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五食目 サクッと焼けた岩石リンゴパイ

 今後の予定は、食料調達のため集落に行き、砂糖や八咫カモメ肉を物々交換することになった。

 そして俺たちは、八咫カモメを捕まえるため、四階の窓に蜘蛛の巣の罠を仕掛けるたが……。

 この場面で女戦士バイオレットは、全然仕事の役に立たなかったのだ。


「ツカサ様、それでは自分が、凍った蜘蛛の巣を上の階に運びます」


 ベキ、ベキべきベキッ☆

 バイオレットの大きくてゴツイ手が、繊細なガラス細工のような蜘蛛の巣に触れると、次の瞬間、蜘蛛の巣は手のひらで握り潰されて粉々に砕け散った。

 グシャ、パキン、ぺきぺき☆

 力の加減ができないバイオレットは、脆い蜘蛛の巣を次から次へと破壊する。


「うわーーぁ、やめろバイオレット。これ以上蜘蛛の巣に触るな。

 まさかヴァイオレットが筋肉バカ……、ここまでガサツで荒っぽいとは。

 仕方ない、バイオレットは外の庭園で胡椒キノコを探してくれ」


 これからクモの巣の罠を数箇所に仕掛けないといけないのに、これはとんだ誤算だった。


「蜘蛛の巣の運搬が一番重労働なのに、バイオレット様は全然役に立たないなんて。

 しかも蜘蛛の巣を三階から四階に運ばなくちゃならないから、ううっ、とても疲れる」

「ケンタウロスの娘のセピアは脚力があるけど、一般人の俺に階段昇降50回は、き、キツすぎる。

 ラノベで異世界召還された主人公はチートとか俺TUEEEE展開になるのに、俺は働き詰めで、ぐわぁ、足がつった!」


 過酷を極める作業に俺の太ももが痙攣して、痛みに耐えきれず、持っていた蜘蛛の巣を手放してしまう。

 しかし床に落ちた蜘蛛の巣は、端が少し欠けただけで運良く割れなかった。


「大丈夫ですか、ツカサ様。

 そういえばなんだか蜘蛛の巣が、少し丈夫になっているみたい。

 前は罠を作るのに蜘蛛の巣を150枚重ねたけど、今回は100枚重たら同じ罠が作れる」

「確かに言われてみればセピアの言う通りだ。蜘蛛の巣の粘りが強くなっている。

 あっ、花魔蜘蛛が部屋の隅に……背中の花が増えているぞ?」


 部屋の隅に姿を現した花魔蜘蛛は、背中のコスモスみたいな花が三つ咲いていた。


「一つだった蜘蛛の花が三つに増えている。

 それに蜘蛛の糸も前より太くなって、粘着力が増している。

 もしかして俺が花魔蜘蛛に、八咫カモメの肉を餌として与えたからパワーアップしたのか?」


 まるでゲームのポケ@ンみたいに、モンスターが進化していた。

 きっと小さな花魔蜘蛛に巨大海鳥八咫カモメの肉を与えるなんて、過ぎた餌なのだろう。

 しかし餌のおかげで、花魔蜘蛛がパワーアップして巣が丈夫になったから、結果オーライだ。


「それなら八咫カモメの肉を食べた俺たちも、少しパワーアップしているかも」


 俺がそんな事を考えていると、二階から甘いリンゴの香りを漂わせたホワイト姫が上がってくる。


「ツカサ様、お料理終わりました。

 ツカサ様の言われた通り、岩石リンゴが柔らかく溶けるまで煮込みました。

 次は何をすればいいの? 早く次の料理を教えてください」

「困ったなぁ、俺はホワイト姫のお願いは逆らえない。仕方ないから仕事を一時中断しよう。

 セピア、残りの蜘蛛の巣は、一人で運んでくれ」

「ええっ、まだ蜘蛛の巣は100枚近くあるのに、これを私一人で運ぶんですか?

 さてはツカサ様、ホワイト姫様を利用して仕事をサボるつもりですね」


 背後からセピアの抗議の声が聞こえてきたが、俺はそれを無視してホワイト姫と厨房に向かった。



 ***

 


 厨房の釜戸の上には、高温で焼いた岩石リンゴを、さらに鍋で煮詰めたジャムが出来上がっていた。

 ホワイト姫の仕事は、岩石リンゴジャムが焦げないように見張る事だった。

 

