盗賊が跋扈している状況を国が放置しておくのは如何にもおかしなことなのだが、今の様子だとそれを取り締まろうという動きは無いのだろう。王都メラクの中でも色々あるものと推察される。
「だが、まあ王都の政治のことにかまけてる余裕も、私達には無いからな。」
テレスタがそう言うと、皆一様に頷いた。人間族のことは人間族で勝手にやってもらったらよい。人を救って欲しい、と直観を受けて久しいとはいえ、人間族同士の諍いを纏めて救い出せるほど、テレスタは器用ではないのだ。そもそも、勧善懲悪という考え方ですべてが通るはずが無いのだから、「救う」という手立ては「裁く」こととは別のことのようにテレスタには思えるのだ。それが今のテレスタにはどういうことなのか、説明は出来ないけれども。
「…テレスタ?そろそろ行くわよ。」
カーミラが怪訝そうにテレスタの顔を覗き込む。少し考え事をしていたようだ。テレスタは「ああ。」と言って頷くと、再びアルダーへ向け進み始めた。
王都沿いの街道を北に抜けると、野盗の数はグッと少なくなった。代わりに出てきたのが、ガストラ山脈から降りてくる魔獣たちである。王都北部は魔獣の生息地域としてそれなりに有名で、魔素こそ湧いては居ないが、魔獣同士が争い合う弱肉強食の世界である。通常、街道沿いの魔獣は王都の騎士団によって討伐されたり、冒険者たちによって数を抑えられていたりするが、野盗の時同様その整備も滞りがちの様子で、街道沿いにもかなりの数の魔物がひしめいていた。
とはいえ、いくら数が揃っていようが、相手がテレスタ一行であれば何にもならない。ヒュデッカのようにAクラスの魔獣が混ざっているならいざ知らず、精々良くてCランクの魔獣なのだ。テレスタから見れば、オヤツ程度の存在なのである。
魔獣たちが咆哮を上げるまもなく、それが全部悲鳴に変わる。テレスタが手あたり次第に毒槍の雨を降らせているのだ。
「そろそろ食事の時間だな。」
テレスタが言うと、皆、若干顔を引き攣らせた。テレスタは人間型の時は割と美食家の癖に、魔素の吸収となると突然見境なく何でも食べ始める。テレスタが魔獣を食べるときの食事風景はそれなりに凄惨なので、皆あまり近くで見たくはないのだ。
「ほれ、みんなもえり好みしていると、大きくなれないぞ。」
(成長期はあんただけよ!)
(私のは言われるほど小さく無い!)
(私のはもう十分に大きいですから。)
思うところは其々だったが、言葉にするのは控えておいた。間違っても魔獣の生肉など食べたくはない。
「ああ、人間型で食事するのは面倒だなぁ。今だけもとに戻っちゃダメかな?」
「「「ダメです!!」」」
3人の息がぴったりと合った。こんな街道沿いで何十メートルもある身体に戻って、もし人に見られたら大変なことになる。王都北に巨大魔獣出現!討伐依頼!となるのは避けられない。そんなリスク、ここで負う訳にはいかないのだ。しかも、高々オヤツ程度のことに。
「あんたねえ、私ですら亜竜化を我慢してるんだから、その位我慢しなさいよ。私はもう一人で先に行ったっていいのよ?」
「ぬう、それは困るな。解った、今日のところは諦めよう。」
「今日のところは、じゃなくてね、こんなことでイチイチ人化を解くのはやめなさいよね。」
ウンザリとした表情のカーミラ。だが、まあテレスタが食欲旺盛なお蔭で、他の3人は無駄に魔素を消費せずに済んだわけで、人化さえしてくれていれば悪食くらいは目を瞑ろう…と、彼女は思う。
街道は基本的に平坦で、隠れる場所も灌木等が殆どであったことから、テレスタのピット器官と毒槍によってあっさりと魔獣との戦闘は片付いていき、一行はほどなくしてアルダーの城壁が見える地点までたどり着いた。
「わあ、これは、凄い!」
カーミラが思わず感嘆する。アルダーの城壁は闘技場のように巨大な円を描き、その威容を誇るようにいくつもの豪奢な装飾が彫りこまれている。城壁の高さは30メートルほどはあるだろう。そしてその城壁上には多くの見張りが立ち、日夜警戒に当たっているようだ。マノン峠からの魔獣の侵攻は日常的に起こっているようだし、もともと交通の要衝に建てられ、北のガラハッド王国との戦闘を幾度も退けていると聞き及んでいる。
「本当に壮観ね。人間族は本当に、ものを創り出す才能があるのよね。」
ミスティが感慨深げに頷く。
“私達の古城を創り出したのも、古き時代に龍王に尽くした人間族だったと聴いています。”
(なるほど、ああいった建築は全て人間族の手によるものなのかもしれないな。ダークエルフの村では木の根を少し使役して創り出した簡素な住宅だったし、他の種族にしても似たようなものなのだろう。)
「さ、もう一息でアルダーだ。ともかくまずは城壁の中に入らないとな。」
「ひ、な、何だ貴様ら!?なんという!?と、止まれ!」
「ど、どうなってんだ!?」
「うわあああ!こっちに来るな!」
一行はアルダーの門にて入場許可を得ようとしていたところ、衛兵や一般の人々からも拒絶反応を向けられ、オロオロとしてしまう。
「何だ?この反応?」
戸惑うテレスタ。周囲の人々の視線はもっぱらテレスタ一人に集まっている。どういう事だろう?
「ああ、もしかしたらアルダーは魔術都市だからさ、魔素が見える人間が多いんじゃないの?」
というミスティ。ああ、そういう事があったな、モレヴィアのギルドホールでも何度か、やたらとおびえた様子の冒険者が居たことがあったが…あれはそういう事だったのかもしれない。
「じゃあ、この反応はどうしようも無いのかな?」
思案顔のミスティ。ひとしきり何か考えたようだが、
「ま、何か違反をしているわけじゃないしねぇ。慣れてもらうしかないんじゃないかしら。」
割りにあっけらかんとしている。テレスタ達ののほほんとした会話を知ってか知らずか、門番は必死の形相でテレスタ達に留まるよう要請してくる。
「と、ともかく、ここで暫くお待ちください。」
「あ、あの、アルダー冒険者ギルド総統にモレヴィアのギルドから話が行っているかと思うのですが…。これが、その書面です。」
「わ、解りました。それも確認してきます。」
引き攣った笑みを張り付けて足早に去っていく門番。悪い人じゃないんだろうけど、こうも怯えられると中々ね。そして自分たちの周りには遠巻きに円陣を組むようにしてこちらを伺う人々。ヤレヤレ、これは前途多難かも知れないな…。
待つこと暫く、アルダーのギルド総統が、先ほどの門番に連れられてやって来た。彼の顔にもまた、引き攣った笑みが浮かべられている。もしかして、アルダーではこの反応がデフォルトか?と不安になるテレスタだった。
いつも有り難うございます。
何だか自分で予定していなかった枝葉が広がっていく感じです。
こういう感覚も中々に面白いですね。




