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毒牙の泉  作者: たまごいため
アラムの中域
29/105

源泉への帰還。

 アラムの源泉。ヒュデッカ大湿原の奥地にひっそりと位置する、未到達領域の一つ。他の地域では見られない圧倒的な濃度の魔素が泉の底より湧き出でて、それを求める凶暴な魔獣たちが周辺を跋扈し、人々の侵入をことごとく阻む未踏の地。

 今、その未踏の地は、血の匂いで満ちていた。一頭の空腹な魔獣が、他の魔獣を手当たり次第に食い散らかしていたのだ。魔獣の空腹は、魔素の枯渇から来る。アラムの源泉周辺で生活していれば、その濃密な魔素を含んだ空気を呼吸することによってまず枯渇することが無いであろうそれが、この魔獣の身体からゴッソリと流れ出てしまった原因は、要するに1ヵ月にわたる外泊が原因であった。


(腹が、へったんだよぉぉぉ!)


 荒れ狂う魔獣。外泊中は持ち込んだ霊水で魔素を補充しながら何とかつないだが、流石に最後の移動は堪えた。加えて、空間魔術を解いたとたんに脱皮を盛大に繰り返し、源泉に戻るまでに本当に魔素が枯渇するんじゃないかと冷や汗をかくほどだ。要するに、小型化や人化をしていて抑え込まれていた本来の身体の成長が急ピッチで進んだという訳である。

 加えて、自分の縄張りに戻ってみれば我が物顔で徘徊する魔獣ども。1ヵ月もあけていたのだから当然だが、色々重なってキレてしまったテレスタは、それらを一緒くたに蹂躙、その全てを胃に収めるべくモリモリと喰らい、あるいは丸呑みにしていっていた。


 ベリ、ベリベリッ


 その間にも盛大に脱皮を繰り返し、気付けば2昼夜ほど喰っちゃ寝をしていたテレスタの体長は30メートルを超え、角もなんだか心なしか立派になった。ド真直ぐだった角は、僅かにではあるがカールがかかっている。だからどうという事も無いのだけれど。


(ああ、やっぱりこの生活だよなぁ。)


 ダメな野生動物に戻ってしまったテレスタは、しかし縄張りを荒らしていた魔獣どもに容赦は無い。お陰様でというか、食べ過ぎによって魔素の限界値も飛躍的に伸びたけれども、そんなことだけで許すテレスタでは無いのだ。

 以前に現れたアーマーンと同じ群れの番いと思われる2頭が現れた時は、内心ほくそ笑んだ。


「アグニ」

「俺って久々だよな大将。」

「火炎魔術のレベルアップに取り組もうじゃないか。」

「おっけ、そういうの待ってたぜ。」

「あそこにいる2頭のワニ、いっぺんに焼却出来る魔術を組んでくれ。」

「おおーう、結構ハードル高えな、オイ!相変わらず人使い荒いねぇ。」


 文句を垂れながらも満更でもないアグニは、今までのファイアブレスや火球よりもより密度の高い、高温の炎の術式を組んでいく。その眼前では、直径10メートル近い巨大な赤色の火球がググッと圧縮され、概ね直径50センチほどの真っ白な空間を歪ませるほどの熱量を持った球体へと変化していった。

 そして、前触れも無く音も無い静かな光弾が高速で敵へと放たれる。だが、それの持つ威力は―


 警戒心を露わにし、2頭でもって2重の水の防壁を張っていたアーマーン。そこへ着弾する!と思われた光球はしかし、まるでその前には何物も存在しない、とでも言うかのように水の防壁を貫通し、中央で警戒していたアーマーン2頭の頭とどてっぱらを貫通して即死せしめ、そのまま後方の森を盛大に焼き払って空中で爆裂した。


「-あー、これは、ミレアに怒られるな。」

「どーよ、大将、中々の出来じゃねえ?」

「森まで燃やすんじゃないよ、馬鹿者。」

「ヘイヘイ、まー、次回までにはもうちょい扱いの良い魔術にしときますよ。」


 もちろん仕留めたアーマーンは、魔素が回復次第美味しく頂きました。

 そんな、Bランク魔獣をあっさりと仕留めてしまうある意味平和な毎日を謳歌するテレスタは、かといってその後も遊んでばかりいるわけでは無く、縄張り周辺から徐々にアラムの源泉の全体像を掌握すべく移動を開始していた。とはいえ今のテレスタの身体のサイズは30メートル超。森の中を移動するのにも支障をきたし始めている。そこで、源泉の中を泳いで移動するという事を思いつき、そのまま岸に沿って未だ謎の多いアラムの源泉のシルエットを少しずつ解明し始めた。

 魔素の自動回復によって疲れを知らないテレスタはどんどんと今までの縄張りを離れ、奥へ奥へと領域を広げていったのだが…。


「これは、まさかここまで広いとは。」

「主よ、わが空間関知魔術を使ったとしても、なお先が見えんほど広いぞ。」

「うへぇ、もしかして俺たちが居たのは序の口だったって事かい?」


 どうやらアグニの言っていることが正しかったようで、アラムの源泉は実は途中森で遮られながらも彼方まで広がっており、今まで自分が暮らしていた場所はその最も人間の生活圏寄りだった、という事であるらしい。そして、そのことを証明するかの如く、眼前に現れたのが…。


ジュラァァァ!


