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悪喰の魔人・覚醒

 俺は荒れ果てた庭園を眺めて、そして後ろを振り返り、壁の所々が崩れかけた廃城を見上げる。

 外観は某テーマパークのお城を老朽化させた感じで、中央の塔はマンション七階立てぐらいの高さ。

 壁には優美な装飾がほどこされ、元は海の見える岬に建つ豪華絢爛な城だったのだろう。

 城の屋根には八咫カモメの巣があるらしく、数十羽の鳥が飛び回っている。


「この辺は、鳥の餌になるものが多いのか?

 あの三足の八咫カモメを何とかして捕まえよう」

「でもツカサ様、城の上まで登る階段はほとんど崩れ落ちて、あそこまで登るのは不可能です。

 鳥を捕まえる罠を仕掛けても、鋭いクチバシで罠を噛んで壊されました」


 そういえば八咫カモメは、クチバシの中に鋭いノコギリ歯が並んでいた。


「それならホワイト姫のマホウで、八咫カモメを凍らせればいいじゃないか」

「ツカサ様、私の氷魔法は対象物に触れないと発動しません。

 あの鳥は魔力を関知できて、私には決して近寄らないのです。

 でもきっとツカサ様なら八咫カモメを捕まえて、そして美味しい料理を……ゴクリっ」


 ホワイト姫たちは、何度か八咫カモメを捕まえようとして失敗したらしい。

 そしてふたりは俺を真剣なまなざしで見つめ、肉を食わせろと無言の圧力をかける。


「ううっ、そんな風に見つめられると、契約が発動する!!

 ああ分かったよ、俺が何とかして八咫カモメを捕まえてやる」


 俺の言葉を聞いて、ふたりは歓声を上げる。

 しかし八咫カモメは、翼を広げれば俺よりでかい。

 異世界召喚したのに、何のチートも持たない平凡な俺が、どうやって獰猛な大型海鳥・八咫カモメを捕まえる?

 そんな俺の心の葛藤を知らない二人の、期待に満ちた視線が痛い。


 ***


 ホワイト姫を背負ったハーフケンタウロス娘・セピアの案内で、俺たちは庭園の中を進む。

 セピアはここに食べられる物は無いといったが、広い庭園の中には様々な木の実が生っていた。


「あの赤い実はリンゴそっくりだ。向こうの石垣になっているのはミカンか?」

「ツカサ様、その赤い実はとても堅くて、私でも食べられません」

「なんで食べられないリンゴが植えられているんだ?

