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毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
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港町タリン

 港町タリン。王都の玄関口であり、内陸の交通の要衝である。ロアーヌ河中流域に位置し、昔から林業の町としても栄えてきた。人口は5万人余りで、地方都市としてはかなり大きな部類に入るだろう。町中に王都からの商人たちが溢れ、カフェで情報を交換し合ったり、交渉事を行っているのが目につく。


 こういった交渉事とあまり縁のないテレスタ達一行は、この町に一日滞在した後、アルダーへ向けて陸路を移動することになっている。ただ、この町はどうも王都の後ろ暗い連中がかなり幅を利かせている土地でもあるらしく、テレスタは先ほどからあまり好意的では無い視線をそこかしこから感じていた。


“おそらくは、奴隷商人の手の者でしょうね。”


 オリヴィアが念話で全員と意思疎通を図る。そうだろうな。この町で様々な都市から連れてこられた奴隷たちを選別し、貴族向けの商品になる者を選別して、王都の本部へと送り届けるなどしているのだろう。当然、町の太守は見返りを受け取ったうえでそれを黙認している、ということになる。

 テレスタはそれはそれであまり気分の良いものでは無いと思うが、ここで面倒事を起こして余計な衆目を集めたくない。王都方面では流石にまだまだ名前も顔も知られていないし、なるべくならそのまま隠れるように過ごしたいと思いっていた。

だが、まあ相手が何か仕掛けてくるのなら、それを相手にするのは吝かでは無い。こちらを攻撃してくるのであれば、相応の手段は取るつもりだ。


「明日朝まで面倒事が起きなければいいけどな…。」


 テレスタは独り言を呟いた。じろじろとこちらを品定めする視線を見るにつけ、このまま無事に済ましてくれるとも思えないが、出来ればそうして頂きたいところだ。





「なんっで、何処の宿も断られるのかしら。」


 カーミラは苛立たし気に声を荒げる。これで何件目かは解らないが、兎に角宿泊を拒絶される。門前払いなんかもざらにあった。お金の問題ではなく、風貌の問題と考えて間違いないだろう。


「かなり亜人に対する差別の酷い場所ではあるようだな。もしかすると、王都も亜人の奴隷が多く暮らす場所なのかもしれない。」


 テレスタはそう判断する。今後用事が出来たとしても、中々に入り込むのは難しい場所なのかもわからない。


「住人も亜人を差別しているというより、何かやむにやまれず拒絶しているって感じよね。」


 という言葉を漏らすのはミスティ。確かに、住人から差別的な口撃を受けたりすることは無いのだが、なるべく関わり合いになりたくない、というのが透けて見えるような態度を度々受けている。


“おそらく、太守の方針があるのではないでしょうか?例えば亜人を囲っていたら何か処罰を受ける、とか。”


「もしくは、亜人への襲撃が相次いでいるから、それに巻き込まれないように、とかその辺りかもしれないな。」


 やれやれ、こんな町に滞在せずに、もう出発してしまうか。そう思ってテレスタは町の外へ出ることを皆に促す。それに頷く3人。アルダーまではまだかなりある。こんなところで油を売るつもりも無いのだ。

 しかし、町を囲む城壁から出ようと門まで歩くと、前方を数名の衛兵が塞いだ。


「そこの4人、止まれ。身分証を見せろ。」


 有無を言わさぬ口調で、衛兵のリーダーと思しき者がこちらに話しかけてくる。身分証の提示など特段問題は無い。剣呑な雰囲気だが、断る理由も無かった。


「ふむ、モレヴィア・ギルド職員に、冒険者が2人か。ちょっとそこで待っておれ。この町では亜人の単独での行動は禁止されている。」


 テレスタは表情こそ変えなかったが、その決まり事に眉を顰める。亜人の単独行動?この町では亜人というだけで奴隷扱い、という事なのだろうか?程なく、衛兵が戻ってくる。


「やはり、お前たちを外に出すことは出来ん。太守の許可証が必要になる。」


「アンタたちねぇ、なんでモレヴィアからここに来たばっかのあたし達が、人間族じゃないってだけで外出許可が必要になんのよ?しかも太守からの許可証?バカじゃないの?」


 ギロリ、と睨みを聴かせるカーミラ。彼女のいう事は至極全うで、そもそも町の中に入る、ではなく町の外に出る、そこに何故そんなにきつい締め付けが入るのかが解らない。

 しかし、そんなカーミラの発言に返って来たのは、さらに信じられない返答。


「ともかく、町からの外出は禁止だ。貴様らの処遇は追って言い渡す。亜人ごときが、どのような経緯でこんなものを作ったか知らんが、偽造の身分証も預からせてもらうぞ。お前たち、こいつらを連行しろ。」