「あれ?親戚か?」

「いや、主よ、人違いだろう。」

「クロノス、人、じゃねぇだろ」


 テレスタとそっくりの姿形をしたそれは、Aランク魔獣、ヒュドラであった。体格はテレスタの方が二回りほど大きいようだが、頭の数はヒュドラが8つと、大分多いようである。ともあれヒュドラは基本毒属性なので、相性はいい。


ズバシュッ!!


 と、その時、一直線に放たれたのは圧縮された水の一撃。強化毒膜の術式も向上していたおかげで取りあえず難は逃れたものの、見ればそれがこれから後7本、ご丁寧に発射されるらしかった。


「おいおい!水属性とか!聴いてないぞ!!」

「主よ、やはり我々の知らぬことはまだまだ多いようですな。」

「言ってる場合か!ファイアウォール!!」


 アグニが咄嗟に火炎魔術の障壁を展開。超圧縮された水を当たる端から蒸発させていく。


(ナイスアシストだ、アグニ。)


 テレスタはその間に毒槍の術式を空中にこれでもかと展開、炎壁が展開しているさなかから、雨のようにヒュドラに向かって槍を降らせる。 シャアアアア!!  苦しむ悲鳴がヒュドラから漏れてくるのが聴こえてくる。炎壁がようやく収まると、その全容が明らかになってきた。


「…再生スピードが異常に早いってことなのか?あれは空間魔術では無いよな?」

「主よ、あれは種族固有の再生能力で、魔術では無いようだ。」

「大将の毒にも抗うとか、中々だねぇ。」


 全身を串刺しにされていたヒュドラだが、その驚異的な再生力を使って毒の浸食から何とか生き延び、何本かの頭を器用に使って口で毒槍を銜えては引き抜く、などと言うことをやってのけていた。元々の毒耐性もあるのだろう。それでも残りの頭は警戒心を解かず、水の魔術を展開し始めている。


「戦闘能力としてはすでに把握したんだが、どうやって倒すかだな。」

「一撃のもとに倒すほかありませんな。」

「光球ぶっ放しても多分再生されちまうなぁ。」

「…いや、割と単純な方法を思いついたぞ。最近派手さに目が行き過ぎていたかもしれん。」

「主よ、方策が?」

「ああ、基本、やることはさっきと同じだ。」

「俺は、炎壁展開のみでOK?」


 こくりとテレスタが頷くと同時に、ヒュドラが四条の水を吐き出した。轟!狙い違わずアグニが炎壁を展開、テレスタはまたも毒槍を展開するも、先ほどとは、少しだけ条件が違う。


(神経毒にばかり拘るからこういうことが起こる。はじめから、出血毒と筋肉毒にすれば良かったんだ。)


 神経毒、とは神経伝達をかく乱し、骨格筋の活動を停止させる種類の毒で、コブラなどが持つ毒とされる。それに対し、出血毒・筋肉毒とは出血を止まらなくし、血管系の細胞を破壊したりする毒で、クサリヘビなどが持つ毒である。テレスタは相手をさっさと楽に殺してしまうために神経毒を多用していたが、実際ヒュドラのような細胞を再生する力が強い魔獣に対しては、破壊したものが治らなくなる毒素の方が効果的であると考えられる。あとは、相手のタフネスが勝るか、毒素の凶悪さが勝るか、の話なのだ。


 そして、さしものヒュドラも体を再生させるそばから破壊していく出血毒・筋肉毒の脅威は初めて体感するのか、湖上で身を捩らせながら何とか回復を図るも、毒槍であけられた穴からは大量の血液がとめどなく流れだし、焦燥の色を濃くしていた。あとは簡単だ。単に、出血毒の雨を降らせればよいのである。我ながら、悪魔のような所業だと思うテレスタ。アグニが一言、「地味だなぁ」と呟いているのは、取りあえず聞かなかった事にしよう。


 ヒュドラはその後も1時間ほど暴れまわったが、ついに事切れて湖面にその躯を浮かび上がらせている。テレスタはと言うと、それをじっと見守っていただけなので、すっかり全回復。ヒュドラ肉を、有り難く頂戴することにする。


「うお、この肉すげぇな、魔素の濃さが今までと違う!」

「主よ、言葉遣いが荒れておるぞ。」

「そうだぞ、大将。俺みたいなしゃべり方になってるぞ。」

「うるさい、せっかくのAランク魔獣の肉だぞ。」


 その夜は、ヒュドラ肉を盛大に食い散らかした所為か、これまた盛大に脱皮を繰り返し、テレスタの体長は明くる朝には40メートルを超えていた。そして、そのテレスタの眼前に広がっていたのは、今までよりもはるかに多い魔素と魔獣の気配だった。



 

いつも有難うございます。

ブラジル人の友人が、コーヒー豆を現地から持ってきてくれました。

焼きむらがすごくて、日本人のロースターを改めて尊敬しました(笑)

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