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毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
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中毒と亜人の解放。

 翌日の昼。テレスタはこの部屋の中に居るすべての亜人たちを開放すべく、行動を開始した。先ずは閉じ込められている亜人に念話を送り、現状と今後の動きを伝える。

 動きとしては、先ず、テレスタが施設周辺の見張りをピットから割り出し、全員の座標に睡眠ガスの術式を組む。安全が確認された時点で牢の鉄格子をカーミラとミスティが風魔術により切断。施設より脱出する。脱出後は散り散りになるのが普通であるが、敢えてそこは散開しないよう伝えてある。

 

「さて、それでは、先ずは見張りの位置確認と術式の組み上げか。」


 ピット器官をフルに活用する。施設周りに多くの人員は割かれておらず、牢を守る者と門番が数名居るのみだ。手早く催眠ガスを発動させると、全員が昏倒した。


「よし、じゃあカーミラ、ミスティ、鉄格子を切り落としてくれ。」


「「了解。」」


 ガギン、という音が鳴ったかと思うと、鋼鉄でできた鉄格子があっさりと切断される。周りの亜人たちはその力に呆気に取られている。


「あんな強力な風刃、見たことが無い…アンタたち、一体…?」


 そう言うエルフに少しだけ笑顔を向けるも、特に何も答えない。通りすがりのお人好しですよ。


「皆、脱出は済んだか?そうしたら、隊列を組んで、太守の館まで向かうぞ!」


 テレスタは全員に指示を出し、隊列を組んだ状態で徒歩で太守の館へと向かっていく。先頭は捕まっていた亜人の一人に任せ、左右をカーミラとミスティ、殿をオリヴィアが務める。

 ザッザッと進んでいく亜人の集団に怪訝そうな顔を浮かべる住人。やがて、前方に衛兵たちが現れる。


「と、止まれ!貴様ら、一体どういう――」


 邪魔な衛兵は出てきた傍から眠りにつかせる。テレスタは実は今オリヴィアの光の術式を纏い、視認できなくなっている。いわば透明になって動いているようなものだ。顔が割れないよう細心の注意を払ってこれを使う事にした。

 衛兵は自分の身に何が起こったかもわからないうちにバタバタと倒れていく。うん、良いデモンストレーションになっているな。この町全体が亜人迫害・奴隷化に賛成しているならいざ知らず、住民の反応を見てもどうやら上層の者達だけが一方的に亜人差別政策を推し進めていると言えそうだから、後々王都からの使者が付いたときには、それなりにこちらに有利な言質を取ることが出来るんじゃないだろうか。

 だとすれば後は…





「止まれ!貴様ら、ここが太守のおわす館と知っての狼藉か!」


「我々は話し合いの場を持ちに来たのだ!狼藉など働いていない!」


 亜人の一人が言った。門番の衛兵たちは殺気立って返す。


「黙れ!亜人ごときが、邪な考えを持って太守に盾突こうとは!」


 外ではそんな不毛なやり取りが始まっている。やれやれ、先入観って怖いね。何で亜人であるだけで邪な考えを持っていることになるのだろうね?


「太守はどうお考えになる?」


「ぐ、が、た、頼む、その、薬をもう一度だけ…。」


 情けない声で嘆願する太守の姿が、そこには合った。



‐‐‐‐‐‐


 テレスタは亜人の隊列が太守の館にたどり着く以前に太守の執務室へと侵入していた。透明化と睡眠ガスがあれば潜入などと言う程の事をするまでも無く表玄関から堂々と入ることが出来る。

 執務室では、太守がなにやら黒い笑顔を浮かべてどこぞの商会の人物と会話をしているようだ。


「今回も、首尾よく亜人の頭数は集まった。お前たちが亜人を引き取ってくれるお蔭で、この町も奴らの脅威から守られて、有り難い限りよ。」

「いえいえ、こちらこそ、やはり人間族の生活が最優先ですからなぁ。」


 取りあえず、簡単に言質を取らせてもらって有り難う。太守が黒で間違いない様だな。

 テレスタはどこぞの商会の男を瞬時に眠らせ、太守の横に立つと、首筋にチクリ、とやってやった。


「な、何事だ!っへあああ!?」


 誰も居ない空間からいきなり刺されたのだから、驚くのも無理は無い。だが、それにしたって奇妙な声を漏らすものだ。その原因は、テレスタが撃ち込んだ毒物質。いつ使おうかと悩んでいた「中毒」だ。

