パラの解放。
ミスティの話を聴き終わり、テレスタは聴いた情報を洗いざらい思い出して、それらをどうにかして整理していく。この世界はもとより魔素が枯渇状態であったこと。それが大陸の東側で起こった何か、が原因で有ること。その何かを抑えるために、大陸西側の竜族すべての魔素が使わたこと。どうやら現状で竜族はテレスタ一人であるということ。
“現状、竜族が他に生まれている可能性は無いのか?”
「どうだろうね、アタシには解らない。ただ、このパラの守護を父竜王ラームジェルグから任されて以来、魔術陣が止まった記憶はいくつもあるけれど、動き出した記憶はたった一回しかないね。それは、あんたのところの、ヒュデッカなんだろう?」
“それは、間違いないだろうな。だが…”
世界的に魔素が枯渇して久しい中、何故その魔素を最も食う龍王をこの世界が産み落としたのだろうか?その事に疑問が持たれる。場所柄、最も魔素が余っているヒュデッカが選ばれるのは解る。だが、何故その必要があったのだろうか?
「世界っていうのは、直観の中、王の思考の中に直接干渉してくるって、父からは聴いている。あんたにはそういうのは聴こえないのかい?」
“ああ、そういえば、似たようなものなら聞いたことがある。”
魔素を追いかけろ、知識を求めろ、人間族を救え。これらは、その直観にはたらきかけてきた言葉だ。恐らくは世界からの干渉だったのだろう。それにしても、もう少し具体的な干渉は無いのだろうか?これじゃ何をして欲しいのか殆ど解らないではないか。
考えていると、カーミラが口を開く。
「世界には、魔素を管理する執行者が必要だったんじゃないの?魔素が循環しない以上、この地上には慢性的に危機が迫ってる、ということなんじゃないかしら?」
言われてみれば、そうかも知れない。「世界」は地上を維持したいが、直接具現化出来たり、直接何かを与えることが出来ない。言ってみれば、魔素や資源を提供できるだけだ。だが、その魔素の絶対量が減少し、循環も止まってしまって久しいために、「世界」の側からただ提供するだけではもはや地上が成り立たない。そこで、龍王を魔素の豊かなヒュデッカに産み落とし、その管理を任せる。だが、以前のように竜族を生み出すほどの魔素は残っていないために、たった一頭でその用事を何とか済まそうと…。
(あれ?それって私の責任が世界レベルに重大だってことじゃないか?それはなるべく避けたいな…。ここは、ひっそりと執行者の存在意義を否定しておこう。)
“だが、とてもじゃないが人間族やダークエルフに危機が迫っているようには見えないんだが?執行者なんていらないんじゃないか?”
「それも、そうねぇ。おばあちゃんもあんな調子でのらりくらりと何百年も生きてこれたんだし。」
「だが、まあ危機と言うほどでは無いにしても、衰退程度なら有り得ない話でも無いだろう。パラの魔獣なんてアタシが滅ぼした後、何百年も経ってるのに殆ど回復してないしな。その辺も執行者がいれば、生態系が回復したりするのかもしれない。」
執行者、の下りは払拭しきれないらしい。それにしても、そりゃ滅ぼしたら回復しませんよ、と一瞬思ったテレスタ。だが、他の土地から流入することを考えると、百年あれば回復するのが普通だ。であるにもかかわらず、パラ大平原で魔獣と遭遇することは殆ど無かった。だからこそ、王都メラクとモレヴィアをロアーヌ河や陸路で繋ぐことが容易に出来ているのだ。それだけ、パラ周辺の生態系も衰退しているとみるのが妥当だろう。
そんなことを考えて、ふと視線を床から見上げると、ミスティがニヤリと笑みを浮かべてこちらを見ている。え?まさか殴り合いですか?もう流石に勘弁してほしいのですが。
「何か、勘違いしてるみたいだね。いや、もし龍王が一頭だけ生まれて管理を任されるんだってんなら、このパラの魔術陣の封印も解いてくれるんじゃないか、と思ってね。」
どうだい?という顔をするミスティ。いやいや、小生はヒュデッカの龍王と言うだけでも、心が潰れそうだと言いますのに、そのような重責はお受け致しかねまする。
「いいから、玉座まで来な!なぁに、乗るだけならタダだよ。所詮この平原にはアタシしか残っていないんだし、心配することなんざ何もないじゃないか。」
大体、ここの封印が解けてしまったりしたら、本当に他のところも回らなければならなくなるじゃないか!面倒事は断固反対だー!