 黄色い実も、うわっ、臭っさ!! さすがにこれは食えない。

 どうして庭園に、こんな木の実を植えているんだ?」


 見た目ミカンそっくりな果実は、生ゴミとアンモニアを混ぜた刺激臭を漂わせている。


「この岩石リンゴは、敵が城に攻めて来た時、投石用の武器になります。

 そして腐ミカンは、悪臭を魔獣が嫌うので、魔物よけに城の風下に植えてられています」

「なるほど、岩石リンゴも腐ミカンも、城の防犯をかねているのか。

 それにしてもくさっ、早くこの場を離れよう」


 頭痛がするほどの強い悪臭に、俺はセピアより先に走り出してしまう。


「あっ、ツカサ様、待って下さい。その先には呪われた果実が」

「ここにも赤い果物が生っているぞ。

 でかいトマトみたいな……ひぃ、なんだこれは!!」


 遠目で見るとそれはヘタや実の色で、形の悪いトマトだと思った。

 しかし近づくにつれ、ただのトマトではないと思い知る。

 表面がデコボコしたトマトは実の中央に大きなコブがひとつ、コブの両脇に白い果肉に包まれた黒い種が二つ表面に張り付いた。

 そして実の下部分は横に大きく裂け、上下に白い種が並んでいる。


「な、何て趣味が悪い。

 ふたつの黒い種は目玉。真ん中のコブが鼻で、裂けた口に白い歯が並んでいる。

 まるで赤い顔をした小人の生首、トマトのマンドラゴラだ!!」

「だから呪われた果実だって言ったじゃないですか。

 これは庭園に潜入した敵や賊を驚かせるために、植えられたものです」


 それはまさに、小人のさらし首の現場。

 なるほど、これも防犯用か。

 そういえば時々ネットで、走る大根とか人面ピーマンの画像が話題になる。

 もしかしてこれは意図的に品種改造して作られたトマトで、外見は小人の生首だが、味は普通のトマトかもしれない。


「これが食べられるトマトなら、リコピンなど栄養豊富、旨味成分がある。

 トマトは生で食えるし、トマトスープにトマトソース、使い道はいくらでもある」

「まさかツカサ様、こんな恐ろしい果物を食べられるわけ無いじゃないですか!!」

「このトマトを食べたら呪われているって、証拠でもあるのか?

 ホワイト姫を汚れたマホウ使いと呼んだように、噂だけで呪われていると判断しているんじゃないか?」 


 そして俺は生首トマトが食べられるかもしれないと判断した途端、ホワイト姫と交わした契約が発動した。

 このトマトを何としても収穫しなければならない。という強烈な義務感に襲われる。

 目の前に実った数十個の赤い生首に睨まれても、俺は全く恐怖を感じなかった。


「こいつは生首じゃない、ただのトマトだ。

 食べられるかどうか試してみよう」


 俺は生首トマトを鷲掴みにすると、まるで顔面を掴んでいるような柔らかい感触がした。

 実をもぎ取ろうと無理やり引っ張ると、生首トマトの茎がしなり摩擦して、バイオリンを引っかいたような、人の悲鳴のような音が広い庭園に響き渡る。


『ぎぃいいいいーーーっ、ぴぎゃあぁああーーーー』

「茎が強くて引きちぎれない。果物ナイフでトマトのヘタ部分から切り取るか」


 トマトのヘタは、生首の緑色の髪に見える。

 そこへ俺は何のためらいもなく果物ナイフを差し込むと、ブチリと人面トマトを捻り採った。

 するとその瞬間、トマトの切り口から血しぶきのような赤い果汁が勢いよく吹き出す。

 俺は顔に降りかかる、真っ赤な果汁をぺろりと舐めた。


「この味はトマトジュース、やっぱり普通のトマトだ。

 しかも完熟で甘みがあり、とてもフレッシュな食べ頃トマト。

 ホワイト姫、ひとつ食べられる果実を見つけたぞ」


 そういって後ろを振り返ると、セピアは白目を剥いて倒れ、ホワイト姫は半泣きになりながら俺を見つめている。

 その時の俺は生首トマトを両手に握りしめ、上半身は飛び散った血糊(トマトジュースで染まっていた。

 普段なら叫び声をあげる生首トマトなんて触ることもできないはずなのに、俺はとても冷静で、恐怖という感情が消えていた。


 そして次の瞬間、晴天の空から俺の頭上にだけ、滝のような雨が降り注ぐ。

 ホワイト姫が水魔法で作り出した雨は、俺の体の血糊トマトジュースを洗い流した。

 全身ずぶぬれになった俺だが、一瞬のうちに魔法の雨は消え、そして一瞬で俺の濡れた体も服も乾いた。


「ツカサ様、頭は冷えましたか。

 今ツカサ様の瞳は禍々しい赤に染まり、契約を遂行するだけの『悪喰の魔人』になっていました」

「ありがとうホワイト姫、やっぱり今のは契約の影響か。

 それにしてもホワイト姫のマホウは、シャワーと服の洗濯が同時にできる!!とても便利なマホウだよ」


 俺がそういうとホワイト姫はニコッと愛らしくほほえみながら、手の平に乗せた小さな氷の固まりを転がす。

 そして地面に倒れたセピアの口の中に氷を入れると、氷の冷たさに驚いてセピアが飛び起きた。


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