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一食目 あり合わせ食材のパンケーキエッグチーズサンド

 俺はセピアから取り上げたビーフジャーキーを、買ったばかりのドイツ製包丁で小刻みにした。


「流石お高いドイツ製万能包丁は、硬いビーフジャーキーが紙のように切れる。

 切れ味が良すぎて怖いくらいだ」


 それから小麦粉とバーキングパウダーと牛乳を混ぜた生地に、ビーフジャーキーを加えた。

 熱したフライパンを少し冷まし、パンケーキ生地を高いところから落とすと、パンケーキ生地はきれいな丸い形になる。

 パンケーキを焼く俺のそばにホワイト姫が来ると、瞳を輝かせながら料理の様子を眺めた。


「そうだ、ホワイト姫。このパンケーキをひっくり返してみるか?」

「えっ、氷魔法使いの私が釜戸に触れたら、火が消えてしまうかも……」

「火が消えたら、もう一度点ければいいさ。

 フライパンは熱いから気をつけて、さぁパンケーキをひっくり返せ」


 年相応に好奇心あふれる表情のホワイト姫は、恐る恐るパンケーキの裏に木べらを差し込む。

 そして「えいやっ」と、可愛いい掛け声でパンケーキをひっくり返した。

 一枚目はパンケーキの端が折れたけど、二枚目はきれいに裏返し、こんがりと茶色く焼けたパンケーキにホワイト姫は歓声を上げる。

 今まで料理を作った事のないお姫様は瞳を輝かせて、遊びの延長みたいに料理を楽しんでいた。

 ホワイト姫の可愛らしい様子を眺めていた俺は、背後から強い視線を感じて振り返ると、何故か羨ましそうな顔をしたセピアと目が合う。

 俺はそんなセピアを無視すると、パンケーキをホワイト姫に任せ、ほかに料理に使えそうな物はないか戸棚の中を探した。


「棚の上に置かれた瓶の中に、透明な液体がある。

 うわっ、鼻がツンとして痛い。この匂いはビネガーだ。

 他に卵と油があるから、アレが作れるぞ」


 そして俺は、後ろをうろうろしてるセピアに卵黄と酢と塩を入れた大皿を渡した。


「ツカサ様、これは何ですか?」

「セピア、暇なら皿の中身をかき混ぜろ」


 俺に命じられて、セピアはつまらなそうにシャカシャカと材料をかき混ぜる。


「出来ました、ツカサ様。これでいいですか?」

「黄身が全然混じっていない。

 もっと卵をかき混ぜて、少しずつ油を加えて乳化させる」


 シャカシャカシャカシャカっ、シャカシャカシャカシャカっ、シャカシャカシャカシャカっ、シャカシャカシャカシャカっ。

 俺は何度もセピアにダメ出しして、卵をひたすらかき混ぜさせた。


「もう勘弁してください、ツカサ様。

 かき混ぜる腕が疲れて、あれ、皿の中に白い塊が出来た。

 この白いクリームは、ペロリ、酸っぱくて柔らかくて卵の味がする!!」

「これは俺の住む世界で大人気の調味料、マヨネーズだ。

 このマヨで食べられる草をサラダにする」


 俺はそういいながら、食べられる草の味見をする。

 薄緑色の柔らかそうな大きな葉は、一見するとレタスのようだが、食べると口の中に苦みが広がる。


「このレタスみたいな草は、苦みがヨモギに似ている。

 ススキのような草は、味はいいけど茎が堅すぎる。お湯で茹たら、茎は柔らかくなるかな?」


 そうしている間にホワイト姫がパンケーキを八枚焼き終えたので、俺は目玉焼きを二つと、小さな土鍋で牛乳を温める。

 小さなホワイト姫は、俺の後ろにくっついて土鍋の中を覗き込むと、可愛らしい仕草で不思議そうな顔をした。


「ツカサ様、ミルクを温めてスープを作るのですか?」

「これはスープじゃない、かき混ぜるだけで簡単にできる食べ物だ。

 牛乳が沸騰する直前に、塩とレモン汁を加える」


 釜戸から土鍋を下ろし、木べらで牛乳をかき混ぜると次第に中身が変化する。


「ツカサ様、ミルクが固って、透明な液体と分離しました」

「この固まりはカッテージチーズ、液体はホエーだ。

 酢の代わりにレモンを使えば、爽やかな味のカッテージチーズになる。

 さてと、これで料理は全部出来上がった。

 パンケーキを皿に盛り付けよう」


 俺はビーフジャーキーの塩味が効いたパンケーキの上に、目玉焼きとカッテージチーズ、マヨネーズをあえた苦いレタスを乗せて、更にパンケーキで挟む。

 あり合わせの食材で作った、パンケーキエッグチーズサンドの出来上がりだ。

 ホワイト姫とセピアは並んでテーブルに座ると、俺はパンケーキを乗せた皿を二人の前に置く。

 異界の炎で煮炊きした料理は、氷の魔法使いホワイト姫の前でも冷めることなく、出来立ての温かい状態だった。

 ホワイト姫は、かすかに震える両手でパンを掴み、大きな口を開けて齧った。


「ツカサ様、これは私が焼いたパンケーキですね。

 パンの表面はこんがりと焼けて香ばしく、はむっ、中に細切れ肉が入って塩味して、フワフワで柔らかいっ。

 目玉焼きの半熟部分がパンに染み込んで、とても美味しいです!!」

「ツカサ様、パンに挟んだ白い固まりから、濃厚なミルクの味がします。

 それに私が作ったクリームを苦い草に付けて食べたら、コクのある酸っぱいクリームの味が苦みを抑えて、とても食べやすい。

 でもツカサ様、私のパンには目玉焼きが入っていません!!」

「さっき勝手に卵を四個も食べたのは誰だ。

 セピアは目玉焼きの代わりに、マヨネーズと固い茎のススキモドキをサラダを食べていろ」


 そして小柄なホワイト姫はパンケーキサンドを一個、セピアはパンケーキサンド一個と残りのパンケーキに固い茎のマヨサラダを挟んで食べる。

 ふたりが食事をしている間、俺は鍋でススキモドキを茹でた。

 三十分以上かけて、やっと柔らかくなったススキモドキの固い茎の味見をする。

 

「このシャキシャキとした歯ごたえは、セロリと茎わかめの中間みたいだ。

 このまま摘んでもいいし、天ぷらにしても美味そうだな」


 ススキモドキを料理していると、食事を終えたホワイト姫が興味津々で俺のそばに来る。

 

「あの固い草をお湯で茹でたら、こんなに柔らかくなるのね。

 これなら私でも食べられます」

「ホワイト姫様には食べやすいけど、私にこの草は柔らかすぎて、食べ応えがありません」


 やっぱり頭に角の生えたセピアは、人間と味覚が違って生の草の方が好きなようだ。

 俺とホワイト姫は、茹でたススキモドキを美味しく食べた。


「さてと、せっかく火を起こしたから、明日の分の蒸し料理を作りたいけど、ここにある皿は全部割られている」

「それは……私たちを裏切った召使いが、厨房にあるほとんどの食器を持って逃げたのです」


 ホワイト姫はそう言うと、つらそうな顔をしてうつむいた。

 ここは西洋中世ぐらいの世界だから、食器も貴重品なのだろう。

 台所に残る食器はどれも大小のヒビが入っている。

 しかし俺は蒸し料理を作りたいので、高温でも割れない大皿が必要だ。

 

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