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うり坊と契約する

 生首トマトを見つけた後、俺たちの食材探しは苦戦した。


「この茶色い傘のキノコは、肉厚で旨そうだ」

「ツカサ様、それはダメです。一口食べたら二日間お腹を壊しました」

「この白くて細長いキノコはどうだ?」

「それを食べると、全身に湿疹が出て痒くなります」

「偉いなセピア。全部毒味をしたのか」


 緑豊かな庭園の中には様々な果物や木の実やキノコが生えていたが、セピアの説明を聞くと、どれも食べられない物ばかりだ。 

 しかし生では食べられないけど、火を使える状況になったので、アク抜きをして焼いたり煮たり工夫すれば、食べられる材料があるかもしれない。


「食い物の毒味は、俺の役目だな。

 腹をこわす程度ならいいが、猛毒に当たったらマズいぞ」


 とりあえず俺は見つけた果物やキノコを集めまくって、手提げ袋の中に押し込む。

 その時ホワイト姫が、地面を見て突然声を上げた。


「ツカサ様、ここは危険です。地面に魔獣の足跡があります」


 ホワイト姫が指さした先の大きな水たまりは、巨大な鍵爪で地面をえぐった跡だった。


「この水たまりの足跡は、大きさは50センチぐらいあるぞ。

 どんだけデカい動物なんだ」


 そして周囲をよく見ると、腰の高さほどある雑草が踏みつぶされ、巨大な足跡の動物がそこら中をかけずり回った痕跡がある。


「ツカサ様、この廃城一帯に張られた結界は、人間のみに効果があります。

 動物や昆虫は、結界を自由に出入り出来ます。

 そしてこれは人間よりはるかに大きな魔獣、黒曜魔イノシシの足跡。

 どうやら獲物を求めて結界の中に入りこみ、庭園を縄張りにしたようです」

「この足跡サイズだと、象のように大きなイノシシ。

 今日はこれで引き上げよう。セピアはホワイト姫を背負って城に……。

 待て、そこの茂みに何かいるっ」


 大きな足跡が続く草むらの向こうから、ガサガサと物音が聞こえ、こちらに何かが近づいてくる気配がする。

 俺たちは慌てて、巨木の陰に身を隠した。


「イザとなったら俺が囮になって時間を稼ぐから、セピアはホワイト姫を連れて城に逃げろ」


 ケンタウロスの娘、セピアの脚力なら魔獣を振り切って安全な場所まで逃げることが出来るだろう。

 俺はリュックからよく切れる包丁を取り出して構えるが、こんな武器で魔獣と戦える訳ない。

 包丁を持つ手にじわりと汗がにじみ、息を潜めながら草むらを睨んだ。


『ぷひっ、ぷひひっ、ぷにっ』

「えっ、小さい。なんだあれ?」


 そして草むらをかき分けて現れたのは、額に黒曜石のような角が生えた、小型犬サイズの魔獣。

 潰れたピンクの鼻をひくつかせ、もっちりと肥えた白い毛並みのうり坊だった。


「ツカサさまぁーーっ、アレは肉。いいえ、黒曜魔イノシシの子供ですっ」

「うわぁ、可愛いなぁ。全身純白の短毛に背中の縞がピンク色、大きな瞳をしたヌイグルミみたいなうり坊だ」


 うり坊はプヒプヒと鼻を鳴らしながら周囲をうかがい、そして俺と目が合う。


「ツカサ様、早く肉を捕まえてください。

 ああっ、我慢出来ません。そのナイフを貸して、私がやる!!」

「ちょっと待てセピア、早まるな。

 草むらに親イノシシが隠れているかもしれないぞ。

 しかしうり坊は、どうして俺ばかり見てるんだ?」


 草むらから出てきたうり坊は鼻を動かして匂いを嗅ぎながら、お尻をふりふり俺に向かって歩いてくる。


「そういえば高級食材のトリュフは、嗅覚の優れるブタに探させる。

 猪とブタは仲間だし、もしかしてうり坊は、俺が集めたキノコの匂いに反応しているのか?」

 

