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毒牙の泉  作者: たまごいため
湿原にて。
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狩り。

「ライル、ライル。目が覚めましたか?」


「う。。。ん。。。はっ、火ネズミ、火ネズミは!」


「ふふ、随分器と深く同調し始めているようですね。今はまだライルでは無く、テレスタ、でしょうか?」


「あ、ああ、ここは。」


 女神イストリアの庭園。深い眠りについたライルは久しぶりにこの場所に戻っていた。現世での意識を深く手放さなければ、ここに天使の実態を伴って戻ってくることは出来ない。それほど今は地上の身体が深く眠りについているということなのだろう。生涯初の大やけどを負ったわけだし。


「ライル、もう解っていると思いますが、器と魂の繋がりが緊密になり、自我がかなり覚醒してきています。この庭園に実態を持って戻ってこれる時間も、これから先極端に短くなっていくでしょう。」


「はい、イストリア様。今の自分の意識もだいぶふわふわしています。身体の方が僕の意識を呼んでいるんですね。長くは、この姿を保てなさそうです。」


「ええ、それは素敵な事ですねライル。地上での生を謳歌するのに、自我は是非とも必要な要素ですから。」


「はい…でも、暫くここに実態を伴って戻ってこられなくなるのは、ちょっと寂しいなぁ」


「ふふ、珍しいことを言いますね、ライル」


ふわりとした笑顔でライルの柔らかな金髪にそっと右手を伸ばし、優しく撫でる女神。


「オールドソウルであるあなたが、寂しいだなんて。この場所との繋がりはあなたがどう頑張ったとしても切ることなど出来ないというのに。」


「そう。。。ですね、今回はその、地上の生がすごく長い時間になるのではないかと、感じているんです。」


「そうね。ですが、この場所は時間の概念から外れた領域。何も心配はいりません。私たちからすれば、あなたは地上へと赴き、直ぐに戻ってきた、と言っても過言では無いのですから。」


そう言ってイストリアはライルの頭を撫でていた手を話すと、なにがしか注意を促すように人差し指を立てる。


「ライル、地上の身体が呼んでいるようですから、ここに留まることのできる猶予も僅か。ですから、あなたに直観を授けます。」


じっとライルの目を見つめる。翡翠の相貌はどこまでも深く、慈愛に満ちている。


「貴方の身体が今存在している世界は「魔素」というエネルギーを中心に動かされています。そしてあなた自身の成長もその「魔素」と切っても切れない関係にあるといえるでしょう。ですから、魔素を求めなさい。魔素の強く集まる場へと赴くのです。そうすれば、あとは全て宇宙が運んでくれるでしょう。貴方の直観を信じて下さい。」


「はい、女神さま。」


短く返事を返すと、ライルは急激な眠気に襲われる。


「もう。。。時間のようです。女神さま、行ってまいります。」


「はい、ライル。行ってらっしゃい。良い地上での経験を。」


ふわり、と風が吹いた気がした。その時にはもう、ライルは庭園の事を忘れ、テレスタという存在へと戻っていた。


‐‐‐‐‐


 キラキラとした陽光が洞の内部に差し込み、幾筋もの光の柱を創り出している。シンプルな直線が美しい。その洞の中央辺りに、グルグル巻きのホースのような形状でテレスタは眠りこけていた。その周りには幾度も繰り返したであろう脱皮した鱗が重なり、光をギラギラと、まるで黒曜石の矢じりのように反射させている。

 

 (む、ぅ、随分と長く眠っていたらしい)


 ゆっくりと覚醒しながら、テレスタは自分の身体の状況をひとつづつ確認していく。灰色に変色していた鱗は全て剥がれ落ちて無くなり、代わりに頭から尾の方向へ向かって短いスパイクのような針が生えた鱗が全身を覆っている。その色は相変わらず真っ黒で、どうやらその針の一本一本から毒液を分泌することが出来るようだ。身体の大きさは二回りは大きくなり、今の木の洞では動くのがやっとだ。体長は5メートルを超えただろうか。それに、頭の後ろには真直ぐで漆黒の角が1対、それから顎の左右両側から1対、生えてきている。角が生えてくるなど考えもせずに丸くなっていたため、身体に角が刺さってしまいチクチクと痛んだ。


