表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒牙の泉  作者: たまごいため
海洋都市レビウス
44/105

暗躍。

「!、テレスタッ!?」


「来るな!カーミラ!」


「何が起こった!?」


 ルルドが驚いて立ち上がる。

 テレスタは首筋と腹部、右脚から出血していたが、命に別状のある外傷ではなかった。


(この毒、初めから殺すつもりだったようだ。だが、ルルドのあの反応、演技とは思えない。何か裏があると見て間違いないな。それにしても...アルカロイド系の毒素か。私でなければ死んでいた。)


 身体に撃ち込まれた毒物を分解しながら、同時に蛇特有のピット器官を全開にし、攻撃してきた敵影を追う。首への礫は屋上左手から、胴と脚は左右の通路から、それぞれ放たれたようだ。暗殺者達は既に移動を始めているが、体温の移動で場所は手に取るように解る。


(嘗めるなよ、この程度の距離、毒槍演算の射程内だ!)


 考えるが早いか、毒槍を敵の後ろから突き刺す。テレスタは人化の最中でも自らの固有魔術である毒属性は問題なく扱える。ネルヴァに使わなかったのは、単に一騎討ちの雰囲気を壊したくなかったからだ。

 狙いたがわず毒槍が獲物に突き刺さったのが確認できる。


「カーミラ!屋根に一人、左右の廊下にそれぞれ一人ずつだ!麻痺毒で足止めしてある!」


「!、わかったわ!」


 阿吽の呼吸でカーミラが暗殺者の身柄を、風の精霊魔法で回収していく。あまりの手際の良さに呆気に取られる議員達。その中には、首謀者だと思っていたルルドも含まれていた。

 程なく、テレスタの前には3人の暗殺者が引き摺り出された。麻痺毒が切れれば隠蔽のために自殺しかねない。手早く猿轡を着けると、憲兵に引き渡すことにする。


「議員の皆様には、お怪我は有りませんかな?」


 テレスタはわざとらしく鷹揚に話し掛ける。この中に主犯格が居るのは間違いないが、それをここで炙りだすつもりは無い、と暗に示したかったのだ。レビウスでのこれ以上の面倒事は御免だった。


「ああ、こちらは被害を受けていない。テレスタ殿こそ、大丈夫なのか?」


 いち早く反応したミハエルに、テレスタは答える。


「問題ない。この手のものの扱いには慣れてるからな。」


 毒物、とは言わない。自分の人外さが際立つと、話が進まなそうだからだ。

 そして他の議員が相変わらずおろおろと所在なさげにする中、ミハエルが憲兵に指示を出し、暗殺者を連行していく。随分と手慣れているな。


 テレスタは体から礫を取り出すと、コロンコロン、と地面に投げ捨てる。カーミラが心配そうに傷口にそっと手を添えてくれている。

 そこへ、一仕事終えたミハエルがやって来る。


「この度は、このようなことになり、誠に申し訳ない。まさか暗殺に乗り出すような輩が居るとは...」


 ルルドが怒り狂って後方で暴言を吐き散らしている。あいつのところでは無いのか?テレスタは訝しく思う。そもそも私に敵意が有るような連中、居ない筈なのだが。そこまで名前が通っているとは流石に思えない。


「ともかく、一度傷の手当てを。近くに治療院もある」


 いや、自分で治せるから。と言いそうになるテレスタだが、色々問題が発生しそうなのと、相手の面子もあるか、と考え、お言葉に甘えることにした。


テレスタが治療院へと向かった後、ミハエルは内心ほくそ笑んだ。


(トロット、いい仕事だったぞ、亜人は消せなかったが、結果的にアタナシウス家の名声を大きく損ねることには成功した。これでレビウスの実効支配はフェノロマのものだ!)


レビウス3大貴族のひとつ、フェノロマ家。レビウスらしい商家であり、代々の経営者の手腕からこの海洋都市レビウスの貿易を発展させてきた一族だ。予てより武力にものを言わせてレビウスの実効支配を握ろうとするアタナシウス家とはあまりうまく行っておらず、密かに対立してきた。

また、レビウスは商家が多く、アタナシウス家の傍若無人な態度に内心面白くない感情を持つ者達も少なくないことから、フェノロマ家はレビウス内で多くの支持を集めていた。

そのフェノロマ家の家督を若くして引き継いだミハエルは、今回の事故がフェノロマ家の求心力と、アタナシウス家の没落の決定打になる可能性をいち早く察知し、先代よりアタナシウス家に潜り込ませていたトロットを使って事を起こすに至ったのだ。


(憲兵に連行された暗部の者達が口を割るかどうかは未知数だが、トロットが既に身を隠しているとなれば、アタナシウス家の犯行であると判断されるのは間違いない。後はどのような反応が巻き起こるか...見ものだな。)


