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荒野の旅 七食目 八咫カモメのヤキトリ

※先ほどは、誤って下書きを投稿してしまいました。こちらが清書です。

 大変失礼しました(汗)


 野菜やキノコを嫌う肉食系女子(文字通り)のバイオレットだけは、インスタント料理に不満そうだった。

 

「確かにバイオレットは、パスタだけじゃ物足りないだろう。

 だから八咫カモメの冷凍ヤキトリを準備してきた。

 肉に味付けして冷凍保存したから、味が染み込んでいる」

「でも八咫カモメ肉を串に刺して焼いただけですよね」

「それは食べてからのお楽しみだ」

 

 俺はパスタスープの鍋をバケツカマドから下ろすと、巨大フォークの先をカマドの上に乗せた。


「フォークを焼き網代わりにして、ヤキトリを焼く。

 もも肉は塩とリンゴ煮照り焼き、ススキもどき草のねぎまにコリコリしたハツ(心臓)、それに鳥皮の串も準備してある。

 バイオレット用に大きめに切った八咫カモメ肉を、バイト先の調理場で仕込まれた焼き加減で、ジューシーかつ香ばしいヤキトリに仕上げる」


 はっきりいって不味いヤキトリを食べさせられると、とても悔しい。

 俺が高校生の頃、学校帰りに匂いにつられて買ったヤキトリの肉が、堅くて不味かった思い出がある。

 だから異世界の人間には、旨いヤキトリを喰わしてやりたい。

 俺はこのヤキトリを焼くためだけに、城の壊れた家具を燃やして香りの良い薪を探しだし、わざわざセピアの荷車に忍び込ませたのだ。


「この巨大フォークの焼き網、肉がくっつかなくてとても良いな。

 もも肉の表面が焼けて、香ばしい匂いがしてきた。

 最初に塩で食べてみてくれ」


 俺が洞窟の入口に生えていた大きな葉っぱの上に焼き鳥を乗せて、バイオレットに手渡す。

 普通のヤキトリの二倍の大きさがあるが、普段は骨付き肉にかぶりついているバイオレットはとても不満そうだ。


「ツカサ殿、私はこんな小さな肉切れでは全然足りない……はむっ、もぐもぐ。

 んんっ、表面の鳥皮の焦げがとても香ばしくて、噛みしめると弾力のある肉の中から、じゅわっと肉汁が染み出してくる!!」


 するとバイオレットの様子を見たセピアも、串に手を伸ばす。


「ツカサ様、私はリンゴソースを塗った堅い茎と肉の串焼きをいただきます。

 もぐもう、これは甘辛く焼かれた八咫カモメ肉と堅い茎の歯ごたえが交わって、とても美味しいです」

「セピアの串はネギマ、ホワイト姫の串はレバー。八咫カモメの肝部分だ。

 残っていた牛乳にレバー肉を付けて、臭みを消したんだ」

「ツカサ様、ればあ肉を食べたら栄養になるんですね。

 はむはむっ、お肉は臭くないしモチモチ柔らかくて、とても食べやすいです」

「食い意地が張っていた八咫カモメの部位は、栄養状態が良くて最高な食材からな。

 ちょっと待てバイオレット、串焼きを一度に三本まとめて食うな。

 それでもう十五本目だそ!!」


 俺はヤキトリの串を三本まとめ食べるバイオレットを叱る。

 焼き鳥の串を百本近く作ったが、バイオレットの勢いだと今夜だけで半分近く食べてしまいそうだ。


「それにしても八咫カモメの鳥皮から沢山脂が出て、とても香ばしい匂いがする。

 バイオレットの食べっぷりだと、こっち世界でもヤキトリは受け入れられそうだし、屋台を開いたら人気がでるかも。

 あーあっ、これまでずっと我慢してたけど、ヤキトリ食ったら冷えたビールが飲みたくなった!!」

 

 この世界は酢がある。

 ビネガーの語源は『酸っぱい酒』だから、集落にゆけばきっと酒もあるはずだ。

 そもそも俺はこの世界にくる直前、彼女に振られ自棄酒で二日酔いだった。


「失恋した不味い酒じゃなく、楽しくて旨い酒が飲みたいなぁ」


 今俺の目の前には、元カノよりずっとデカくて色気のあるバイオレットや、うるさいけど人情味のあるセピアや、痩せすぎだけど将来はきっと絶世の美女になるホワイト姫がいる。

