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毒牙の泉  作者: たまごいため
海洋都市レビウス
42/105

余興をあなたに。

「ああ、お待ちしておりました、テレスタ殿、どうぞこちらへ。」


 約束の場所へ赴くと、満面の笑みで出迎えたのは、ミハエルだ。そして、その後ろには恐らくこの町のお偉方と思われる面々。柔和な顔で出迎えるもの、渋面を浮かべるもの、様々である。テレスタもカーミラも、別に友人作りに来たわけでもないので、それらの反応をいちいち気にしたりはしない。

 その中から、がっしりとした体つきの中年の男性が前へと歩み出た。


「テレスタ殿、本日は急なお呼び立てにも関わらず、こちらまでご足労感謝する。私はこの都市の内政議会の議長を務めておる、ルルド・アタナシウスと申すものだ。」


 アタナシウス、の家名に一瞬だけピクリと反応するテレスタ。だが、なるべく自然に振る舞いながら笑みを浮かべて返す。レビウスはどうやら合議制の都市らしい。貴族にも拘らずテレスタに先に挨拶をしてくる辺り、どうやら新しいものを何でもどんどん取り入れる海洋都市独特の気質があるのかもしれない。

そんなことを咄嗟に考えつつ、テレスタは返事をこなす。


「こちらこそ、一介のギルド職員をこのような場へご招待いただき、感謝します。ご存じかと思いますが、テレスタと申します。」


その後、後ろの面々も次々と自己紹介をし、互いに挨拶を交わすが、どうも数が多すぎて覚えられない。まあ、レビウスにそう何度も来ることもないだろうし、別に覚えなくてもいいか、等と、早速思考停止気味のテレスタ。その横ではダークエルフと人間族との架け橋にならんとするカーミラがスマイル全開で挨拶に勤しんでいる。


「ささ、皆さん立ち話も何ですから、どうぞこちらへ。奥に部屋を用意しております。」


ミハエルが促すと、議員の面々はそれに従って奥へと歩き始める。よくこのような会合が開かれるのであろう、特に行き先の説明をせずとも、また侍従などの案内が無くとも、自然と目的の部屋に足を向ける面々。

人間というのは、こういうやり取りを重ねていくのだろうな、面倒なことだ、等とスタートから躓いているテレスタに、横から声がかかる。


「それで、テレスタ殿。貴殿は聴けばモレヴィア・ギルド初の亜人の職員だというが、もし良ければその経緯をお聞きしても?」


ルルドが、さらりと尋ねてくる。流石に情報が早い。多分マリウスの馬鹿、あたりから話が漏れているのだろう。いやキルケか?別に秘匿でもないから漏れていても仕方のないことではあるのだが、何だか気持ちが悪いものだな、等と考えつつ、テレスタは経緯を話し出す。


「モレヴィアの情報統括部のシーラという者が居まして、元Bランク冒険者で、実力的にはAランクにも引けを取らない程の人物ですが、彼女に出自の特殊性と戦闘能力、調査力を認められましてね。使えるものは何でも使う人ですから、強引に上に話をつけて、気付けば職員として雇ってもらえた、と言うような話です。」


「ほう、シーラ殿の目についたか。私も実際彼女には何度かお会いしたことがある。女性だが、豪放磊落な方だったな。彼女の目に留まるとは、余程の能力と見える」


「シーラ部長の実力は確かですが、私についてはヒュデッカの奥地から出てきた、という出自と、その情報が決め手で、力云々は二の次だと考えておりますが。」


「フハ、謙遜などせずとも良いではないか、そなたの力、知らぬ私ではないぞ?」


スッと細められる視線に、若干の敵意のようなものを感じるテレスタ。それはそうだ、つい先日、目の前の男に実の息子がブッ飛ばされたばかりなのだ。寧ろここまで穏便に話をすることが出来たことの方が不思議ですらある。


「今日は趣向を凝らした余興を用意してある。楽しみにしているといいぞ。」


ルルドが言うと、程なく目的の部屋に着いたのか、面々が中へと入っていく。見ればそこは長方形の部屋で、入り口から真っ直ぐにテーブルが設置され、椅子は何故か手前側にずらりと並べられており、反対側にはには1脚も並べられていなかった。そして、向かって正面の壁にはカーテンが下ろされ、遮光性が高い素材なのか向こう側を見ることはできない。

