試練。
ゼェ・・・ゼェ・・・フッ
何だってんだ。昨日ヒュドラの血液をまき散らし過ぎたか?…!アグニ!
「OK、大将!」
ドウ! 炎壁で何とか撃ち落としたか。にしても、こうも属性がばらつくとは。しかも、それがお互いに牽制し合うってんなら解るが、全員標的がこっちとか、一体どうなってんだ。
…冷静に、戦力分析だ。先ず空でフワフワ浮いてるやつ、鷲頭がグリフォンで、獅子頭がアンズー。ともにAランク。続いて、岸の移動砲台、マッドヴァイパーが5匹、Bランク。それから湖上に昨日の水属性ヒュドラと、あの水でできた巨大蛇はアクシズ。ともにAランク…。それから、あの光ってる、ありゃなんだ?魔獣の資料の中では見たことも無いが…ダークエルフの記録庫にも、ギルドにもあんな魔獣載ってたか?
“これは、試練です、毒牙の者”
おい、念話とか?あの光から発せられてるのは間違いないようだが。
“この先、毒牙の泉の中心へ進みたければ、先ずは私たちを従えてみせなさい。”
えー、話し合いの余地は無いのでしょうか?念話も一方通行のようだし…ッと、悠長に構えてる余裕はなさそうだな!
私は、強化毒膜で身体全体を防御しつつ、グリフォンの持つ風槍の乱舞をクロノスの空間魔法ではじいていく。ギャリリリリリン!っと、凄まじい衝突音が鳴り響く。そして、その間隙を縫うようにアクシズから大質量の水球が狙いたがわずこっちへ飛んでくる。そいつが盛大に眼前で爆裂!
ぐぅお!強烈なボディブローを貰ったみたいだ...って、私の体、浮いてません?
そう、凶悪な水圧で、体が宙を待っている!くそ、なんつーデタラメな威力だよ!
そこを背後から狙っていたのが、アンズー。空を飛ぶ相手は初めてだが、厄介だな!考える間もなく、業火がこちらへ放たれる。轟!
「ぬああ!炎壁防御!」
アグニの炎壁で辛うじて相殺する。同時に正面から放たれるヒュドラによる高水圧ブレスも炎壁で凌ぐが、そこでマッドヴァイパーからの土槍が雨のごとく降ってきた!
おいおい、これまずいんじゃないか?クロノス!全方位空間干渉展開!
「主よ、了解しました!」
空間干渉の防御力は抜群だが、何しろ強力な魔術だけに展開が遅い!ほとんどの土槍は防ぐことが出来たが、最初の数本は身体に直撃する。ガリ、ガリガリ!と強化毒膜が削られる音が鳴り、身体全体に衝撃が走る。クソ、この物量尋常じゃない!だが、こっちも泉に浸かって魔素は無限に使える。
私はお返しとばかりに空間に無数の毒槍を展開、同時にアグニは空間に大量の火球を展開すると、全方位に向けて放つ。
ドドドドド!!凄まじい破壊音が鳴り響くが、的に着弾しない。アグニの火球はアクシズの張った巨大な水のドームに阻まれ、私の毒槍はマッドヴァイパーの土壁に突き刺さって無効化されてしまった。チッ、防御の連携もバッチリという訳か。しかし、空間干渉をしている間はあちらも手詰まり…。
シュッ!
強烈な閃光が走り、気付けば頬から血が滴っている。なんだ?何をされたんだ?
“空間干渉は強力な防壁ですが、光は空間の干渉自体を受けませんよ?”
今日何度目か解らない驚愕。おいおい、光の玉はメッセンジャーじゃなくて、ちゃんと戦力だってか?しかも光属性とか。どうやってガードしろってんだ。これは本当に窮地だ、手詰まりなんてもんじゃないぞ。形振り構わず最大火力でぶっぱなすしか無い!
