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毒牙の泉  作者: たまごいため
パラ大平原と亜竜
53/105

直接対決。

ドッギャギャギャギャ!!


 凄まじい摩擦音とともに、強化毒膜が激しく削られる。ただの拳一発でこれは…当然風の付与なんだろうが、ここのところ散々強化した毒魔術すらも簡単に削られてしまう辺り、少しショックを受ける。


「言ってる場合か!」自分で自分に叱咤する。

「食らいなああああ!!」ミスティが怒号を上げて、拳を空中で高く掲げる。


 この距離感、遠距離攻撃か!?


「マイヤ!水壁展開!」マイヤの水壁に私の強化毒膜の2重の障壁で、身体全体をカバーする。

「【メテオ・フィスト】!!」


 対する相手の攻撃は…風の弾丸。いや、よく見ると、風の拳?ホントに殴り合いの喧嘩がお好きらしい。だが、その威力は…


「お兄ちゃん!障壁が突き破られるよ!」

「マジか!風の弾丸には相性の良さそうな水壁を選んだのに!」


 マイヤの展開する水壁はアクシズ譲りで、下手なAランク魔獣の魔術すら無効化するほどの防御力を誇っている。風の魔術との相性も良い筈。だが、この威力はマズい!


「ぐがあ!っつつ、この威力!的がデカい俺たちには、相性が悪いぜ、大将!」


 首筋に風の拳を受け、苦悶の声を上げるアグニ。確かに、広範囲にこれを浴び続ければスタミナ負けしてしまう。今のところは毒膜で凌いでるが、こっちも黙っているつもりは無い。


「アグニ、爆発系の火球だ!火炎の色は赤!魔素を温存するぞ!」

「おーけい、大将、【アニヒレーション】!」


 アグニが術式を展開するや否や、上空から無数の火球の絨毯爆撃が飛来する!


「ドッ派手な魔術使ってくるね!それでこそ龍王!アタシをもっと燃え上がらせてくれよ!」


 火球がドカドカ爆裂する中で、戦闘狂が歓喜の声を上げる。全く、何を言っているのか解らないが、ともかく死線に近づくほど気持ちよくなるタイプなんだろう。それにしても、この絨毯爆撃を高速移動で避け続けてやがるな。一体どんなレベルの風魔術だよ。


「アタシの残像に見とれてる場合か?」


 気付けば視線の反対側、私の背中のすぐ上の空間に浮遊するミスティ。ここぞとばかりに凶悪な笑みを浮かべながら、右拳を胴に打ち込んでくる!…だが、これはカウンターが効くぜ!

 瞬間、ミスティの背中を氷のように冷たいものが伝う。


「【ファントム・ジェイル】!」


 ミスティが直接風を付与された拳を打ち込もうとした体表からヤマアラシのように大量の毒槍が噴出し、瞬時に剣山の花を咲かせる!


「ぐ、ううう!」


 一瞬の瞠目ののち、身体の表面を竜巻のような強力な風の付与で覆い、何とか毒槍の直撃を回避するミスティ。たまらずそのまま上空へ距離を取る。そこへ、すかさず6本の尾による追撃をかけるテレスタ。長さ30メートルにもなるそれの先端は既に音速を超え、視認できない速度で迫る!


 ヒュン、ヒュンヒュン!それらの風切り音を耳にしながら、ミスティは持ち前のバトルセンスで一つ一つをギリギリまで引き付けながら回避していく。しかし、最後の一撃が死角から放たれ、風の防壁ごとミスティに直撃する。


バッチィン!!! 


 強烈な音を立てて、ミスティは後方へ吹き飛ばされた。


‐‐‐‐‐


 まったく、なんてふざけた威力の近接戦闘なんだい。アタシの風魔術の障壁を突き破ってくる打撃なんて、長く生きてきたつもりだがこれが初めてだね。

 アタシは100メートルほど吹き飛ばされた空中で姿勢を立て直し、毒龍の王を見つめる。そもそも、あの首の数は何だっつうんだ。毒龍じゃなかったのか?明らかに多属性を使いこなしてきてるぞ。どの属性も生半可な力じゃないのは見りゃ解るし、さっきの火の雨なんか規格外にも程がある。アタシじゃなきゃ死んでたってレベルの攻撃がこれでもかと降り注いでくる。

 …まぁ、それを望んでここで向き合ってるんだけどね。全くもって期待以上だ。アタシの命を燃やすに相応しい相手。相応しい戦場。


「まさかこれで手持ちのカードが尽きた、なんて言うんじゃないだろうな!龍王殿!」


 思わず口角が上がっちまう。もっともっと、アタシに寄越せ!あんたの全力を見せてみろ!


