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毒牙の泉  作者: たまごいため
第4都市モレヴィア
21/105

冒険者、という仕事。

「まさか、こんな規格外があっさり都市の中へ侵入してくるとはねぇ。」


 シーラはため息を吐いて、呆れるように言った。情報統括部の応接室には、現在シーラとマルコーニ、机を挟んでミレア、カーミラ、ライナスがソファに腰かけている。そして、その中央、テーブルの上には、1メートル程度のサイズになったテレスタが鎮座していた。


「あんたがた、本当にあたしらが同行していなかったらどうやってモレヴィアに入ろうと思ってたんだい?こんな怪しげな魔獣、検問で通せるとはとても思えないけどね。」


 シーラはいぶかしげに3人のダークエルフを見やる。ライナスとカーミラは、横目にちらりとミレアを見やる。そのミレアはと言うと、落ち着きを払って出されたお茶をゆったりとした所作で一口含むと、微笑んでシーラを見返した。それだけである。


 「まぁ、今となっちゃどっちだって構わないことだよ。わざわざ協力してもらったんだ、詮索なんざ野暮なことだよ。それで、この規格外君のデータは取れたのかい?マルコーニ。」


“テレスタだ。”


 突然浮かんだ念話に、シーラとマルコーニがビクリと反応する。念話については報告を受けていたものの、シーラは初めてその声を聴いた。いや、頭の中にそれを受け取った、と言うべきか。


「…へぇ、これが念話。なるほど、これは失礼したね。テレスタ殿。」


 わざとらしく一礼するシーラに、別に拘りがあるわけじゃないけどな、という雰囲気のテレスタ。そこに、マルコーニが割って入る。


「はい、先ず、アラートに関してですが、こちらはEと判断いたします。何よりもまず意思の疎通が可能であり、かつ、人類に対しての敵意というものを殆ど感じ取りません。もちろん害意を向けられれば違うでしょうが、少なくとも一般の魔獣に比べ非常に低いことは紛れも無い事実であると言えるでしょう。次に、ランクですが、これはSと判断して間違いないかと考えられます。本部に戻ってからの本格的な魔素量の計測で明らかにAランクを超える反応が見られます。このような力を持った魔獣が誰にも知られることなく存在していたこと自体が不可解ですが、それでも計器類に故障は見られないため、厳然たる事実であると受け止めるべきと考えます。」


「ん、ご苦労さん。」


“いや、私はまだ生まれてから3カ月程度だから、誰も知らんと思うぞ。”


「…なんだって?3カ月?じゃあ、何かい?ここからまだ成長するって話かい?」


“少なくとも、私はその予定だが。”


 それを知ってシーラはまたも盛大にため息を吐く。逆にマルコーニは息を飲んで目を丸くしている。魔獣が成獣になるまでの期間は様々だが、こと身体の大きな種族に関しては1年や2年では無いことは知られている事実。


「ひとつ聞きたいんだが、テレスタ殿。あんたの種族はあんたの他に仲間や群れみたいなものは居ないのかい?」


 シーラは単刀直入にテレスタに切り込む。こんな規格外がわんさか群れてこられては、それこそ人類の危機と言うべきものだろう。その頭数把握が意味するところは大きい。


“いや、私は生まれた瞬間には周りに同種の個体は居なかったし、卵も一つだけだった。故に私の知る限り私と同種の魔獣は私一体だけだ。”


「ふむ、卵が突然変異したのか、あるいは…」

 (竜種が子孫を残したか)


 シーラはそこから先は告げないことにする。自分でも考えたことが馬鹿馬鹿しく思えたのだ。この世界に於いて、竜種・ドラゴンというのは魔獣とは別の存在として扱われている。根本的に生き物としての器が違い過ぎるのだ。彼らは大都市一つを一昼夜で破壊・殲滅出来ると言われているし、古代には国を相手取った戦争をたった一頭で起こしたものもあると聴く。しかし、それらが全て伝聞でしかないのは、ここ数百年、竜種を見たという人間が存在しないからで、かといってそれまで存在していた竜種の亡骸がどこかで発見されたという事例も無く、要するに竜種というもの自体が古代人の創り出した自然災害の象徴、幻に過ぎないのではないか、とも言われている。

 そんなものが突然どこかから降って湧いたなどと、自分の口から出かかったことが可笑しかったのか、シーラは自嘲気味にくっくっと笑うと、テレスタに向き直る。


「いずれにせよ、あんたの一族が他に見当たらないのは、こう言っちゃ悪いが私たちには僥倖だ。あんたみたいのがゴロゴロ居られるんじゃ、冒険者を仕事にする人間がいなくなっちまうよ。それどころか、人間だって地上から退場しないといけなくなるかもしれないからねぇ。」


“まぁ、そういうものなのだろうな。”


 Sランクという魔獣自体が、この世界でも数えるほどの種族しか報告例がない。そもそもSランクとは、冒険者の手に負えない、軍隊が対峙して殲滅するべき対象、という扱いである。魔獣のランクというのは冒険者のランクとほぼ同義で使用されている。Fランクの魔獣はFランクの冒険者パーティ5人相当の強さ、という形式を基準に、同E、D、C、B、Aという風に考えられている。しかし、Sだけは、そもそもパーティが組めるほどSランク冒険者の数がおらず、かといってSランク冒険者1名でのSランク魔獣討伐は難しいため、全く別枠と考えられているのだ。

