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毒牙の泉  作者: たまごいため
プロローグ
1/105

天の庭

「女神さま!女神さま!ついに僕にも転生の機会が巡って来たんです!」


 嬉しそうに走り回っているのは、一人の子供。金色の美しい髪は少しだけカールしており、耳にかからない程度の短髪。顔立ちは白人のそれに近く、目鼻立ちはくっきりとしている。年齢は、4歳くらいだろうか、それにしてははっきりとした言葉遣いをする。服装は白いローブを纏っており、足は裸足だ。

 一見するとありふれた子供なのだが、その背中からは1対の純白の翼が生えている。


「あら、ライル、今度はあなたにも巡って来たのね。何度目になるかしら?随分長い間待っていたようだし、もうお仕舞も近いのかしら?」


 話しかけられた女性、女神は月桂樹の冠をつけ、栗毛色の髪を膝まで伸ばしている。純白のドレスはゆったりとしているが、豊かな旨や腰の括れなどを隠すことは出来ず、女性らしい美しい曲線をつくっている。彼女は座っている大きな切り株から立ち上がると、ライルと呼ばれた天使の方へと屈み込み、慈しむように穏やかな微笑みを向けている。


「そうなんです、女神さま。ちょうど10万回目の転生です!今までの中でも、特別なものになるんじゃないかと思って!魂は10万回の一生を以て次の段階へ拡大するって、僕、女神さまからずっと前に教わりましたから!」


天使からこぼれる、まるで透き通った宝石のような言葉たちを聴きながら、女神もまた嬉しそうに答える。


「ふふっ、そうね、きっと今回の転生がライルの霊性の拡大を今までにないところまで進めてくれるでしょうね。それにしても、もうライルが転生を初めて10万回が過ぎたのね…ついこの前、キラキラしたゼロの魂だったのに…」

「僕だってもう立派なオールド・ソウルですよ!子供みたいに扱わないでください!」


 オールド・ソウル。8万回以上の一生を転生してきた天使達に与えられる総称。熟練した魂、拡大したエネルギーを含んだ、女神にも近い存在。この場所には、初めての一生を終えてやってきた天使から、ライルのように10万回目の一生を控えた者まで、実に多くの、いや無数の天使たちが暮らしている。

 ここは女神・イストリアの庭園。永遠に広がるかのように見える広大な芝生の草原、所々に見受けられる灌木と泉、限りなく透明な空気と抜けるような青空がどこまでも広がっている美しい空間。そこかしこに子供の姿をした天使たちが集まり、めいめいが楽しそうに自分たちの今までの経験・これからの事を話し込んでいる。

 そんな中で、ライルは自分に転生の順番が回ってきたことを告げられた。それはこの空間の誰かから話しかけられ、お告げがありましたよ、と伝えられるわけではなく、インスピレーションとして突然降ってくるもの。だからこそ彼は、この空間の主である女神・イストリアに真っ先にそのことを伝えに来たのだ。


「イストリア様、僕はついこの前、カノンが10万回目の一生を終えて帰って来たときに、話を聞くことが出来たんです。やっぱり10万回目の一生は内容が全然違うんですね!驚くほど変化に富んでいて、豊かで、あらゆる感情があって…聞いているそばからワクワクが納まらなくって。カノンはもう天使から次の段階への拡大のためにこの庭園から旅立ってしまったけれど、本当はもう一度その一生の話を聞きたいくらいです。

だから、僕もカノンに負けないくらい、凄い一生を送ってみたい!」


「ええ、ええ、そうね、ライル。あなたは今回の転生を天上からいつも通り注意深く選ぶことが出来るわ。そして、今回あなたはいつも以上にインスピレーションに富み、素晴らしい一生を送れる器を見つけることが出来るでしょう。今のあなたに言うようなことでもありませんが、一生の選択に失敗は在りません、失敗は無いのです。すべては愛と豊かさに通じていますよ。」


「はい、有難うございます!」ライルは軽快に応える。


そこでしかし、イストリアは微笑みを消し、真剣な表情を浮かべる。


「ですが…その一生を生きている間は、辛く苦しいと感じる時間も多いでしょう。嘆かわしい出来事も一つ二つではありません。特に、あなたは今回が最後の転生。今までの比ではなく、たくさんの困難に出会うはずです。故に私はあなたに問います。あなたはどんなに辛く苦しくとも、その一生を投げ出さず、すべてを完了してこの庭園へ戻ってくると誓うことが出来ますか?」


