二之巻
まぁ見失うわけで
あいつ首から何か下げてたってことは野良狐じゃなくて飼い狐ってことなのかな。
夢中で走っていて気づかなかったがからくり玩具をもったまま走ってきていた。
これをとっとと質に入れてしまおう
それで今日のところは嫌なことを忘れてこのからくりでつくった金で一人宴会でもすることにしよう。
「質屋ぁ~!こいつを頼む!」
「なんでい佐ノ助、またガラクタをうちに売りつけてそれで飯食おうってんじゃねぇだろうな」
「いいからよ!こいつをみてくれ!この重厚感ある見た目!西洋から入ってきた品だぜぇ?」
質屋は難しい顔でからくりをじーっと見つめている。
「2千円」
「はぁ!?そんなわけねぇだろ!?こいつがそんな値段なわけねぇ!」
「ほーう、じゃあ佐ノ助ぇ!こいつをどこで手に入れたんだい?」
「それは・・・」
俺は2千円を手に広げ、もと来た道を歩いていた。
質屋の野郎は見る目がない。
だがないよりはマシ、この残った金でなんとか生き抜いて日雇いの仕事でも探すか。
「佐ノ助のやつ、こんなもんを持ってきやがって、こいつはさらに高く買い取ってもらえるぜぇ」
夜、俺は腹をすかせながらボロボロの頂点を極めたかのような家で
ポカンとあいた天井から顔を出してる月を見ながら寝転がっていた。
そしていつの間にかウトウトして・・・。
「―――――――――・・・・――――!!!!」
(ん?)
外が騒がしいようななんだかいつもと違う変な感じだ
いつもと違うのは俺の家か・・・
「おい!―――――・・・・・!!」
(やっぱり変・・・だな。)
眠い目をこすり目を開ける。
まだ夜中らしいのは天井からの景色で伝わった。
すでに月もこの穴から見えなくなる位置まで動いたようだった。
夜中なのに外から聞こえる声が多すぎることにも気づいた。
何かが起こっている。
(目も覚めちまったし野次馬根性とはよかねぇが、みにいってみっか。)
家を出たところで騒ぎがどこで起きているのかがすぐわかった。
そこだけきれいな夜空に小さい橙色の光が邪魔をしていたからだ。
少しだけ走っていくと俺とおんなじ野次馬たちが群れをつくっていた。
「はい~すいませーん通りますよ~あぁ!前すいません!」
殴られたり怒鳴られながらもようやく前にたどり着いた俺はそこでやっと何が起きているのか確認できた。人が信じられない勢いで燃えていたのだ。
町奉行(今の警察)の人間が火消しに必死になっていた。
「すいやせん!あれはどういうことですか?」
「おう、兄ちゃん知ってるか?最近の噂話。夜に出歩くと妖に魅せられてあぁなっちまうんだとさ」
「あぁ~そうなんですかぁ~ハハッ」
でたよ怪談話、そんなわけねぇじゃん。
どうせ煙草の不始末とかで羽織に引火したんだっての!
しかしそれにしても全然火が消えねぇもんで、町奉行の連中は手間取っていた。
ようやく火が消えたときにはもう火元は黒焦げになっていて、
見るも無残なものだった。
あたりには異様なにおいが立ち込め、野次馬の中には嘔吐している者もいた・・・って待てよ。
(まさか!!)
俺は町奉行の連中を跳ね除け火元に向かっていった。
だって燃えていたのは・・・
「質屋・・・」
「佐・・ノ・・・てめぇ・・・危ねぇ・・・持ってきやがっ・・・」
質屋は不自然に砂のようにして俺の前で消えた。
あたりはその光景にざわつきはじめた。
(あのからくりのせいで質屋は何者かに殺されたってことか?そんな危ねぇもんが俺んとこに
きてたってことか。)
俺はこの時普通によかったと思った。
今頃砂のように風に流され消えていたのは俺だったかも知れなかったと思うと
罪悪感と安堵感では後者のほうが勝った。
町奉行の連中が俺を現場から引きずり出されたあと、気分転換に少しだけ遠回りで帰っていた。
さっきのきれいな蒼い夜とは打って変わってどこまでも黒く感じた。
昼とは違った顔の町、自分の周りだけ音がなくなったような、まるでここだけ音のない世界のような
そんな風に感じる夜だった。
そろそろ家につく頃、大きい通りから外れ次の角を右に曲がった細い路地が見えたときにそれはいた。
みただけでわかった。
(こいつはやばい!!)