 俺は手提げ袋の中から、松茸に似たキノコを取り出すと、半分に裂いてうり坊の目の前に投げた。


『ブヒッ、べしっ、プープー』


 うり坊は松茸モドキを前足で払いのけて、不機嫌そうに鳴く。

 それなら傘が紫の蛍光色をした、見るからに毒キノコをうり坊の目の前に投げる。


『ププヒッ、ぱくっ、プヒプヒ』

「えっ、食べた? 毒キノコだと思ったけど、これは食べられるのか。

 それなら白くて瑞々しい、マシュルームみたいキノコはどうだ」


 マシュルームモドキはうり坊に踏み潰されてアウト。

 それから俺は数種類のキノコを投げ、うり坊は酸っぱい匂いのする巨大えのきと水玉色のキノコを食べた。

 こいつは鋭い嗅覚で毒を見分ける。

 俺はキノコを投げながら、ジリジリとうり坊の距離を縮め、そして。


「ツカサ様、今です!! その肉を捕まえてください」


 セピアのかけ声を無視して、俺はゆっくりと腰を落としてうり坊に腕を伸ばした。

 うり坊はもっと餌をくれるのかと、可愛いつぶれた鼻先で俺の手のひらを嗅いでくる。


「うわぁ、コイツはなんて可愛い、白い天使なんだ。

 ちょっと太りすぎて腹が地面にくっつきそうだけど、だがそれがいい。

 そういえば豚は雑食で、人間と同じ物を食べる」


 うり坊が肥えているということは、この庭園の中には、まだ俺たちが探し出せない食材があるのだ。

 俺はうり坊を抱き上げて、そのまん丸とした腹をなでながら呟いた。


「お前、何を食べてそんなに太っているんだ? 俺に教えてくれよ」

「プヒッ、プヒィーー」


 ーー黒曜魔イノシシ ト 悪喰ノ魔人 契約カンリョウーー


 その瞬間、あの時と同じ無機質な声が聞こえると、俺とうり坊の間に稲妻が走った。

 火花が俺の額に直撃して、切り裂くような痛みに思わず悲鳴をあげる。


「ぐわっ、痛ててっ。また静電気が発生した。

 あれっ、うり坊の背中に「司」って俺の名前が書かれている」


 俺と同じく静電気を喰らったうり坊は、ぶるぶる震えながらうずくまっていた。

 そしてうり坊の薄ピンク色の縞の背中に、黒マジックで『司』と殴り書きの文字がある。

 状況が飲み込めず呆気にとられる俺に、セピアがうらめしそうに呟く。


「ツカサ様は私とは契約してくれなかったのに、どうしてイノシシと契約を結ぶの?

 私はイノシシより下の存在……」

「俺はうり坊と契約したつもりはない。

 どうして太っているのか教えろ。と聞いたら、コイツは『ブヒッ』っと返事をしたんた」

「ツカサ様はその時、うり坊との契約を交わしたのです。

 まさかツカサ様の能力が、魔獣を使役する力だったとは……」

「するとついに俺も、異世界ファンタジーの主人公みたいに、チート能力で魔獣を使役して戦えるのか!!

 あれ、それってポケモ……」


 一瞬喜んだ俺に、セピアが冷たい口調で言い返す。


「ツカサ様が契約したせいで、このイノシシを食べることはできません。

 使役する獣の痛みは、契約主にも伝わるのですから」

「ええっ、なんだそれ!! 聞いてないぞ」

「別に痛みを感じるだけで、怪我はしません。ですが痛みの共有を嫌って、契約は慎重に行われます」

「ツカサ様、このうり坊はオスです。

 草むらに隠れ潜んでいたところを見ると、きっとこの周辺を縄張りにしたオスの巨大黒曜魔イノシシに狙われています」


 つまり地面に残された巨大な足跡は、巨大黒曜魔イノシシが、自分の縄張りにいるうりオスを探していたのか。


「つまり俺は、契約したうり坊を保護する必要がある。

 これでまた一人、いや、一匹食い扶持が増えたな。

 でもうり坊は自分で食糧調達できるみたいから、手間は掛からないだろう」



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