テレスタが訝しげに見ていると、ルルドに着席を促される。


「テレスタ殿はこちらだ。カーミラ殿も、その隣へ。」


妙に親切なアタナシウス家当主に、逆に何とも言い難い不気味さを覚えるが、かといって着席しないわけにも行かず、二人は礼を述べるとおずおずと着席した。

すると、正面に下がっていたカーテンが開き、その向こうにはアリーナ風の傾斜と、高い塀、そしてその塀に囲まれるようにして、広々とした大理石の床が広がっていた。その大理石の床の中央付近に、2つの影。一つは騎士風の男、そしてもう一つは…


「あれは!魔獣だわ!」


 カーミラが叫ぶ。騎士の正面に立つのは、ヒル・ギガース。4メートル近い巨躯を持つCランクの魔獣だ。非常に強力な膂力を武器としており、人型をしているが理性のようなものは皆無で、何でも口に入れて消化する悪食で知られている。

 その巨人はたった今、奥に見える檻から放たれたのだろう。のっそりと立ち上がると、目の前に立つ騎士を一瞥する。グルルル、と喉を鳴らしたのち、耳まで割けた醜悪な口を大きく開けて涎を垂らす。

 ギュウアアアア!!激しい咆哮とともに、右拳を突き上げ、騎士に向かって振り下ろすヒル・ギガース。

ズドォン!という強烈な衝撃とともに大理石に小さなクレーターが出来るも、そこに騎士の姿は無い。ハーフプレートの鎧を着用し、消して軽装では無いにもかかわらず、ヒル・ギガースの拳を直前まで引き付けてから左へと回避したのだ。同時に、腰から下げたロングソードを抜剣する。


「あれは…火炎魔術?」


 テレスタは呟く。そうすると、横に腰かけているルルドが如何にも、というように頷いた。


「あれはあの騎士、ネルヴァの家に代々伝わる宝剣、フレイムタン。あの剣を扱うことが出来るのは、この都市でもあの男だけだ。」


 宝剣というものは初めて見た。魔力を宿している剣か。人間族の技術が創り出したものだろうか?今度ヘクトにでも聴いてみたら教えてくれるかもしれない。もっとも、奴がちゃんと話を聴いていれば、だが。

 そうこうしているうちに、フレイムタンがヒル・ギガースの右わき腹を捉える。流石にこれには危険を感じたであろう巨人は咄嗟に後ろへとステップを踏む。だが、 轟! という音とともに、フレイムタンの纏っていた火炎がヒル・ギガースを追いかけ、その右腕に絡みつく!

 ギュアアア!悲鳴を上げる巨人。見れば緑色をしていた右腕の皮膚は既に焼け焦げ、炭化している。かなりの火力と言えそうだ。

 たまらず後方へ逃げようとするヒル・ギガースだが、もちろん円形の闘技場、逃げる先は無い。そうと解れと、巨人は怒りに震えた瞳で向き直ると、眼前の敵を叩き潰すべく両こぶしを振り上げた。

 その隙に、ネルヴァのフレイムタンが横凪に払われる。すると、切っ先の火炎は一瞬にして巨人の上半身をぐるりと包み込んだ。 ゴギャアアアア!!振り上げた両腕を下げることも忘れて熱さに転げまわるヒル・ギガース。ネルヴァは感情の感じられない瞳でその姿をじっと眺めると、無感動に右手を振った。


ズドォ!


 悶える巨人の頭は明後日の方向へ飛んでいき、後には黒こげになった巨大な体だけが残された。


「Cランク魔獣を一人で仕留めるとは、さすがですなネルヴァ殿!」


 議員の誰ともなくそのような言葉が漏れる。周囲も感嘆した様子で今の戦闘について口々に話し込んでいる。と、広場を見るとネルヴァがテレスタの方へ向き直り、剣を掲げているではないか。


「テレスタ殿はモレヴィアでも有数の実力者とお聴きしている。是非お手合わせ願えませんかな?」


 ネルヴァは無表情にテレスタに言い放った。きっと不器用な騎士なのだろう。演技などをするのではなく、単刀直入に申し入れをしてきた。その様子から手合わせなどと言う生易しいものでないことは直ぐに解る。一騎打ちと見ていいだろう。ルルドの差し金に違いないが、ここで断ると魔獣討伐の仕事に支障が出そうだし、何よりテレスタはフレイムタンという未知の武器にワクワクしていた。


「喜んでお相手いたしましょう。」


 勢い込んで返事を返すテレスタに、ネルヴァは少しだけ口角を引き上げた。

いつも有難うございます。

少し筆の進みが良い回でした。

マインドマップって小説のイメージ創るのに使えそうな予感。

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