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毒牙の泉  作者: たまごいため
湿原にて。
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アーマーン②

 その後も、何度か似たような応酬があった。圧縮された水のブレスはテレスタの強化毒膜を穿ち、そのたびに魔術を補充して回復する。逆にテレスタの放つ毒槍は相手の水球を貫くことが出来ない。ならばと毒槍の本数を減らし、巨大な一本の掘削機のような形状にして射出すると、アーマーンは強靭な四肢を使って横っ飛びにそれを回避し、ダメージを与えることが出来ない。またしても膠着状態。毒霧は相手に届かず、尻尾による打撃は射程範囲外。


(さて、どうするか。幸い、魔素は常時補充されているから切れることは無いけれど…それは奴さんも同じこと。)


 次の手を模索するテレスタ。けん制にスピアを放ち続けるが、苦も無く横に避けられる。と、最後の一本ををそのまま横に避けると考えていたテレスタは、刹那、アーマーンの動きに意表を突かれてしまう。相手は四肢を思い切り曲げて力をため込むと、テレスタに向かって矢のような速度で走り出したのだ!ギリギリで頭上を進む毒槍をかわすと、一瞬でテレスタの懐まで入り込み、鋭い爪の生えた右前足を横凪に振るった。


(まずい!)

「グラァァア!」


 テレスタの思考と魔獣の咆哮が交錯する。そしてその右腕の爪は毒の鎧を弾き飛ばし、鋼鉄もかくやという強度の漆黒の鱗を抉った。


(ああ、血の色はやっぱり赤。)


 ほんの一瞬、まったく別の場所で冷静な見解をする自分を、直ぐに現実に引き戻す。アーマーンが左腕を下から猛然と振り上げるのが、それと同時。


(そう、何発も打たせるか!!)


ドギャッ 


 鈍い音とともに、アーマーンが脇腹からくの字に折れ曲がり、右後方へ吹き飛ばされていく。テレスタの尻尾の一撃が左わき腹に直撃したのだ。盛大に水しぶきを上げた後水面から起き上がると、さしものアーマーンも ゴポッ という音とともに血反吐を吐き出す。しかし、まだその目は死んでいない。お互い、必殺の一撃はどうやら近接戦闘にあると理解し始めたようだ。


(近接戦の手数はどうやらあちらさんの方が上。そうすると…こちらの取れる手は…)


 考える暇もなく、アーマーンが突進してくる。短期決戦に切り替えたようだ。四肢で躊躇なく直進すると、テレスタの懐で立ち上がり、両腕をクロスするように大きく振るう!


(耐えろ!私の身体!)


 それに対し強化毒膜を思い切り硬化させたテレスタは、アーマーンの両爪の必殺の一撃を胴に受けながら、奴の右首筋に噛み付いた。テレスタの身体から鮮血の飛沫が散る。ガギギギ!鉄と鉄がぶつかるような音を立てて、牙と鱗が摩擦し、じりじりと熱を発する。しかし、テレスタの牙は通らない。アーマーンがもう一度左腕を振りかぶったその時、


(これで、ぶっとべや!!!!)


 強烈な火炎魔術がアーマーンに襲い掛かる!轟轟ッ!!!


だが…


(え?そこでお前がブレス吐くのかよ!)


 驚いたのはテレスタ。何しろ、自分が噛み付いたまま火炎を吐き出そうとしていたのに、アーマーンの正面から思い切り劫火を吐き出したのは、先ほどまで自分をじっと見つめていた新しい自分の顔だったからだ。呆気にとられそうになる自分を振り払う。


(まあいい、とにかく次だ!)

