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毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
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アルダーへの道のり。

“私としては承服しかねると言いますか。何故このような事になるのかと。”


 オリヴィアの語気は強い。それはそうかも知れない。800年も綺麗に保ってきた居城の周辺が、現在はアンデッドの群れに穢されている。いや、テレスタが山ほど創って、城の警備にと連れて帰って来たのが悪いのだが。


“ま、まあ、これでオリヴィアも晴れて外との出入りが出来るようになったのだし、いいじゃないか?私も冥属性のスキルが上がってくればアンデッドでは無くてきちんとした精霊や、魔獣を直接使役したりも出来るようになると思うし…そうしたら、この門番たちごと術式を入れ替えればいいのだし、な?”


 一応テレスタもこれで気は使っているのだ。オリヴィアはいつも留守番のような役割で、外に出たそうな雰囲気は醸し出していたのだし、これで我慢できるなら安いものでは無いか。


“…テレスタ様がそこまでお気を使ってくださるなら、仕方ありませんかね…。”


 オリヴィアも渋々了承し、アンデッド部隊はそれぞれ配置に着く。基本的に、魔獣は思考らしい思考は持ち合わせないが、こうして縄張りを巡回させるような形で術式を組めば、それに沿って歩き回るくらいの仕込みは出来る。奴らを飼いならすよりも余程楽だし、効果はさして変わらない。見てくれには、ちょっと目を瞑ってもらえれば。


“ふふ、これで私もテレスタ様と一緒に旅が出来るという訳ですね…2人っきりの時間も上手く作らないと…ブツブツ…。”


 何て切り替えの早さだ。スーパーポジティブだな。だが、その念話は拾っていると問題がありそうなので、とりあえず流す。


“さて、居城の警備もとりあえず揃ったことだ、これから私達は第3都市アルダーに向かおうと思う。”


 テレスタは勢い込んで言った。


“まず、ここから直接モレヴィアまで飛び、そこで人化の術を展開して、モレヴィアから王都行きの船に乗り込む。大体ロアーヌ河を20日あまり下ると、王都メラクに貨物を下ろす港町タリンに到着する。ちょうどパラの東のはずれだな。そこからは徒歩、私はカーミラに風の付与を貰って、後二人は風と羽がそれぞれあるから、移動速度はかなり出る筈だ。多分アルダーまで10日ほどで着くことが出来ると思う。アルダーに入る際に身分証の提示を求められるかもしれないから、モレヴィアのギルドでオリヴィアとミスティの冒険者登録をしてしまおう。”


「私たちは、ギルド職員にはなれないのかな?」


 人間の姿に戻っているミスティが質問する。


“なれないことも無いだろうが…あまりシーラ部長にこれ以上の負担をかけたくないというのもある。今のところ、ミスティが船を沈めていた魔獣であるという事も秘匿されているしな、あの人が潰れると色々面倒事が湧いてくると思って間違いない。”


「それは、そうね。今となっては、私も人間族と対立したい訳じゃない。人間への恨みみたいのもあったけど、それもすっかりどこかに行ってしまったみたいだしね。」


 ミスティはさらりとそう答える。これは、人間族にとっては幸運だったと言える。彼女と敵対するのと、彼女を懐柔するのとでは、やはり後者の方が明らかに人間族にとって被害が少ないだろう。短絡的な恨みでレビウス軍が行動を起こしてしまえば、そのまま港湾都市ごと廃墟にされてしまう可能性すらある。彼女にはその力があるし、何せ彼女はパラ大平原の魔獣を殲滅しているのだ。シーラもそれが解っているからこそ、ミスティがテレスタの傘下であるうちは、その存在を黙認することにしているわけである。


 大体の打ち合わせが終わると、3人と一匹はモレヴィア近郊へ空間転移魔術で移動する。手荷物は霊水を空間圧縮して詰め込んだもののみ。これがあるだけで、魔素切れに対する安心感がどれだけ違うことか。何しろアルダーまで1ヵ月の道のりであり、そこからさらに古代文書記録館で調べものに当たらなければならない訳だ。ここのところ空間魔術や人化魔術が飛躍的に合理化したとはいえ、それでも何もなしでは心もとない。

 続いてモレヴィアでは冒険者登録を行う。オリヴィアやミスティは世間にはそうは居ない美女であるから、カウンターでは非常に目を引いていた。案の定、登録が終わるや否や複数の冒険者パーティから勧誘され言い寄られていたが、テレスタとカーミラの連れと解ると、彼らは蜘蛛の子を散らすように離れていった。白黒コンビはモレヴィアではかなり名前が通って来ているようである。