 集落についたらみんなで酒盛りをしようと、俺は密かに心に誓った。


「ちょっと炎の勢いが強くなったな。

 薪になる枯れ木は充分にあるから、このまま一晩燃やそう」


 俺はバケツコンロをひっくり返して火を地面に落とし、薪をくべて大きな焚き火にする。


「ふわぁ、とても大きくて熱い炎。

 ツカサ様の異界の炎は、氷の魔法使いの私の体も温めてくれる太陽の光みたい」


 ホワイト姫は嬉しそうに炎に手をかざし、俺は焚き火を眺めながら一息ついた。

 余裕が出ると、荒野に来たあと一つの理由を思い出す。


「そう言えばここに来るまで、伊勢サソリを一匹も見かけなかったな」

「確かに、言われてみればおかしいですね。

 自分の時は荒野にサソリがうじゃうじゃいて、数十匹捕まえて食べましたよ」

 

 その時俺たちがうっかりしてたのは、八咫カモメのヤキトリの匂いが、結界を越えて周囲に漂っていたことだった。



 ***



「騎士様、大丈夫ですか?

 この荒野に、あんなデカいイセサソリが出るなんて、今まで聞いたことない」

「私の解毒魔法で、なんとかサソリ毒は消えました。

 しかしこれで私の魔力は枯渇して、魔獣除けの結界が張れません」


 左足が真っ赤に腫れ上がった騎士の応急処置をしていた従者が、心配そうに後ろを振りかえる。

 灰色の髪を肩で切りそろえ、ひどく疲れた目をした若い神官がよろめきながら立ち上がった。

 一行は辺境の地を旅して、目的地の集落まで残り二日と言うところで、猛毒を持つ巨大イセサソリに襲われた。

 護衛の騎士がサソリの毒でやられて、三人は岩山が見える場所まで必死に逃げてきた。

 

「毒が消えたとはいえ、騎士様はすぐに体を動かせません。

 しかも逃げる時、水や食料を置いてきてしまいました。

 助けを呼ぶにしても、集落まで歩いて二日かかります」


 しかも今夜は無月の夜。

 普段は夜の荒野を三つの月が明るく照らしているが、今周囲は漆黒に近い暗闇だった。


「この中で土地勘があるのは俺だけです。

 サンド様、集落に助けを呼びに行きます」


 ふたりにそう告げて暗闇の中を歩き出そうとした背の高い従者に、灰色の髪の神官が声をかけた。


「なんだ、どこからか肉の焼ける、旨そうな匂いがするぞ?」

『ぐぎゅぅううぅ~~、ぐぅぐぅぐぅ』


 倒れていた騎士の腹の虫が大きく鳴って、髪の中に隠れていた犬耳が立ち上がり、漂う肉の香りを捕らえようと犬鼻がひくついた。


「そうか、騎士様は犬人族の血が流れ、嗅覚に優れています」

「もしかしてこの近くに、他の旅人がいるかもしれない。

 この匂いはどこから漂ってくるのか、騎士よ、場所を指さしてくれ」

『ぐぎゅ、ぐぎゅぎゅっ』

「この岩山の向こう側ですね。

 運が良ければ旅人、運が悪ければ盗賊が野営しているのでしょう。

 それでは俺が様子を見て来るので、サンド様と騎士様はここで待機していて……。

 ああダメです騎士様っ!!」

『ぐぎゅぅううぅ、ぐぅぐぅ!!』


 毒で幻覚状態の犬人族騎士は、目を半開きにして四つん這いのまま、匂いのする方向に走り出した。


「空腹のあまり、獣人の本能が出ている。

 待ちなさいブルー、うわぁああぁーー!!」

「ああっ、サンド様が首にしがみついた状態で、騎士様が走り出したぁ」


 怪我をした足を引きずりながら四足で走る犬人族の騎士を、別の従者は必死で追いかけた。

 岩山の向こうに明るい炎が見え、そして肉の焼ける匂いも強くなる。

 周囲を照らす大きな炎は、術者の魔力量を表す。


「こんな辺境の荒野で、これほど大きな炎魔法を使える人物がいるとは驚いた」


 炎に照らされた人影は四つ。

 大柄な女は、豪腕族の戦士の格好をしている。

 一緒にいるのは若い男と女と子供で、とりあえず盗賊ではなさそうだ。

 それよりも先に行った若い主と騎士が心配だ。

 従者は疲労がつのった重たい足を引きずりながら、燃える炎に向かって歩いていった。

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