そう思うが早いか、私はともかくもありったけの魔素を削岩器のような毒柱に込める。まるで神殿の柱のようなサイズのそれが空中に展開され、同時にアグニの直径10メートル単位の火球を圧縮生成した光球が空間に3つ、出現する。
「大将、今の俺じゃこれが限界だ!」
「上出来だアグニ!狙いは...分かるな?」
アグニと私は何だかんだで精神が繋がっているので、本当は会話が無くても良いのだが、何となく気合いの入り方が違うので、念話を交わす。
こちらの最大火力を見て防壁を張る敵の一団。ヒュドラとアクシズは巨大な水のドームに包まれ、マッドヴァイパーは5枚の土壁を展開。アンズーとグリフォンは炎壁と防風壁の二重防壁を張り巡らせる。
その間も光の球からは間断なく閃光が掃射され、私の張った強化毒膜を切り裂き、鱗を傷付けていく。首や顔への直撃こそ免れているが、背中からはかなりの出血を余儀なくされていた。
「食らってたまげろ!」
私は完成した毒柱を高速で射出する。狙いは、回避能力が低く、スタミナのあるヒュドラ。一撃で仕留めて敵陣に風穴を開けてやる!水のドームごと、突き破れ!!!
こちらの狙いを察したのか、マッドヴァイパーが土壁をヒュドラの眼前に展開する。だが、そんな柔なもので、この術式が防げるか!!
ズガガガ!ザブッ!グシャグシャ! シャアアア!!
同時に轟音が轟き、ヒュドラが悲鳴をあげる。先ずは一匹。そしてそれと時を同じくしてアグニの3連光球が、その横、水のドームを貫通してアクシズに襲いかかる!
初弾はドームに相殺されたが、残り2発の直撃は免れない!アクシズはたまらず水で出来た体でグルグルととぐろを巻いて防御姿勢をとるも、光球に込めた魔素はそんなものでどうこうできるモノではない。
ボッ!!
強烈な轟音。着弾した炎は巨大な水蒸気爆発を起こし、竜巻のような上昇気流が上空に待機していたアンズーやグリフォン、光の球を巻き込んでいく。
「どうだ!」
もうもうと上がる蒸気が晴れると、湖面には毒柱に叩き潰され、出血毒の地獄の苦しみのうえに炎熱のダメージを受けて絶命したヒュドラの姿。その隣は、そもそも大熱量に体が耐えきれず、チリも残さず霧消したと思われるアクシズの居た空間が虚しく広がっていた。
よし、ここからはこっちのターン!クロノス、回復だ!アグニは次の一撃を―
「大将、ありゃなんだい?」
な、んだ?
空間に巨大な円陣、魔術陣というやつだろうか?が光の球の真下に現れ、と思っているそばからその陣の中心の空間が別空間と繋がり...
「馬鹿野郎、こんなのどうしろっつーんだよ!」
私は流石に面食らって、吐き捨てるように叫んだ。何故なら、空間から現れたのは、新たにヒュドラが2体、アクシズが2体。戦力が倍だと?召喚魔術?そんなものが、この世界に有ったのか?どうすれば?
その逡巡を、相手は見逃さなかった。気付くとアンズー、グリフォンが矢のように直進し、まさにその全力の魔術を放とうとしていた!
まずいッ!
刹那、周囲は爆発音と閃光に包まれた。
―っつ、ど、どうなった?私は今どうなっている?
「落ち着いてください、主よ。空間転移魔術で、何とか縄張りまで引き上げてきました。今のところ、奴等がこちらに向かっている気配は有りません。」
「そ、そうか。何とか命を繋いだということか、すまない、クロノス。」
「謝罪いただく必要は有りません。それより、奴等をどうしますか?」
「そうだな...悔しいが、今の私達では、奴等を倒すことは出来ないだろうな。」
「くそ!俺の光球だけじゃ崩せねぇってのか!」
「ああ、残念だけどな。だが、私たちは成長することが出来る。生き残った以上、奴等を食い破る方法を編み出してやろうじゃないか。」
「...そうだな、大将。」
「了解しました、主よ。」
このままでは、絶対に済まさんぞ。何より、これは試練だそうではないか。そう言われた以上、乗り越えない私ではないぞ!
いつも有難うございます。
ゲリラ豪雨ですね。そしてあちーです。
戦闘シーンにフラグ立てんのがどうも気に入らないんだけど、
あれ、無いと結構盛り下がるんですね、と知りました。




