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毒牙の泉  作者: たまごいため
湿原にて。
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源泉へ。

 この世界の魔術はイメージが圧倒的に重要な基礎となっている。どのような魔術を行使するにしても、先ずはイメージングがカギを握っているのだ。人間が魔術を発動する場合においては、たとえば火炎の魔法であれば、はじめにその形状・温度・性質などをイメージしていき、それから敵対している相手や状況に対してどのような軌跡を以てその魔術が影響を及ぼすのかを演算する。簡単にいえば、魔術の通り道をイメージするということになる。そのイメージを基にして、そこに詠唱を加えることでイメージを強化・グラウンディングさせ、現実の中に顕現させることが出来るようになる、という過程を経ている。

 詠唱は人間が創り出した叡智とでも呼べるもので、どうしても個人個人でバラバラになってしまう魔術イメージをある程度まとめ上げ、発動を円滑にし、実用性を底上げするのに大きく貢献している。ただ、その一方で新しい魔術を創り出す必要がある際には、現在使用されている詠唱が人間の集合意識や無意識にかなり刷り込まれてしまっている影響から、どうしても現行の魔術体系に縛られやすく、その開発は非常に困難なものになっている。

 だが、一部の天才的な魔術師やそもそも詠唱を持たない魔獣がそれらを行使する場合においては、イメージ力だけで魔術を顕現させているため、詠唱による制限を全く受けずに新しい魔術を創りたいだけ創り出せる、ということになる。尤も、魔素・魔術にはそれぞれ属性があり、術者自身も生まれつき1種類ないし2種類の属性の魔素を体内に宿すことがほとんどであるため、自分自身の持つ魔素が、行使しようとしている魔術に対して適性が無ければ、いかにイメージがしっかりと出来ていたところで顕現できないか、出来るとしても膨大な魔素を消費したうえで本来の適正の数分の一の影響力しか与えられない、ということはあるのだが。


 今まさにテレスタが行使しようとしている毒槍はまさにこういった経緯で新しいイメージを顕現させることで生まれた魔術といえる。火球が飛んでくる様をヒントに、頭の中で毒槍のイメージを創り出し、その軌道を創造し、詠唱をすっ飛ばして顕現させたのだ。たいがいの魔獣は知性と言えるほどのものは無く、そもそも無意識に魔術を行使しているので新しい魔術を自分から創り出すなどということは行わないが、テレスタには知性があったためにそれが可能になったと言えるだろう。


 (そっこだー!!)


 内心少し子供のような叫びをあげて、空中に浮かぶ4本の毒槍を火球が飛び出した位置へ向かって2本、自分の身体に取り付いている火ネズミの身体へ向けて2本、豪速で射出する。


 「ギィイイイイイッ」


 背中のエルム・ソレノドンの方も術の展開には気付いたようで、警戒の声とともにテレスタの背から跳躍して回避を図る。その背に2本のスピアが迫る。1本目は背中のわずかに上を通り辛うじて回避するも、


 ザクッ


 2本目の毒槍は無慈悲にも左後ろ脚を貫通した。


「ギィャァァアア!!!」


 猛烈な痛みに、跳躍した後着地することも出来ず、身体に纏った火炎の術式を維持することも出来ずに転げまわる。しかし、それは毒霧に対する防壁を失ったということで、後ろ足の毒槍からの浸食のほかに、呼吸器からも神経毒が肺に侵入し、あっという間にエルム・ソレノドンの全神経の自由は奪われ、全身を痙攣させていく。


(いよし!もう一匹の方は!?)


 毒霧が晴れるまではもう一体の状態を肉眼で確認することは出来ないが、毒槍を射出していこう火球がぱったりと止まっている。

 相手の絶命を確認するため素早く毒霧を抜けると、そこには口から肛門に向かって毒槍で貫かれ、即死したであろう火ネズミの躯が一体。身体を貫通した槍によって地面に縫い付けられ、倒れることも出来ずに絶命していた。


 暫く周囲を警戒していたテレスタだったが、毒霧もまだ漂っていることだ。ようやく一つ息を吐いて地面に盛大に音を立てて倒れ込んだ。


(…ふううう、あっぶなかったぁ。。。)


 咄嗟に毒槍をイメージ出来たからこそ危機を挽回できたが、そのままであったら数十秒か1分の後に死んでいたのは間違いなく自分だったと確信できるほど、強力な火炎の魔術だった。

