亜竜ヴィーヴル。
てっきり、こう、海の魔獣っていうから、蛇とかイカとかタコとかサメとか、何というかこう、そういうのを勝手に想像していたのだが。
「へぇ、あんた、強そうだね。」
アジュニャの反応を見ながら魔素を追いかけてきたら、上空からの攻撃でした。そら、襲撃された商船の乗組員も魔獣を目撃して無い訳だ。空から魔術を叩きつけられて、成す統べなく破壊されていたんだな。
にしても、お前さん何で普通に話しかけてきてるわけ?
「何の目的で、こんなことを?」
取りあえず素性はさておき、きちんと動機を聴いておこうじゃないか。
「強い奴が集まるかと思ってナ。」
何ですかその理由は。
「いや、ここって人間族のデカい都市が行き来する場所だろ?ここで暴れたらいいのが釣れるんじゃないかと思ってたんだけど、なんか全然でさ。誰もあたしの存在に気付かないし、もう帰ろうかと思ってたんだわ。」
なんかこいつ若干寂しそうな顔を浮かべているな。誰も気づかないとか、もっと堂々と船に降り立ったら良かったじゃないか。
「んな面倒な事するか!強かったら気付くだろうが!…アンタみたいにな。」
二イイ、と口が裂ける。見た目は美人なだけに、戦闘中毒っぽいこの雰囲気がなんとも不気味に映る。
そう、見た目は美人、人間の形をしているのだ。風に流れるストレートの金髪、気の強そうな眼、スレンダーな体つき。だが、人間じゃない部分もそれなりにある。先ず、目立つのは背中の羽。右側のみ3枚の蝙蝠のような羽が生えている。そして右半身は胸から下が鱗でおおわれた身体をしており、その右手・右脚には鉤爪が。左半身の真っ白で無垢な肌とのギャップが凄い。さらに、額からは一対の黒い角が生えていた。
こんな魔獣、今までの記録庫の情報では見たことが無いのだが?というか理性を持っている魔獣って居ないんじゃ無かったか?という事は、オリヴィアみたいな妖精?いや喋ってるしな。。。美魔獣?うーむ。
ドウッ
こっちが考えてるのを知ってか知らずか、相手はいきなり一直線に突っ込んできた。は、速い!そして右拳を思い切り打ち込んでくる。
「ぬぁ!」
思わず声が出てしまう。ディアブロを双剣にして構え、左手の刀身で受けたのだが、あまりの重さに後方に数メートル押し込まれてしまった。
「ハッハ!アタシの拳を受けて、立ってられるとかあんたも大概だね!」
嬉しそうに高笑いしながら、拳を連打してくる。このスピード…シーラ部長の打突並みか、それ以上か!?とてもじゃないがディアブロの刀身だけでは受けきれない!たまらず両大剣を横凪に振る。 トンッ と甲板を蹴り上げると、相手は苦も無く豪速の剣を躱し、空中で静止した。追撃をするでもなく、ニヤニヤ笑っている。そこで至近距離から離れたのを見て取ったカーミラが、すかさず精霊魔法を行使する。
「ルノ!風刃烈破!」
“行くわよ!!”
風刃烈破、というのは別に新しい精霊魔法では無く、毒牙の泉の眷属開放で力を取り戻したルノが、今までの名前じゃかっこ悪いから、と言って名前をカーミラに変えさせたのだ。カーミラとしてはネーミングが気に入らないが、「ダサい」とか言うとルノが拗ねて面倒なので、仕方なくそのまま使っている。
だが、その威力は確かに今までの風刃とは一線を画す。この船を真っ二つにするような勢いで生まれた巨大な刃は、クロスしながら上空の美魔獣?を襲う!
「へぇぇ、お嬢ちゃんもやるみたいだね?精霊とか懐かしいもん連れてんじゃないか。」
余裕の笑みで返すと、彼女の身体全体から竜巻のような風が発生する。
ガリガリガリガリッ!!