 時に、転生先で辛くなってやるべき人生を放棄したり、あまりの辛苦に自殺してしまうものもある。それは、天使が転生している間は天使であった時の記憶を一切消去していることが影響している。もしも何度もの転生を繰り返していると自分で知っていたならば、一度の生に絶望することなどそうそう有りはしないと考えられるのだが、記憶を全く無くしているのであればそうも言っていられない。記憶を消去することは、ひとつの生を全く新しく生きるという目的に沿って行われ、それが天使の転生する目的たる意識の拡大をサポートする重要なファクターではあるのだが、いかんせんそういった弊害をもたらすことも知られている。

 そんな自殺をしてしまった天使は、この庭園へ戻ってくると自分が転生を繰り返す存在なのだと思い出し、激しい後悔に苛まれる。それに、その一生は転生の回数へとカウントされず、次の転生の機会も他の天使たちから大幅に遅らされてしまう。それ故、イストリアは天使たちに必ず問うことにしているのだ。次の転生を無駄にせず、全てに責任を持って一生を全うできるか、その機会を無駄にしないか、と。


少し考えた後、ライルは応える。

「…ええ、女神イストリア様。私はきっと最後の転生を全てやり切って、こちらへ戻ってまいります。」

「良い返事です、ライル。あなたの言葉を信じましょう。」

そう言って、女神はまた微笑んだ。


---------------


 庭園のそこかしこにある池。まるで鏡のように青空を映し出し、その水は全くの透明。その透明度は、もしも青空を反射しなければ、そこに水があるとすら解らないほどだ。

 そのうちの一つの畔に、ライルはやって来ている。池の縁に膝をかがめると、そのまま顔を水面へとゆっくり落としていく。


(次の転生先の器を探さなくっちゃ)


 そう、これらの池は全て様々な星々へと繋がっている。この広大な宇宙の中で生命を宿している星。無数にあるその星のさらに無限ともいえる生命の中から、自分が一生を生きるに足る器を探し出していく。その作業は、まったくのインスピレーション頼み。直観をどんどん鋭敏にさせながら、様々な生命の鼓動、それらが発するエネルギーへと耳を傾ける。

 

(全身全霊を賭して…自分と波長がピタリと合う器を見つけ出す…うん、少しずつ聴こえてきた、この感じ。すごく生命にあふれた場所に在る…見えてきた。あれは、うん、どうやら…タマゴ?)


 それは、漆黒の球体。表面は陽の光を反射して輝いており、大きさは、子供が両手に抱えるほどに大きい。10万回近い転生を続けてきたライルでも、真っ黒いタマゴというものを見たことは殆ど無く、一瞬だけ眉を顰める。

 それでもそれは一瞬だけのこと。ライルが感じている自分と同調する波動は、明らかにこのタマゴからやって来ている。即ち、この最後の転生を行う器は、このタマゴということで間違いない。


(ぶはっ)


ライルは池から顔を上げると、女神の下へと駆け足で向かう。背中の羽は、飛ぶためのものでは無いらしい。ちょこちょこと飛び跳ねながら、女神の足元にやってくる。


「女神さま、転生先の器を見つけました。」


「そうですか、どのような器になりそうでしょう?」


「真っ黒なタマゴです。一体どのような生物なのか、今は解りませんが…僕との波長はバッチリ合っています」


「生まれてみてのお楽しみ、という事ですね。…ライル、旅立つ前に、ひとつだけ。いつもの事だけれど、貴方のインスピレーションはいつでもこの庭園、ひいては私へと繋がっています。貴方の世界に必要な知識は、必要なだけ貴方が眠っている間に夢に上書きしておきましょう。ですからいつでも心を開いて、閉ざさないようにしておくのですよ。そうすれば、何も心配はいりません。」


「はい。有難うございます。それでは、最後の転生へ行ってまいります。」


「行ってらっしゃい。貴方に私の加護に代えて、あなたの転生先の名前を授けます。良い一生になりますよう。」


 頷いて、ライルは先ほど顔をつけていた池と向き合う。そんなライルの耳元で、女神が何事かささやく。

それを聞き終えると、ライルは何の躊躇もなくそのままつま先から池に飛び込んだ。


物凄い勢いで星々の間を飛び、目指す地上へと吸い込まれていく。それこそ、光をも超えたような速さで。そして眼下にちらりと先ほど伺ったタマゴが見え、あっという間にそれと衝突するかという時、ライルは意識を手放した。


…あなたの名前はテレスタ。地上での最後の一生の意を込めて。


そんな女神の囁きのみを焼き付けて。




小説初挑戦です。

いろいろ、難しいですね。

絵は浮かぶんですけどその後の言葉がね。

語彙力が足りないなぁ。

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