 毒膜やら毒霧やら毒槍やらの行使で、すっかり魔素を使い果たしてしまったテレスタは、しかし戦闘の終わった後で違和感を持つ。


(身体が、楽だなぁ。呼吸をしているだけで少しずつ体中の魔素が回復していっているような…?ああ、そうか、もともと空気中の魔素がふえている場所が気になって進んできたんだったっけ。呼吸をしてるだけでお腹いっぱいとか。。。良い場所だなぁ。。。)


 胡乱気にそんなことを考えていたが、やがて激しい戦闘で疲弊しきった彼は、知らず眠りに落ちていった。


‐‐‐‐‐


 明くる朝、テレスタは珍しくパリッと目覚めると、昨日仕留めたエルム・ソレノドンをさっさと胃の中に収めてしまおうと思って動き出す。

 あれだけの激しい戦闘を行っていたにもかかわらず、体中の魔素は空気中を漂っているそれのおかげでほぼ全快。なんという便利な場所なのだと内心感嘆しつつ、やっぱり口から何かを食べないと気が済まない!ということで、ネズミ2体を食べることにしたのだ。


 そして、昨日の戦闘の時そのままに毒槍に貫かれている2体のネズミをしげしげと眺めると、1体ずつ丸呑みにしていく。

 魔素が満タンなのだから、特に意味のあることでもないのだけれど…そう思っていると、身体から予想外の反応が現れ始める。


(まず、この獲物の魔素の量!今までの火ネズミの10倍はあるんじゃないか?凄い凄い!それに、自分の中の魔素の量がものすごく増えたような…どうなのかな?)


 テレスタはエルム・ソレノドンの番いを消化し始めると、自分自身の魔素のストックに明らかな違いが出始めていることに気付く。

 実際のところ、魔獣という生き物は、敵対した魔獣を捕食することで強くなっていくという性質がある。それは相手の体内に流れている魔素を取り込んで身体を成長させたり、魔素を補充したりできることももちろんだが、体内に魔素が満ちている状態であれば、取り込んだ分の魔素の絶対値が増える、ということが大きく影響している。

 そもそも魔獣という生き物は、通常の獣とは異なり、進化の過程でタンパク質の他に魔素を媒介として生まれたといわれている。そのため、魔素を体内に取り込む強い欲求が遺伝的に組み込まれているのだ。そして長い年月をかけて、希少な魔素をより多く取り込めるよう、捕食した獲物の魔素を余すところ無く使ったうえで余った部分に関しては、ストックを拡げることによってより生存競争に適した身体になっていくよう進化してきたのである。

 もっとも、成長期の魔獣が魔素を取り込んだ場合、殆どはそれが身体の成長に使われてしまうため魔素の絶対値が増えるということはあまり起こらないのだが、テレスタの場合現在の環境が空気中に漂う魔素を取り込めるという特異な場所であるため、絶対値の増加が可能になったといえる。

 

 それとは別に、テレスタは重要なことに気付いた。


(…身体の中の魔素が自動回復するってことは、この場所では毒が使い放題ってことだよなぁ。今後も火ネズミ位のやつだけならいいけど、もしもっと強力なやつが出てきたら、今のままじゃ大変だ!よし、あたらしい毒を沢山つくろう!…食休みの後にでも…)


 決断をスグに曲げてしまうテレスタであった。


 その日の夕方、朝方の食事の後の食休みで眠ってしまい、結局ほとんど1日寝て過ごしてしまったテレスタは、空気中の魔素がさらに濃くなっていく方向へと身体を進めることにした。

 ズルズル、ズルズルとゆっくり進んでいく。身体は大量の魔素を吸収しているため、進みながらものすごい勢いで脱皮を繰り返しており、相変わらず信じられないスピードで成長していっているのだが、生まれてこの方成長することが普通であったテレスタにとっては、何の変哲もない日常風景のようになってしまっている。

 そうして森を進んで大きな藪をひとつ抜けた先、忽然と開けた風景に無神経なテレスタも息を飲んだ。


 眼前に拡がるのは、驚くほど透き通った水を満々と湛えた、巨大な沼。対岸は肉眼では確認することが出来ないほど広く、見たところ水深はそれほど深くないのか、所々熱帯性の樹木が水面から空に向かって伸びている。遠くには鳥だろうか、はたまた鳥型の魔獣だろうか、青空を背景に飛び回る影が見え、沼を囲むように生えている原生林は魔獣の気配で溢れている。そしてその沼底のそこかしこから勢いよく水が溢れ、そこから濃密な魔素が漏れているのが遠目にもわかった。


(そうか、ここが、魔素の源泉)


そのことが一見してテレスタにも理解できた。

 

いつも有難うございます。

毎日書いていればいつかは上手くなる!

という体育会系のノリでともかく継続しています(笑)

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