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毒牙の泉  作者: たまごいため
湿原にて。
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親玉。

 火ネズミ、本来の名称はエルム・ソレノドンという。非常に凶暴で相手が自分よりも大きかろうが強かろうがとにかく襲い掛かる単純な性格で、それ故人間たちには非常に煙たがられ、また恐れられている。家畜は食い荒らすし、人間も見境なく襲う。また繁殖力も高く、縄張り周辺に余程強力な魔物が住み着かない限りは根絶やしにするという事も殆ど出来ない。

 そんなわけで、戦闘能力こそ他の魔獣と比べそれほど高くないのだが、厄介極まりない害獣として認識されている。


…そう、強力な魔獣に餌として目をつけられない限りにおいては。


 テレスタは自分が縄張りとしていた森がエルム・ソレノドンの群れの縄張りと大きく重なっていたことに気付くと、嬉々としてそれらを捕食し、とんでもない勢いで乱獲していった。結果として、彼の身体は今まででは考えられないくらいに成長し、もはやその体調は10メートルに達しようとしており、胴の太さは大人一人では抱えられないほどの太さになっている。

 

 テレスタの異常な成長スピードには理由がある。この世界を生きる魔獣やドラゴンといったいわゆる魔術を使用することのできる生き物は、動物や植物から摂取できる栄誉素とは別に、体内に魔素を取り込む必要がある。魔素は通常の栄養よりもはるかに高密度のエネルギーを魔獣の身体全体に行きわたらせ、魔獣に魔術の使用を可能にし、その身体の成長を促進する。それでもなお余った魔素は、ある種の魔物の体内では液体状に、また別の種では固体や結晶体として体内のいずれかの器官に備蓄され、必要分だけ体内に溶け出すという形で補われている。そして、種としての成長途中にある個体が多量に魔素を摂取したときは、多くの場合それが身体的な成長へと使用されていくことになる。

 そういうわけで、生後数週間のテレスタは魔素を利用してあっという間にこの大きさまで成長したわけである。

 また、先に述べたように魔獣は魔術を使用することも可能である。種族・個体によって術は様々であるが、殆どの場合種族として固有の魔術を共有しており、中には個体としてオリジナルの魔術を使用できるものもある。テレスタの使用している毒牙や毒霧、毒膜も見た目は物理的なもののようだが、その毒の種類は豊富で、それらは全て魔術によって生成されたものであるといえる。まぁ、本人(本蛇?)にとっては無意識の産物なので、どちらでも構わないのだが。


(火ネズミの数が随分減ってしまったな。あらかた食い尽くしたのか。お腹減ったなぁ。昨日の自分に少しくらい残しておけと、説教してやりたい)


 あらかたエルム・ソレノドンを食い尽くしたテレスタであったが、相変わらず言語を持っていないので思考とも言えない思考を繰り返していた。お腹減ったか眠いか。魔素を感じるか。日常使うのはその程度の事しかない。今日はズルズルと覇気も無く森の中を彷徨っている。ただ、魔素を追いかける魔力感知だけは鋭敏に働かせており、獲物は逃がすまじと、その部分だけは驚異的な集中力を持って維持している。単に食い意地が張っているだけなのだが。

 だが、次の瞬間、テレスタはふと妙な感覚に陥る。魔力感知が全方向・全空間に引っかかっているようなのだ。うっすらとではあるが、自分の身体の周囲全体から魔素を感じ取ることが出来る。その空気の微妙な変化に、若干の戸惑いを持って彼は首をかしげる。


(はて、妙だな。今までこんなことは起こったことも無いというのに。生き物以外にも、魔素を含む何かがある?)


 疑問を持って考えようとするも、やはり考えるという行為自体が今のテレスタには難しすぎる。取りあえず、少しでも魔素が濃い方へと進んでいく。空間に満ちている魔素は徐々に増していき、もしかすると何も食べなくてもお腹が空かなくなる、なんてことがあるんじゃ?などと内心本気で期待し始める。


 それが、油断のもととなった。


ドッゴォォォォオン!!


 突如として、テレスタの脇腹めがけ、直径30㎝はありそうな真っ赤な隕石が襲来する!それはテレスタの右腹部に直撃すると、盛大な勢いで破裂し、炎を巻き上げた。


(げぇ!あっづ!一体どこから!?)


 そう思って瞬間的に隕石の飛んできた方向を見やると、1メートルほどの大きさの黒い影が2つ、彼に向って身構えていた。空間を満たしている魔素の濃度が高くなり、そちらに気を取られていたおかげで、大きな魔素を持った魔獣の接敵に気付かなかったのだ。

 2匹は見たところエルム・ソレノドンのようだが、何しろ普段相手にしていたそれらの3倍近い大きさだ。その片割れが身構えて口を大きく開いたかと思うと、同時に巨大な火球を打ち出してきた。


(チィ!間に合え、毒膜!)