静寂な町の景色に不自然なものがそこにいた。
牛だ
牛は自分に背を向けた状態だった。まだこちらには気づいていない
この異様な空気感普通じゃない。いること自体変ではあるが、
ただの牛ならこんな殺気立ったヤバい空気は出ない。
町のおっさんが言っていたことは本当だったのかもしれない
奴がこっちを向かないうちにもとの道に戻ろうとゆっくり足を動かす。
自分の体の半分が路地に隠れた。
(もう少し、もう少しだ!)
気づかれないようにゆっくり、おそらく俺史上一番ゆっくりだろう。
体のほぼが路地に隠れたところで牛から目線を切りもとの道をみる
【オ・・マエハ・・・ヤケシヌ】
!?
目線を変えた先、路地の微かな月明かりに照らされたヤツが俺のすぐ1m先にいた
【オマ・・エハヤ・・・ケシヌ】
すぐに逃げなければいけないはずなのに足が動かなかった。
思考もままならなかった。
自分の想像をはるかに超えていることがいくつか重なって起きている。
牛の顔は醜い無表情な男の顔。体は牛の半牛半人だった。
突然牛は体がぼこぼこ歪みはじめ体が人、顔が牛に反転した。
一体どういう仕組みなのだろう。
『走れぇ!』
どこからともなく聞こえた声ではっと目が覚めた。
足が勝手に動く、自分とは思えない速さで足が回る。
がむしゃらにひたすら走って振り返るとヤツはいなかったが
息はバカほど上がっていた。近くにあった小さい小屋に一目散に駆け込んだ
とりあえずは隠れることはできたがこれ以上走れないと思った。
なにせ急に走ったもんだから脇腹が痛い。
『お前死にたいのかい?あんな風に突っ立ってちゃお前もあいつの炎にやられてたね』
また声が聞こえた。今はこの声に助けられたがその正体がわからなかった。幻聴か?
『幻聴だとか思ってんだろ。違うよ。ここだよ』
声がすぐ近くで聞こえた。見渡せば小屋の小さな小窓の下に一匹の狐がいた。
「ってお前!昼間の狐!」
なんで昼間の狐だとわかったかというと首飾りをしていたからだ。
そして一番は俺の大福を食べた憎たらしい顔はこのヤバい状況でも忘れていないからだ。
よくみると首から下げているのは手裏・・剣?
『うるせぇ!ヤツに気づかれちまう!』
とは言いながらもこいつはどこか余裕のある感じだった。
「ってかしゃべれるの!?っていうかあいつは何?
お前もなに?いろいろ起こりすぎててわかんねぇよ!」
『質問が多い!俺のことはまずはいい!あの妖の名は件、なにか大きなことがある前に現れ、予言するとされていて、それは必ず起こるというものだ。尤も、あいつは自分で宣言したあとにその場で実行しているだけだから予言とは言い難いけどな』
「妖なのか?なんで俺を!?」
『しらねぇよそんなもん。てめぇがそこにいたからだろ?妖がすることになんて難しい理由はねぇ。時に人を喰らい、人を脅かし、人を助ける奴もいる。人がいる限り妖は尽きねぇのよ』
『そこでおめぇの出番だ。おいシノビドライバーは持ってんだろうな。』
「しのび・・・どらいばー?なんですか?」
『はぁ?なんだっけな・・・なんとかチタン合金でできた腰巻だよ!