 ちなみにもう一つ魔獣の基準として用いられているアラートとは、遭遇した際の危険度、攻撃性を現している。例えば、一時期テレスタの主食であったエルム・ソレノドンなどは、アラートはB、ランクはD、などと言う扱いになるわけだ。


「ともあれ、テレスタ殿、本日はご協力いただき感謝するよ。お連れさんたちももう宿に戻ってもらって構わない。宿の方はこっちで手配させてもらったから。ルダス、道案内をお願いできるかい?」


「了解いたしました、では、皆さんお疲れでしょう。どうぞこちらへ。ギルドの近隣に宿を手配いたしましたので。」


 ルダスは丁寧にあいさつをすると、ダークエルフ3人と一匹を階下へ連れだって歩いて行った。上司であるシーラと随分と違った雰囲気の部下だな、と、誰ともなく感心する。





 階下のギルドホールに下りた一行。テレスタはきょろきょろと辺りを見回した。沢山の打ち合わせ用のテーブルセット、受付には多くの冒険者らしき人間が列をつくっている。大柄の戦士然とした男、華奢な女性の魔術師、騎士のような鎧に身を包んだもの、依頼の受注・発注を受ける者。様々だ。夕刻、それらの大半は一仕事終えて帰ってきたところなのだろう。


“ルダス殿、つかぬことをお聞きするが、冒険者とは、そもそもどんな生業なのだ?”


 テレスタは徐に問いかける。理由は、冒険者という職業、といってもあまりにもザックリとしていて、いまいち掴みどころが無かったという事が一つと、ギルドホールの雰囲気が全体に明るく、多くの者たちは仕事を楽しんでいるように見えるのがもう一つだ。

 ルダスは念話にも慣れたようで、丁寧に答える。


「テレスタ殿、冒険者、とは簡単にいえばギルドを通して仕事の依頼を受注する人々の総称です。たいていの場合は個々に専門分野を持ち、それらの仕事の依頼をその日ごとで請け負っています。言ってみれば日雇いなので、彼らは仕事をしたい時に仕事をしている、とも言えますね。」


“ふーん、いい職業だな、自分のしたい時に、というのがなんとも良い。”


 仕事など当然する必要のないテレスタではあったが、したい時にしたいことを、という響きが気に入ったのか、そのように漏らす。


「ええ、ただもちろん仕事が無ければ生活を支えるのは大変ですし、そもそも腕が上がらなければ中々仕事の受注自体も出来ません。先ほどの魔獣のランクでは無いですが、冒険者のランクはそのまま信用に繋がっていると言えます。それで、冒険者も初めの頃はともかく受注できる仕事をなんでも請け負う訳ですが、闇雲に取り組んでいても信用は上がりませんから、少しずつ経験や蓄えが出来てくると自分の専門分野を持つようになります。その道の信頼できる存在として認識してもらえるように取り組むようになるわけですね。それが、先ほど申し上げた、個々の専門分野、ということになります。」


 こんな、黒蛇の興味本位に懇切丁寧な解説をしてくれるとは、ルダスという職員は余程気の利いた面倒見の良い性格の持ち主なのだろう、とテレスタは思いながらも、もう少しだけご面倒をかけることにする。


“それで、その専門分野とは、いかなるものがあるのですか?”


「そうですね、概ね、魔獣討伐、鉱石採集、薬草採集、食材採集、隊商護衛、軍務参加、潜入調査、などがあげられるでしょうか。」


“なるほど、本当に色々あるのだな。有り難う。魔獣討伐位なら、いつもやっているからお手伝いが出来るかもしれないな”


「どういたしまして、テレスタ殿にお手伝い頂けるのであればそれはそれは助かりますが、誤って討伐対象を全て食べつくさないようにお願い致しますよ。」


“それは、困るな、魔獣は倒したら食べるものだと相場が決まっていると思ったが?”


 少し軽口を叩きあう。テレスタが冒険者について色々聞き込みをしているのは、興味があるという知的欲求ももちろんだが、もう一つ、気になることがあったからだ。自分の中にある、「人間たちを、たとえ害意を持たれたとしても、救ってほしい」という何処からか湧いてきた想い。それをどのように消化したらいいのか、そのヒントになるのではないかと思ったからだ。ただ、今のところ答えらしきものは得られていなかった。


「さあ、皆さん、こちらが本日こちらで手配いたしました宿でございます。お疲れでしょうから、ごゆっくりお過ごしください。」


 会話に夢中になっていたようだ。一行は気付くとギルドホールの程近くに位置する、小奇麗な宿へ到着した。ルダスは恭しく挨拶をし、宿の主人にギルドの客人であることを伝えると、一礼してギルドへと戻っていった。

いつも有難うございます、

ストーリーの着地点が不明になりつつ、

えいっと進むと何となく着地出来たりするんですね。

不思議です。

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