「グギャアアアッ!」


 強烈な火炎にたまらず悲鳴を上げるアーマーン。顔から上半身の鱗全てからブスブスと黒い煙が上がり、どうやら両目の水分が沸騰して蒸発したらしく、苦しみと相手への恐れからかその場でブンブンと両腕をふるっている。相手が失明したならば、後始末は簡単だ。テレスタは鋭い毒槍を空中に侍らせると、躊躇なくがら空きとなった相手の腹部へと放った。 スブリ と、音が聞こえたような気がした。大量の神経毒を体内に注がれたアーマーンは、成す術もなく水面へ音を立てて倒れ込んだ。






「…それで、お前は誰なんだよ。」

「俺は、あんたの火属性の魔力だ。あんたが火炎魔術を使ったおかげでようやく意識が繋がったのさ。」

「それまでだってずっと話しかけてたろうが」

「あー、あれ反応出来んかった。自分の属性魔法がスイッチだからな。勘弁してくれ。」

「勘弁してくれ、はこっちのセリフだよ、全く、美味しいところだけ持ってきおって。」

「まぁ良かったろ?役には立ったんだしよ。俺だって出来りゃさっさと目覚めたかったよ全く。」

「だからなんでいきなり出てきてお前の方が偉そうなんだよ。」

「しゃあないだろ、こういう性格なんだよ。デフォルトだデフォルト。」

「はぁ、いきなり二重人格とか…」

「どっちかっつうとしゃべる武器みたいなもんだろ?この声は外には聞こえねぇんだし、そう暗くなんなよ。」

「…しゃべる武器とか何だよ。まぁ、しょうがないか、今後ともよろしく頼むよ。」

「おう、頼まれたぜ大将!」

「誰が大将だよ…。」


 概ね、理解することは出来た。新しく生えてきた首は、テレスタの火属性魔素が集まったもの。火属性ばかり鍛錬して、もともと持っていた毒属性に近い素養まで伸ばしたことによって、本来持っていなかった火属性の魔力が開花し、新しい首が生まれたらしい。

 新しい顔など欲したことも無かったテレスタは深いため息をつく。しかもこの火属性魔力の頭は意思を持っており、ついでに言えばちょっと性格が雑駁で暑苦しい。お腹の減りも激しいし、何とかして取り外せないものなのか…。


「そりゃ、無理ってもんだぜ大将、俺はあんたなんだから、もう諦めろよ!ハッハ、慣れれば楽しくなるってもんだろうがよ。」


 とはいえ、悪いことばかりでもない。何せ基本的に言うことは即座に聴いてくれるし、おかげで毒魔術と火炎魔術を同時に使用することも出来るようになったようだ。並列思考みたいなもののようだ。戦闘能力は以前よりも飛躍的に上がったと言えるだろう。次にアーマーンが襲ってきたとしても、毒槍と火球のコンビネーションで近づく隙も与えずに倒すことも出来るかもしれない。


(ともあれ、夕飯にありつくとしますか。今日は色々あって疲れた。)


「大将、飯にしようぜ!」

「…もうお前しゃべるな、メンドクサイ。」



 明くる朝、久々に大量の魔素を身体の中に取り入れ、盛大に脱皮をしたテレスタの体長は20メートルを超えていた。昨日アーマーンに深々と抉られた胴の傷は痕こそ残っているがしっかりとふさがったようだ。そして、後ろを見れば尻尾も2本になっているではないか。全くどうなっているのだ、とは思ったが、新しく生えてきた首やら尻尾やらは実体では無く、厳密にいえばルノ達精霊に近い魔素の塊なのだという。急激に魔素を使い込んだため暫くは空腹が続くかもしれないが、魔素が身体に満たされれば、今までと変わりなく源泉を離れた村でも活動出来るようだ。

 それにしても、とテレスタは思う。


(属性を増やしていく可能性は広がったものの、属性をものにすると、きっとその分だけ頭が増えるということだよな。…憂鬱だ。どうせ増えるなら、出来れば大人しい子が増えると良いのだけど。まぁ、それも自分か。はぁ。)


 よもや属性を増やすことまであきらめるつもりは無いが、自分がどんどん多重人格になっていく悪夢を想像したテレスタは、深いため息をついたのだった。

いつも有難うございます。

ね、眠いっす。今日は3話書きました。

一度の投稿に10000字書いてる方とか、ほんと凄いですね。

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