 (こりゃ、随分と眠りづらくなったものだ。これからは外で横になるしかないか)


 ぼんやりとそのようなことを考える。それにしても、たった一匹火ネズミを捕食しただけでこれだけの変化を経験するとは、テレスタも全く考えていなかった。故に、次に起こってくる思考は当然の既決なのかもしれない。


 (この、エネルギーを追いかけようじゃないか。手始めにここいら一帯の火ネズミは根こそぎ喰らって、魔素を頂いてやろう。…魔素?ってどこで覚えたのだ?)


 違和感のある言葉に疑問を覚えるが、それよりも狩りだ。火ネズミの戦い方は覚えているし、別に知能が格別高い訳でもなさそうだったから、ワンパターンに尻尾を振り回すだけで狩ることが出来るだろう。幸い、火ネズミらしい魔素の気配はこの近辺にちらほらと確認できている。魔素を吸収して、その感知能力が鋭敏になったらしい。早速木の洞から這い出ると、一番近くで蠢いている魔素を追いかけていく。

 藪の中を数分進むと、やはりというか火ネズミが2匹でたむろしている。何をするわけでも無いが、その傍らにウサギと思しき食べかけの躯があるところを見ると、食後にうつらうつらとしているようだ。どちらの火ネズミも先日戦った火ネズミとサイズ感はそう変わらない。この前と同じく、尻尾の一振りで上手いこと仕留めようかと思案したが、自分の身体の変化の事を思い出す。


(身体から毒液が出せるのなら、色々実験してみた方が良いな)


 そう考えて、火ネズミの前に臆面もなくのっそりと顔を出してみる。警戒心をあらわにした火ネズミ達であったが、相手が動かないところ見ると、素早く行動に移る。敵愾心丸出しの火ネズミは「キキッ」という鋭い声を上げて一直線に距離を詰めると、2匹揃って豪快に火炎を吐き出す。


(ここだ!)


 テレスタは先ず自分の鱗から出る毒液の実験をすることにした。鱗から大量の毒液を放出すると、身体の表面をうっすらと膜状に覆い尽くす。陽光に照らされぬらぬらと光るテレスタの身体は何とも不気味だ。そこへ、轟轟と吐き出される火炎がうなりをあげて直撃する。


ジュウウウウウ!!


 濛々と毒液が蒸発して、灰色の霧を創り出す。やがて霧が晴れると、そこには無傷のテレスタと、ぱったりと倒れたままピクリとも動かない火ネズミが二匹。

 毒液に含ませたのは、テトロドトキシン。生半可な熱では変性せず、青酸カリの850倍の毒性を持つ恐るべき毒である。それが自分たちが炎を吐いたせいで空気中に散布されたのだから火ネズミとしてはたまったものでは無かった。あまりにも強力な毒性に全く耐えることが出来ず、半ば何が起こったのかもわからないうちに絶命していた。


 (ありゃ?やり過ぎたみたい?火炎を防御出来れば御の字だったのだけど…これは有り難い収穫かな?)


 テレスタとしては毒膜で熱に対する防御を出来ればそれで充分と考えていただけに、ここまで簡単に片が付いてしまって逆に拍子抜けと言ったところ。ともあれ、毒膜を全身に広げるのには相当な量の魔素が必要なようで、あっという間に空腹とものどの渇きともとれる感覚に陥ったテレスタは、殆ど魔素を消費せずに絶命した2匹のネズミを丸呑みにした。


 (次は、もう少し魔素を節約した戦い方にしたいなぁ。相手にもなるべく火炎を使わせたくない。そうすると、蔭からひっそり毒殺、というかんじかなー)


 物騒なことをのんきに考えながら、彼は次の獲物の魔素を感知して森の中を進んでいった。


いつも有難うございます、

まだ3日目ですが。

楽しんで更新出来ればそれでいいかなぁと。

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