風刃烈破と、竜巻が激しく衝突し、船上に衝撃波が走る!船内に避難した乗組員の「うわあああ!」という声がここまで響いてきている。それほど大きな衝撃。 パアアアン! という破裂音の後、お互いの風魔術が消滅。ツツ、と美魔獣?の左頬から微かに血が流れる。それを感じたのか、裂けた口をさらに大きく釣り上げ、
「アタシの風魔術にタメ張る線とか、嬉しいね!」
もはやその嬉しさの意味が全然解りません。が、女はそのままカーミラに突っ込んでいく。肉弾戦はマズい!私は牽制に一発、毒槍を放って相手の動きを阻害しつつ、相手に突っ込み、左右からディアブロを振りぬく! ガイィン! 風の障壁にぶつかり、一瞬だけ力が拮抗する。
「な、め、ん、な、よおおお!」
気合一閃、思い切り力を込めてディアブロを押し込んだ!このまま押し通る!一瞬、相手が瞠目する。そして、刀身が彼女の身体を叩き斬るかというその瞬間、バックステップと風魔術の付与で一気に船上から離脱する。大きく後方へ吹き飛んだ後、フワリ、と海上で静止する美魔獣?がそこで声をかけてくる。
「あんた、いいね!最高にいい!…だが、アタシに手抜きして勝とうってのが気に食わない。何で本気を出さない?」
「何?いや私は初めから本気だが。」
「馬鹿にしてんのか?その格好。どう見たってドラゴニュートだろうが。なぜ竜化しない?」
ああ、なんか当たらずとも遠からず。殆ど正体ばれてたわ。何かこの人色々知ってそうだしな。本当の事を言った方が良いのか。
「いや、私はドラゴニュートじゃなくて、龍だ。今、人化してるとこで、人間族の前では解かないことにしてる。」
「ハッハ!龍!?マジか、大厄災の生き残りがいたのか?」
「大厄災?何のことだ。」
「竜族がこぞって大陸東へ向かって、全滅したっていうあれさ。もう何百年前になるかねぇ。」
「…なぜ、そんなことを知っている?」
その質問に、ニヤリと笑う女。あ、これは質問を間違えたパターンだわ。
「それを教えるって言ったら、本気で相手してくれるかい?」
また、面倒なことが…でもこの情報は聴いておきたい。竜たちはどうなったのか。なぜ、この世界のどこにも竜が見当たらないのか。他の竜王達は復活するのか。知ってることがあるなら、洗いざらい聴いてしまいたい。
「まあ、考えなくもない。」
「ハッ、いいね、約束は守れよ?アタシはパラ大平原を守護してる、ミスティ、亜竜ヴィーヴルのミスティだ!パラまで来れば教えてやるよ。」
「毒牙の王、テレスタだ。…パラ大平原の守護が何でこんなとこ来てんだ…。」
「う、うるさい!暇なんだよ!だいたい、それ言うならあんたもだろ!ともかく、大厄災の事が聴きたいんだったら、パラまで来ることだね!そして全力でアタシと戦え!」
「なんかメンドクセェ奴だな…。」
「心の声を外に出すんじゃねエ!傷つくだろ!そもそも、毒牙っつったらヒュデッカだろう、そっちに乗り込んでもいいんだぞ!!」
「グッ、それは、出来れば止めて頂けると…。」
「ふん、兎に角だな、今日は帰ってやるから、次は全力で戦えよな!次の2つ月が新月になる時まで待ってやる。それを過ぎたら、乗り込んでやるからな!」
そう言うと、ミスティはさっきまでとは比べ物にならない強力な風の付与を全身に纏うと、あっという間に大陸の方へ飛び去った。あいつ、全然本気出してなかったんだな。ミスティの風魔術を見て、ブルッと震えるカーミラ。同じ属性を操るだけに、彼我の差を感じたのだろう。
「カーミラ、怪我は無いか?」
取りあえず声をかける。
「え、ええ、大丈夫。でもちょっとショックだわ。あたしも結構強くなったつもりだったのに…。」
「気にするな、カーミラは良く頑張ってるし、相手は亜竜だ。今の世界じゃ最強クラスの魔獣より強いかも知れない。」
そう言いながら、自分自身の事を顧みる。今のままでは、ちょっと危ないかも知れない。下手をすれば全力のオリヴィア軍よりも強い可能性がある。毒牙の泉の、西に修行に行った方が良いのかもな。ともあれ、今はレビウスの魔獣騒動を終わらせないと。修行は、部長への報告が済んだ後だ。
いつも有難うございます。
時々自分の書いたものを読み返してみると、
その時その時で読んだ文章とかにかなり影響されてますね。
そのうち何か自分らしいものが出てくると良いのですが。