「さ、ここからは船旅だな。港町タリンまではかなりある。のんびりと行こうじゃないか。」


 船着き場へとやって来た4人。かなり大きな商船に便乗して、王都方面へ向かう。


「えー、なんか面倒ね。もうすっ飛ばして進まない?」


 ミスティがあからさまに渋面をつくってテレスタに提案してくる。移動に風を使えるのだから、さっさと行ってしまえばいい、という考え方だ。何百年かそれでやって来たのだから、今更船でも無い、という事だろう。


「向こうでもし戦闘にでもなってみろ、魔素が切れたらシャレにならない。今は我慢だ。」


「えー、でも私は人間状態なら門から魔素を取り込めるしさー。先に行っちゃだめかな?」


 よほど船旅が面倒だと見える。


「お前勝手に進むと途中で船沈めたりするだろ。今回は諦めろ。」


「失礼な!もう船なんて沈めませんよーだ。」


 テレスタとしては流石に船を沈めないだろうな、とは思うが、それでもいい獲物が居たらミスティはどうなるか解らないから、目の届く範囲にとどめることにする。


“船の旅ですか。私も初めてだから、少し楽しみですわ。”


「中々ゆったりしていていいぞー、船旅は。」


「そうねー、レビウスに行く時なんかも、凄くのんびりしてて中々良かったわよね。」


 そんな4人を遠巻きに見ていたモレヴィアの人々を肩でどけながら、のしのしと歩いてくる影が数名。


「よお、そこの亜人。随分と羽振りがいいのか?そんなね~ちゃん共侍らせてよぉ。」

「この辺の田舎者か?王都じゃ見かけない顔だな?亜人が同乗するなんて反吐が出る。」

「人間様の前で調子に乗っちゃいけねぇってママに習わなかったか?」


 どうやら王都方面から出稼ぎに来て、帰るところの冒険者どもらしい。モレヴィアは冒険者には非常に実入りの良い町であるため、王都から出稼ぎに来るものも多い。魔獣の素材集めやナイザー山地の鉱石などを目的に集まってくるのだ。王都方面ではどうしても隊商護衛や貴族の護衛任務が多く、血の気の多い冒険者はモレヴィアまで度々足を伸ばすことになる。

 騒然とした船着き場。モレヴィアの人々は若干興味深そうに、かといって絶対に関わり合いにならないように、遠巻きに様子を見ていた。白黒コンビに手を出すと、生命にかかわる。誰が立てたのか解らないが、そんな噂がまことしやかに流れている。


「だからよー、そこの生ッ白い亜人野郎。この場で土下座して俺の靴舐めろや。そしたら、船に乗るのは許してやるよ!女どもは頂くがなぁ」


 ニンマリと口元に笑みを浮かべる男。「ああ、喧嘩売っちまった!あいつらもうお終いだ!」と野次馬の中から声が上がる。


「ああん?何言ってんだ雑魚ども?誰がお仕舞――」


 言った瞬間、男の顔面に足がめり込む。両足だ。空中で水平に。そのまま船着き場を一直線に吹き飛び、海へ落ちていく。


「面倒ね。本当に、いつもいつも何なのかしら!」


 カーミラは風を纏って、得意のドロップキックを炸裂させていた。


「な!てめえら、俺たちが王都のCランク冒険者だと―」


 熱線が男の頭を薙ぐ。瞬間的にハゲ散らかした男は声も出ない。


“確か、冒険者同士のトラブルは自己責任、でしたよね?”


 オリヴィアがニッコリ笑って念話をテレスタに送る。外野とハゲにはオリヴィアがニッコリと笑みを浮かべたことしか解らない。その氷の微笑に身震いする男性多数。「おいおい、緑髪の美女も相当やべーぞ!」野次馬から声が上がる。


「ふ、ふざけんなよこいつら!」


 最後の一人は間抜けな声を上げながら、ミスティを人質にでもしようと思ったか、突っ込んでくる。だが、


「ごぺ?」


 さらに間抜けな声を上げる。顔に、先ほどの冒険者と寸分たがわず突き刺さるドロップキック。


「カーミラ!いいもん見せてもらったわ!これなんて言う技なの?」


 風の付与をしたドロップキックの威力は凄まじく、これまた先ほどと全く同じ軌道を描いて船着き場の外へリングアウトしていく最後の男。

 静まり返った船着き場。


「あー、何というか、今後は注意してくれよ。私達もギルド職員なのでな。」


 出遅れた。っていうかうちの女子共は手が早すぎる。すっかりやることの無くなったテレスタに声をかけられたハゲが、ガクガクと首を振っていた。


いつも有難うございます。

ついに100PTに到達しましたー!

みなさん有難うございます!

これからも宜しくお願いします!

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