 先日の戦闘で如何無く耐火性能を発揮した毒膜を全身に行きわたらせる。直後、火球が轟音とともに着弾する。


(ぐぅ、なんだこの火力!今までの比じゃない。ついに親玉の登場、というわけか!?)


 テレスタの思考に違わず、まさに親玉もとい親の登場であった。エルム・ソレノドンはその習性上、強い雌雄の個体2匹が群れのリーダーとなり、一つの家族を創る。リーダー2体から生まれた子供はしばらくの間縄張りの維持に貢献して成長した後、群れを出て自による新しい群れを作るか、あるいはほかの群れを乗っ取るべく親離れをするのだ。

 要するにテレスタが食い尽くしてきた火ネズミたちは全てこの群れの子供たちであり、今眼前で火球を雨あられと放っている個体はその両親、群れのリーダーだというわけである。

 見れば解るという位怒りをあらわにした2体の魔物に、マイペースなテレスタもさすがに危機感を抱く。


 その間も次々と火球が放たれ、テレスタの四方に着弾する!それらは今のところ毒膜を全て蒸発させるまでは至っていないが、それでも形勢は良くない。テレスタは魔素の殆どを成長に使ってしまっており、体内に残っている魔素はそれほど多くない。そのうえ毒膜という常時発動の魔術は非常に燃費が悪いのだ。体中にバリアを張り続けなければならないのだから、いかに相手の火球が強力なものとはいえ彼我の魔素消費のスピードにはかなり大きな隔たりがあった。


(く、ともかく火球から逃れないと!毒霧!!)


 刹那、テレスタの全ての鱗から猛然と猛毒の霧が吹きあがり、あたり一面を灰色の霧が覆い尽くす。霧に触れたそばから樹木が黒ずんで枯れていく。猛烈な毒霧による視界不良を利用して、テレスタはともかくその場から移動して火球の砲撃から難を逃れようと身体を動かす。

 その時、霧の奥から猛然と1メートル大の巨大な火炎が直進してきた!テレスタはその火球を素早く右に動いて交わした。が、すぐにその火球が踵を返して襲ってくる。


(な、んだ!?追いかけてくる!視界を遮っているのに、なぜ追尾が出来る!?)


 一瞬追尾性能かと思ったが、地面をバウンドするように追いすがる炎を見ると、それが見当違いであったことに気付く。


(これは…体当たりか!)


 そう、それは火球を放っていた個体とは別のもう一体による火炎攻撃。火球の砲台もその個体オリジナル魔術なら、この火炎を身体に纏った体当たりも個体のもつオリジナルなのだろう。雌雄別々のオリジナル魔術を操るからこそ、群れのリーダーとして君臨してきたのかもしれない。

 火炎による体当たりは自分自身の身体に生えている毛皮すべてを炎と変え、直接相手に突っ込んでいく豪快な術。発動中は術者本人も呼吸をすれば灰に穴が開いてしまう程の熱量のために無呼吸による運動を余儀なくされるが、ことこのテレスタに対しては相性がいい。なにしろ、毒霧を呼吸で吸い込んでしまうことは避けられるし、毒の成分が体表から浸食するのを、猛烈な火炎が防いでくれる。毒を気にせずただ特攻攻撃を仕掛けるという単純にして強力な技なのだ。

 そして、いかに毒霧で視界を遮られているとはいえ、テレスタの周囲に明滅する炎が存在すれば、火球砲台はその周辺に弾幕を張って相手を釘づけにすることが可能になる。まさに夫婦阿吽の呼吸。


(くそっ、このまま取りつかれてはたまらん!)


 大きくなった身体を生かし、思い切りテールスイングをかまそうと試みるも、火炎タックルをかましていた火ネズミは咄嗟にテレスタの背中に取り付き、スイングを避けながら自分もろとも鱗を燃やし尽くさんとしてくる。


(アヂヂヂ!ど、どうする!背中のネズミは振り落とせない!火球はこっちの位置を殆ど特定してるし、あの砲台から逃れる術は… うん? 火球?砲台? もしかすると、可能性はあるのか?)


 ふと、あることに気付いたテレスタ。魔素はの残量は心もとないが、御託を並べてはいられない。


(次に奴が火球を打ってくる瞬間がチャンスだ!)


 そして、なけなしの魔力を練ってイメージを構築する。


(火球が飛ぶなら、毒の槍だって飛ぶはずだろう!)


 直後、テレスタの周囲の空中に4本の毒槍が構築される。

 刹那、轟!毒霧の奥で炎が光った。

 

設定が雑なことに今更後悔しております。

矛盾を抱え無いようにしたいなぁ…

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