「ありがとうホワイト姫。岩石リンゴが半分まで煮詰まって、とても甘いジャムが出来た。

 これなら砂糖代わりに、リンゴジャムを使えるぞ」

「ツカサ様、あの堅い岩石リンゴがこんなに柔らかくなるなんてビックリです。

 それに白い粉の砂糖より、ずっと岩石リンゴの方が甘いです」

「そうだ、集落に岩石リンゴジャムを持って行って売ろう。

 普通砂糖を入れないジャムはすぐ傷むけど、ホワイト姫のコオリマホウでジャムを凍らせれば、いくらでも保存が利く。

 いいや、ジャムだけじゃない。

 生首トマトピューレも八咫カモメ肉も、ホワイト姫のコオリマホウで冷凍保存が可能だ」


 それから俺は、岩石リンゴジャムを使ってアップルパイを作り始めた。

 最初に小麦粉に油を加えて練ってパイ生地を作る。

 この世界の油は少しクセがあって、オリーブオイルと風味が似ていた。

 ちなみにオリーブオイルは、バターの代わりにパンに塗ってトーストすると旨い。

 俺がパイ生地をこねて折り畳んでいると、ホワイト姫も面白がって料理を手伝う。


「このパイ生地を何度も折り畳んで重ねるほど、サクサクと香ばしいパイが焼けるんだ」

「ツカサ様、ぱいきじって何ですか、蒸しパンとは違うの?」


 平たく伸ばしたパイ生地の中に、ペースト状になった岩石リンゴジャムと、サイコロ状に切った岩石リンゴ煮を乗せた。

 そしてパイ生地を折り畳み、表面に照りを付けるためジャムを塗る。

 賢いホワイト姫は、俺が何を作っているのか理解して、嬉しそうな声を上げた。


「ツカサ様、ぱいきじに岩石リンゴジャムを塗って焼くのですね。

 セピアもバイオレットも甘いモノが好きだから、きっと大喜びします」


 熱した鉄板(究極の盾)に、具材を詰めたパイ生地を乗せて蓋(浄化の盾)をする。

 熱がまんべんなく伝わるように、ダッチオーブンのように蓋の上にも炎の結晶を三、四個置いた。

 すでに岩石リンゴジャムには火が通っているので、15分ぐらいでパイ生地が焼けたか確認する。

 鉄板と蓋の遠赤外線効果なのか、パイ生地1枚1枚がパリッと焼けたアップルパイが出来上がった。




 そしてタイミングよく、四階で作業していたセピアが厨房にやってくる。


「ホワイト姫様ぁ、角に蜘蛛の糸がくっついて力が出ません。これを取ってください。

 あら、なんですか。この甘くて香ばしくてとても美味しそうな香り。

 テーブルの上に、出来立てホカホカの平たいパンがある!!」

「これはホワイト姫がリンゴを煮て、パイ生地をこねて焼いた岩石リンゴパイだ」

「セピア、お仕事ご苦労様です。

 このリンゴパンの中には、甘いリンゴのジャムが入っているわ。

 私、ツカサ様のお手伝いをして、セピアたちにお菓子を作ったの」

「それじゃあこのリンゴパンは、ホワイト姫様が私のために作ったお手製のお菓子。

 ホワイト姫様が火を扱って料理を作れるなんて、今でも信じられない」


 セピアはそう言うと、感極まった表情でホワイト姫からアップルパイの載った皿を受け取る。

 熱々のアップルパイにフォークを刺すと、サクッとパイ皮の割ける音がして、中から林檎の蜜と果肉が溢れ出す。


「あら、よく焼けた堅いパンと思ったのに、フォークで簡単に切れた。

 ぱくっ、熱っあちち、何これ、甘ぁーーい!!

 香ばしく焼けたパンの間に、甘くてとろとろジューシーな煮リンゴが染み込んで、今まで食べたことの無い歯ごたえのお菓子です」

「ツカサ様、このリンゴパンは、氷の魔女の私が手に取っても冷めません。

 はむっはむっ、蒸しパンはふわふわだったけど、リンゴパンはサクサクして美味しいっ」


 どうやら岩石リンゴは、固く実が詰まっているおかげで、糖度も高いらしい。

 これなら砂糖の代用に、果糖として使えそうだ。

 

「ああ、なんて甘くて美味しいの。もっとリンゴパンを食べたい」

「ツカサ様、リンゴパイのおかわり、お願いします」


 それからホワイト姫は岩石リンゴパイを四切れ、セピアは三切れ食べて、俺がひと切れ食べるとパイはなくなった。

 足元で鳴いていたうり坊にも、リンゴパイの切れ端をやると、美味しそうに食べた。


「ふわぁ、ホワイト姫様。甘いお菓子を食べると、とても幸せな気持ちになります」

「そうですねセピア。石と同じと思っていた岩石リンゴが、まさかこんなに甘いなんて知りませんでした」

「俺はまだ満足しないな。シナモンみたいな香料や、干しぶどうみたいな果物を混ぜれば、もっと美味しいアップルパイが作れそうだ」


 そして俺たちがテーブルを囲んでダラダラしていると、廊下から荒々しい足音が聞こえ、庭園で作業をしていたバイオレットが姿を現した。


「うおぉっ、なんだかとても甘くて香ばしい薫りがします。

 ホワイト姫、セピア、ツカサ殿、この匂いはなんですか、自分も早く食べたいです」


 あっ、ヴァイオレットの存在をすっかり忘れて、アップルパイを全部食べてしまった。


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