言っているそばから、ミスティに首を掴まれ、玉座の真ん前へと連行される。ああ、封印が解けませんように…。いや、解けた方が世界の為かもしれないけど、誰か他の人が解きますように…。
「ほれ、座ってみなよ。一応守護者のアタシも倒したんだし、風魔術も使えるみたいだしなぁ?」
ニヤニヤと笑うミスティさん。何がそんなに楽しいのですか?私は田舎でひっそりと生きていきたいだけでしたのに。
「大将、まあいいじゃねぇの、諦めな。」
「主には、王という自覚が足りませんね。この際、領地が増えるのはむしろ喜ばしいというもの。」
「…統。」
「王様って楽しいんじゃないの?嫌なの?」
「まぁ、兄貴の気持ちも解ってやらない事も無い。」
「冗談ばかりじゃないんだよ。…この城の空気、解るかい?微量だけど魔素が混じっている。パラの広大な大地でたった一か所、ここだけはまだ、僅かに魔素が地中から湧いてきているのさ。でも、それもいつ潰えてしまうか、解らない。お願いばかりで本当にすまないが、ここの大地、あんたの力で解放してやってくれないか?アタシの父、竜王ラームジェルグが愛したこの土地に、もう一度生命を流してやってはくれないか?」
先ほどの冗談交じりの雰囲気とは打って変わって、両目に涙を浮かべながら頭を下げるミスティ。
う、ううむ、女性の涙には弱いなぁ。確かオリヴィアの時もこんなことがあったような。もう龍王にはなってしまったんだし、一つが二つになろうと、変わりはしないか?
“よし、解った。玉座に乗ってみるよ。動かなくても、文句は言わんでくれよ?”
「ああ、勿論だ。」
ニッコリとほほ笑むミスティ。ふだんのニヤリ、ばかりでなくて、こういう笑顔を増やせば印象も随分変わるだろうに。まあ、それはいいか。ともあれ玉座に座ってみないことにはな。
スルスルと玉座まで進み出るテレスタ。フゥ、と一息吐くと、玉座の上に飛び乗った。
(あ、人化した方が絵になる、と思っていたのを忘れていた。)
思った時には、玉座に着いていた。一瞬の静寂。あれ、やっぱり駄目だったか?などと言う、落胆とも安心とも取れるような感情が広がりかけたその時、 テレスタの真横で何かが キラッ と光った。なんだ?と思って振り向くと、そこには光っている自分の分身、ウダルの姿。
「おいおい、ウダル、光ってんぞ?」
「主よ、これはどういう趣向で?」
「あー、ウダルいいなぁ。」
「いいねぇ。」
そんな身内の言葉も知らず、ウダルはキラキラと光輝くと、テレスタと同じだった外観が少しずつ変化していく。角は根元からいくつか枝分かれしたものになり、顎から生えている角との間に皮膜が出来ている。瞳は深いビリジアンで、背骨に沿ってエメラルドグリーンの鬣が生えている。鱗は同じくエメラルドグリーンで、胴体と繋がる部分まで隙間なく鮮やかな黄緑色をしている。
「えーっと、ウダルさん?」
「…良。」
しゃべり方は変わらないのな。相変わらず何言っているのか解らん。この変化は、「竜巻の王」になった証なのだろうか?使える魔術の精度や量に関しても調べる必要がありそうだが…、こういう変化を見せつけられると、要するにすべての属性の首をそろえて、各地を行脚しなさいよ、と言われているような…。
「どうやら、本当に封印が解けたみたいだね。」
ミスティが思考に割り込むように話し始める。その視線は天上。ヒュデッカの時と同じように、魔術陣が動き出し、青白く輝く同心円の軸が一本に纏まっていく。
ポーン
気の抜けた音ともに、それはキラキラと輝きだす。もともと地力が衰えていたパラの大地。流石に、ヒュデッカの時のように大平原中の魔素が突然濃くなる、なんてことは無いだろうけれど、それでも、少しは環境がましになるかも知れない。それに、
「ヒュデッカからの魔素も流れ込んで来ているな。」
魔術陣を開通によって、ヒュデッカの魔素も流れてきているのが直ぐに感じ取れた。こうして魔素が循環するうちに、確かに、各地の地力が上がって、豊かになっていくかもしれない。
「有り難う、テレスタ。あんたのお蔭で、パラは蘇った。」
“言う程の事でもないだろ、ただ玉座に座っただけさ。”
「それでも、あんたはそれを成し遂げてくれた。守護者として、ラームジェルグの娘として、礼を言うよ。有り難う。」
ミスティは、またも頭を下げた。こうも何度も頭を下げられると、なんだかいたたまれない気分になってくる。私は何か特別な事をしたわけじゃないと思うんだが。
「ところで…テレスタ様。」
口調の変化に危機感を抱く。見れば、頭を下げた状態で、ニヤリと口角を上げる亜竜の姿が。
「私も、これであなたの眷属です。今後は色々なところにお供致しますから、そのおつもりで。」
“お、おう、よろしくな。”
ああ、そうか、これで「竜巻の王」にもなったから、パラの守護者であるミスティは眷属という訳だ。
「つきましては、各地での私の戦闘訓練についても、ご鞭撻頂ければと考えておりますので、そのおつもりで。」
“え?む、無理です。だってあんなの何度もやったら死んじゃいます。”
「…楽しみに、しておりますからね?フフフ…。」
ミスティさん、キャラが、乱れておりますよ?しかも私としては断固断った筈ですが?というか闘うのは終わったんじゃ無かったんですか?
「強くなるための闘争は、終わった。これからは、楽しむための闘争さ!!!!!!!」
ああ、こりゃイカン。さっきまでの物分かりの良いミスティさんには、戻っていただけないのでしょうか…。
今後の「戦闘訓練」のことに頭を抱えるテレスタであった。
いつも、有難うございます。
要素が増えてきて、執筆スピードが落ちてきました。
色々繋げるのは頭がオーバーヒートしてきますね。