「まだまだこっからなんだろう!?」


 アタシは両手に鎌鼬を発生させ、真空波の雨をお見舞いする。大地をも切り裂く強力な空間の断絶だ。しかし…


ドウッ!


 奴の身体全体を風の障壁が覆う。まさかまさか!風まで使えるってのか?一体どんだけ属性持ってやがる! 


ギャリリリリリ!


 アタシの放った真空波と、龍王の風の障壁が激しい摩擦音を起こしてぶつかる。風にはアタシに一日の長がある。押し負けたりはしない。だが、 ガギンッ! 辛うじて通った真空波も、奴の強化された皮膚を貫くには至らない。

 まったく、デカい身体を守るためってか?ふざけた防御力だ。見たところスタミナも温存してるようだな。アタシが大技ばっかり出してたらジリ貧だ。魔素の枯渇でやられちまう。遠距離からの勝負は分が悪いな。こりゃもう一度背中側から攻めてくしかないか。

 考えている間も奴からは無数の毒槍が飛んでくる。その一つ一つを身にまとった暴風で回避しながら、アタシは奴の懐に(正確には背中に)飛び込んでいく!

 

 ハッハ、まるで矢の雨の中をかいくぐっていく気分だ!この時を求めていた!この瞬間、アタシは間違いなく生きてる!アタシの命が燃え上がってる!生きることに、この刹那に喜びを見出してる!


「食らええええ、デカブツ!!」


‐‐‐‐‐


 ゴリゴリゴリ!


 背中を削られる嫌な音。ミスティが風の障壁を纏ったまま直接体当たりを仕掛けてきた。その暴風障壁の凶悪さは見た目以上で、私の創り出した強化毒膜を容易に剥ぎ取り、鋼鉄よりも硬い龍鱗を切り裂いた。

空中に赤い花が咲く。それらは直ぐに竜巻に巻き取られ、周囲に霧散していく。


「があああああ、クロノス!回復だ!アグニは炎壁の防御展開、熱量で引きはがせ!」

「了解、大将!」

「主よ、了解した!身体能力強化はかけないのですか?」

「それはいい、魔素が足りなくなったらアウトだ。」


 アグニの炎壁が体表からドーム状に広がる。このまま体表を砕き、貫かんとするミスティも突然猛烈に温度の上がり始めた周囲の状況に危機を感じ取り、上空へと離脱していく。


(ち、回復魔術とか。いくら何でも便利すぎるだろ。)


 ミスティは内心舌打ちするが、その気持ちとは反対に口角が上がってしまうのを抑えられない。相手の底が見えない、それが、これほどまでにゾクゾクする快感をもたらしてくれるとは。


「ギュネシ、相手の補足を開始してくれ!」

「あいよー、兄貴。」


 私は今回の戦いのために投入された新戦力のカードを切ることにした。ギュネシが生まれてから、ずっとオリヴィア相手に練習してきた切り札。はっきり言って魔素の消費も激しいし、威力も中の下、だが、この術式の狙いは命中精度だ。

 ギュネシが相手を補足している間、私とアグニとウダルが毒槍・火球・風槍の弾幕を張る。射程外に逃がしてたまるか!


「ちぃ!チマチマと弾幕なぞ張りやがって!」


 ミスティはその弾幕に囲まれ、一定範囲から動きが取れなくなっている。弾幕の威力がいかに低いとはいえ、そこら中に猛毒の槍が仕込まれていればうかつに強行突破出来ない。かすり傷イコール致命傷の毒の檻だ!


「兄貴、補足完了だぜー。」

「よし、放て!」

「【ゲレル・マグナ】!」


 【ゲレル・マグナ】は私達が創り出した光魔術だ。この術式は、相手の持っている固有の魔素を補足し、そこに着弾するように対になる光線を形成、流石にホーミングとまではいかないが、相手に向かって光速の矢が飛ぶので、通常であればどんな移動をしようとも着弾することになる。

 

 テレスタが術式を展開した瞬間、ミスティはゾワリと身体が総毛立つ感覚を覚える。あれはマズい。当たってはならない!弾幕に当たることも覚悟の上で、どこかに突き抜けなければ!


ドッ! ギュネシの額から光線が放たれるのと、

ゴォウ! 高速の暴風を纏ってミスティが回避するのが同時。

ドン、ドンドン!


 ミスティの身体に火球が雨となって着弾するも、それを無視して高速で回避を図る。

 光線はミスティが元居た方向へと真直ぐに飛んでいき、ミスティがニヤリと笑いかけたその時、


クンッ


 光線は彼女めがけ、信じられない程の曲線を描いた。それは風の障壁を全く無視して、彼女の後方へと突き抜けていった。



 



いつも有難うございます。

今回はグイグイ書けました。

まだまだ蒸し暑いですねぇ。

読んでいただいてる皆さんも、体調にはお気を付けくださいね。

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