お前の家に落ちてきただろうが!』
「な、なに?ちたん?・・・・うー・・・」
(―――質屋ぁ~!こいつを頼む! この重厚感のある見た目! 2千円!?―――)
「うーん・・・質に出した・・・」
『はぁっ!?お前なにしてんだよ!』
【ソコニ・・・イル・・】
窓の外から不気味にこもった声が聞こえたと思えばそこから熊手が壁を突き破って俺の頬をかすめた。
生温かい俺の血が頬をつたった。
冗談じゃねぇよ!血じゃなくて涙がでそうだ。
ってか焼くんじゃないのかよ!その熊手はどこからもってきたの!?
「おい!狐!どうしたらいい!」
『しらねぇよ。ドライバーを持ってねぇ奴は刺されるなり焼かれるなり好きにしやがれ』
と言って狐は小屋の朽ちて崩れた隙間から逃げた。なにこの狐助けてよ。
小屋は奴の攻撃によって今にも崩れそうだった。
そしていよいよ崩れる直前に俺は件がいる方向とは逆の方向へ壁をぶち破り駆けだした。
まずは奴から身を隠すためにたくさん曲がろうと思った。
奴は幸運なことに足が遅く、それで撒けると思った。そして次の道を右に曲がった
!?
地獄に仏という言葉はないんだと確信した瞬間が今だった。
落ちるとこまで落ちただとかこれより不幸なことは起こらないとか
そんなものはない。底知れぬ不幸もあるといううことなのだ。
右に曲がった先にいたのは包帯でぐるぐる巻きになった人のような者が群れでくねくねしていた。
「いやいや妖怪ってあいつだけじゃないのかよ。」
そのあとどれだけ曲がろうと思っても包帯男たちが塞いでいて
曲がることはできなかった。ひたすらまっすぐ走るしかなかった。
とうとう突き当たってしまった。もうどこにも逃げる場所がない。右も左も包帯男だらけ、
後ろからは奴が追ってきている。
そして確信した。
死ぬ
『すごい数だな。こいつらは一反木綿だ。本来は土葬の際に立てる旗に宿りし妖、それが更に土葬した死者たちにでも憑依したんだろう』
こんな時になにを呑気に妖怪の解説なんていれてるのだろう。
まぁこいつは逃げられるしどうにでもなるのだろう。
俺はがっくりと力がぬけたようにその場に座り込んだ。
「またお前か・・・力になれなくてすまないな。」
『何を言ってやがる。お前は本当にヘタレだな、
足掻こうともしない。正真正銘のクズめ・・・足元をみやがれ』
そこにきれいな風呂敷が何かを包んでいた。
『この場所は見覚えないか?そんなに燃える死体が好きだったんだな』
焼える死体?どういうことだ?こんな時にまで回りくどい言い方をしなくてもいいだろうに
『お前は本当にクズだけど、運だけはいい。そこの風呂敷を開けな。』
もうそこまで一反木綿たちは来ていた。ゆっくりではあるがすぐそこまで近づいている。
俺は妙に落ち着いている狐の言葉に耳を傾けそして風呂敷を開けた。
「こいつぁ・・・質に出したからくり玩具じゃねぇか。」
そいつがここにあるってことは。まさか!ここは質屋が焼死体で発見された場所の近く!
っていうか質屋の野郎俺のからくりをいけないところにさらに高く売ろうとしてやがったな。
本当に悪いやつめ。
『そいつはからくりなんかじゃねぇ。シノビドライバーってんだ、急いでそいつを腰に巻きな』
言われるがままにそれを腰に近づけると勝手に巻きついた。
「うわぁ!」
『時間がねぇ。とっとと行くぜ』
というと狐は首につけてた手裏剣の一つを俺に投げつけた。
『急げ!もう時間がない!そいつを構えて持って!』
手裏剣は見たことがないほど綺麗な透明で、赤く輝いていた。
『それを投げる!』
言われるがままに手裏剣を前方に投げる
「って投げる!?一つしかないのに!」
投げた手裏剣はまるで意志があるかのように一反木綿たちを蹴散らし、
最後はこっちに飛んで
「待って待って!危ないって!」
『お前はあほか、腰をみろ』
手裏剣はきれいに腰についていた。
『そいつを回して変身!だ』
あーもう!どうにでもなりやがれ!
「変身!!」