 ぞろぞろと前に出る衛兵たち。偽造の身分証?何を言っている?一瞬疑問に思ったテレスタであったが、すぐに思い至る。ああ、この町は権力層が軒並み腐っているのだな、と。非合法な亜人の人身売買でかなりの金を設けているようだ。こうして身分証を無理やり取り上げて、無力化した後どこかに軟禁して、組織に売り渡すのだろう。その金は領主から衛兵などに流れて、この町の行政と軍部が結託するようになっているわけだ。

 だが、一つ彼らが勘違いをしているとすれば、テレスタやその連れは彼らに無力化出来る相手では無いということだ。


「あんた、ふざけんのも大概に―」


“カーミラ、よせ。今は捕まっておくぞ。”


 テレスタは念話でカーミラを制止する。どうせなら捕まっている亜人は全て解放してしまった方が良い。入れておく箱をいちいち分けておけるほどこの町は大きくもなさそうだし、箱を完全に破壊して亜人達を開放した後、太守には少し痛い思いをしてもらおうじゃないか。





 案の定というか、普段であれば刑務所として使われているであろう施設には、エルフやダークエルフ、種々雑多な亜人と呼ばれる人々が詰め込まれていた。テレスタはそこで空間圧縮しておいた連絡器を取り出し、魔力を流す。


「ユマ殿、聴こえるか。テレスタだ。」


「テレスタさん、こんにちは、今どちらですか?」


「タリンに着いたところだが、少し面倒事があってな、シーラ部長に変わることは出来るか?」


「ええ、お待ちくださいね。」


 ユマが快活に返事をすると、しばらく沈黙が流れる。


「テレスタか、シーラだ。何か厄介ごとかい?」


「ああ、どうやらタリンの太守が亜人を非合法奴隷にして売りさばいているみたいでな。今私たちも捕まって隔離されているのだ。」


「おいおい、あんたたちが揃ってわざわざ捕まったってのか?」


「ああ、まあ被害者がどれくらい居るのか知りたくてな。結果として、タリンの刑務所と思しき施設が全て亜人の収容施設に成り変わっているようだぞ。」


「なんとまあ。それで、あたしに連絡してきたってことは、何かやらかす予定だと?」


「そういうことになる。この施設をぶち壊したのちに太守様を少しお仕置きするつもりだから、事後処理の出来る伝手が在ったら今のうちに手を打ってほしい。」


「また、面倒事を私に持ってきやがって…まあ、王都ギルドから国に依頼を出して動かすことは出来なくはないだろう。『王都ギルド所属の亜人冒険者パーティが相次いでタリン周辺で消息を絶っているため、その捜索依頼』ってところかな。まあその辺は上手くやっておく。王都ギルドの方でも何かしら嗅ぎつけているかもしれない。オンタイムであちらに文章を送れるから、対応はそれなりの速さで出来る筈だ。それで決行はいつだ?」


 それを聴いてニヤリと笑みを浮かべるテレスタ。


「今晩は宿も取れなかったからここで寝ることにして、明日の昼頃に派手に動くつもりだ。なるべく人目に付いた方が、事件性が伝わるからな。」


「早いな。まあ、なるべく穏便に済ませてくれよ、お前の顔が割れてくると色々と面倒だからな。」


「その辺りは大丈夫だろ。ちょっと面白い術式も試してみたい所だしな。」


 グフフ、と笑うテレスタに、フッと息を吐く音声が届いた。きっと向こうでシーラはあきれ顔で苦笑いを浮かべているのだろう。



いつも有難うございます。

昨日お風呂にハッカ油を数滴たらしたら、

かなりいい感じに風呂上りがさっぱりしました。

執筆が進まなくなったときのリフレッシュに如何でしょう。

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