 テレスタは毒属性魔術でヘロインを創り出し、直接首筋に投与したのだ。いきなり死なれては困るから量には気を使ったが、どうやらショック死していない辺り、効果はあったらしい。もとよりこんな輩を解放してやろうとも思わないので、大人しく捕まって頂いて、王都で反省する機会を与えて差し上げよう。


「さて、太守殿。これが見えるかな?」


 テレスタは徐に、小瓶をひとつ取り出す。水が入っているだけの小瓶だ。


「今、貴方の身体に流したのは、この小瓶に入っている液体だ…。」


 太守の目が血走っている。もはやこの水以外のことは考えらえない、といった形相だ。


「この液体が欲しくば、少し、付き合ってもらうぞ?」


 そう聞かせると、太守はガクガクと首を縦に振って了承する。


「お、お願いだぁああ、早く、薬を…。」


 視線が左右に泳ぐ。中毒ってのは強力だな。暴れないように軽い麻痺毒も打ち込んでおいたが、必要なかったようだ。ちなみに、太守に対して使う毒を魅了ではなく中毒にしたのは、単に魅了は筋肉毒が強烈すぎて太守が即死してしまうからだ。


「良かろう、では、こちらへ一緒に来てもらおうか。」


 そう言うと、太守の館前庭が見えるバルコニーへと向かう。太守は必死に追いすがってくる。


「このバルコニーの前面で、ここに居るすべての亜人を開放するよう宣言しろ、そうすれば薬はくれてやるぞ?」


「は、はい、はいい!」


 言うが早いか太守はバルコニーの欄干まで足を縺れさせながら小走りで向かい、これでもかと大声で宣った。


「ここに集まっている亜人を全て解放しろおおおお!今すぐにだあああ!」


「もう一度。」


「ここに集まっている亜人をぉおおお解放しろおおおお!」


「…太守の名に於いて。」


「た、太守の名に於いて命ずるううう、亜人を、解放しろおおお!」


 さあ、この位でよろしかろう。見物の奴らにも十分聴こえたろう。頑張った太守はお疲れのようだから、ここで暫く眠っていただくことにでもするかな。

 テレスタは強めの催眠ガスを発生させ、興奮状態の太守を眠らせる。後のことは後のことだ。縄で縛って執務室にでも放り込んでおくとしよう。


‐‐‐‐‐


「ここに集まっている亜人を全て解放しろおおおお!今すぐにだあああ!」


 バルコニーから太守が叫んでいる。


「な、何だ?太守様、一体何を…。」


 太守は亜人をとにかく開放するように命令している。お互いに顔を見合わせる衛兵たち。亜人を非合法奴隷として売り飛ばすことで良い思いをしてきた彼らとしては、この命令の意味がさっぱり解らない。もしかすると自分の身にも危機が及ぶのでは?太守に見捨てられたか?衛兵たちの疑念は増してゆく。


「太守もああ言ってるぞ?まだ私達を捕縛するつもりか?」


「く、ええい、貴様ら、うろたえるな!無手の亜人などさっさと鎮圧してしまえ!」


 リーダー格の男が叫び、集まっていた衛兵もそれに続く。


「おお、亜人は敵だ!自由に等するな!」


 太守の振り撒いた混乱を何とか押しのけ、士気を高めようとする衛兵たち。もはや退路は無いと判断したのだろう。亜人に切りかかろうとするが、


 ドンッ!


「もう、手加減なしでいいのよね?ここからは。全く、面倒なことしてくれるわよね。」


 カーミラの風の弾丸が炸裂。衛兵たちが地面から吹き飛ばされ、転がる。ようやく立ち上がろうとした衛兵に向かって踏み出したのは、


「少しは出来るんでしょうね?戦いで私を退屈させないでよ?」


 風の付与を纏ったミスティと、光に包まれたオリヴィア。


“取りあえず、全員から視界を奪いましょうか。”


 そうして組まれる術式は闇を操る術式。衛兵一人一人の眼前に、光の一切届かない闇が出現する。


「うわああああ!目が見えん!」

「ど、どうなってるんだ!これは!」

「た、助けてくれ!」


 騒然となる衛兵たち。その衛兵たちを、ミスティが体当たりで空中へと巻き上げる。


「「ぎゃあああああああああ!!」」


 視界を塞がれたまま錐揉み状に吹き飛ばされ、地面に直撃する。


「ふん、暇つぶしにもならないわ。」


「ミスティ、ちょっとやり過ぎじゃない?」


「大丈夫よ、死んだりはしてない筈だから。」


 軽口を叩きあう二人の周囲には、うめき声をあげる衛兵がそこかしこに転がっていた。


 

いつも有難うございます。

今日は10000字ほど書きました。

中々にハードですねー。楽しいから良いんですが。

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