 


 ミハエルは、フェノロマ家の諜報部隊を使って、翌日にはアタナシウス家の筆頭家臣であったはずのトロットが行方をくらませている噂を流した。事実、トロットはミハエルの手引きですでにレビウスを離れており、テレスタを暗殺しようとしていたという嫌疑がアタナシウス家に向かうことになった。

 テレスタは一亜人に過ぎないが、モレヴィア・ギルドの職員でもあり、レビウス・ギルドの情報統括部長がわざわざ呼び寄せた言わば客人でもある。貿易を生業とするものからしてみれば、モレヴィアとの関係に不和を起こす火種にもなり得る事件であり、モレヴィアからの素材の輸出を多く手掛ける商家の面々は揃ってアタナシウス家を糾弾し始めた。


「だから、前々からアタナシウス家を排除すべきだと進言し続けてきたのだ。」

「そうだ、商いの何たるかを解らん連中が、レビウスの貿易に傷をつけるなど、言語道断!」

「アタナシウス家は議会を降りろ!」


 それを聴いたテレスタは、微妙な気分になった。自分を餌にして、この話で何かを得ているものが居る。そう感じずにはいられない。


(扇動している輩が居るんじゃないか?いくら何でもモレヴィアとレビウスの不和なんて起こらんだろう。アタナシウス家と対立していた者が、どうやら動いたらしい。)


 ミレアさんの授業で人間の歴史を散々勉強してきて良かった、などと思うが、実際デマゴーグに直面するとウンザリしてしまうものだな。

 レビウスの権力の話は、もういいから、仕事に戻るとしよう。テレスタはそう決めることにした。


 久々にギルドを訪れると、キルケがわざわざ出迎えてくれた。世間様の噂がかなり大きくなり、是非とも一度テレスタと話をしておきたいと思ったのだろう。キルケ、テレスタ、カーミラの3人はギルドホール奥の会議室へと移動する。


「いやはや、大変な騒ぎになりましたな。」


「最初はルルドが殴りこんでくるだけだろうと思っていたのだが、まさか毒殺をやってくる輩が居るとは、私も考えなかったよ。」


「ほんと、テレスタじゃなかったら死んでたわよね。」


 顔を顰めるカーミラ。だからと言って許したわけではないぞ!という感情が出ている。


「そのことなのですが、テレスタさんもお気づきかと思いますが、噂が広まるのが聊か早すぎる。どうも暗殺を企てた輩が別に居ると考えられます。」


「キルケ殿もそう考えますか。」


「ええ、テレスタ殿、何か心当たりは?」


「いや、暗殺されかけた私が言うのも何だが、これは私個人を狙ったものとは思えないんだよなぁ。」


「そう、ですか?」


「だって、私が死んだか生きてるかについては全然話題にもならない。皆、モレヴィアからの客人がアタナシウス家に暗殺されかけた!って騒いでいるが、それが誰なのか全然知らない様子なのだよ。」


「ふむ、確かに言われてみれば、誰が暗殺されかけたのか、市井では誰も知らない雰囲気ですね。どころか、もっぱらアタナシウス家批判に充てられている…」


「その、アタナシウス家が潰れていい思いをするのは、誰なのですか?」


 テレスタはふと思ってそう口にする。キルケは腕を組んでうーん、と唸っている。


「正直、この都市の商人にとっては、アタナシウス家はあまり面白い存在ではないのです。ですから、商家は皆、動機を持っていると言えるでしょう。だが、それを実行できる力を持っているとすれば…、それは間違いなくフェノロマ家でしょうね。」


「また、初めて聴く名前だな。」


「レビウス3大貴族の一つで、商家からのし上がった一族ですよ。現当主はミハエル・フェノロマという切れ者で、政治方面でも活躍しています。」


「…あの、タヌキが!!」


 思わず口をついて出た言葉に、ビクッと反応するキルケ。頭に血がのぼってしまったテレスタだったが、すぐに我に返る。もし、ミハエルが本当に主犯格だとしても、まるで証拠が無い。暗殺者は口を割らないだろうし、フェノロマ家がアタナシウス家の失態にこれ幸いと噂を流しただけで、実際暗殺を企てたのは本当は別のルートかもしれないのだ。どうしたものか、と考えていると、ギルドホールを走ってこちらに向かってくる足音が響いた。


「キルケ様、ま、魔獣です!ついに現れました!」


 情報統括部の職員の言葉に、暗殺の件はとりあえず後だ!と、すぐに立ち上がると、テレスタとカーミラは港へと急いだ。

いつも有難うございます。

最近PVが中々凄いことになっているようで…

本当に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