表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

城の外

 今から千年以上前。

 こちらの世界と異世界は魔法陣によって結ばれ、神人や魔人がこの世界を行き来していたという。

 しかしある日を境に、突然天神と魔人は姿を消した。

 魔法陣を起動させるには膨大な魔力と贄が必要で、人々は残された魔法陣を起動する力を持たなかった。


 そして数日前。

 ホワイト姫の膨大な氷の魔力と、天馬ケンタウロスの娘・セピアの片角は偶然魔法陣を起動させ、悪喰の魔人を呼び寄せる。

 しかも魔力や命を対価に求める従属契約を、魔人自身が「何でもするから助けてくれ」と望んだ。

 そして結ばれた契約は非常に強固で、魔人の意志に関係なく従わせる力を持ち、命に逆らえば額に刻まれた印が魔人を戒めるという。


「あーっ、痛かった。

 そうか、この額の印は孫悟空の輪っかと同じだ」


 俺は痛みの引いた額をさすりながら、溜息まじりにぼやいた。

 目の前には申し訳なさそうな顔をしたホワイト姫と、脳天気に笑うビキニアーマーのデカい女戦士がいる。


「それでは悪喰の魔人・ツカサ殿、自分は一日五回メシを食うので、頑張って旨い食事を作ってください」

「ちょっと待て。アンタは俺がマホウで食い物を出せると思ってないか?

 はっきりいって俺はマホウが使えない。

 火起こしと料理が出来るだけの普通の人間だ」

「まさか、それではこのテーブルの上に並んでいた料理は、どこから出てきたのですか。

 城の中には食物が無いから、大食らいの自分は食料調達のため、城の外に出たのです」


 バイオレットが不思議がるのも、もっともだ。

 まさかテーブルの上に並んでいる食材が、庭園に生えていたスライムもどきのナマコに、生首もどきのトマト、毒キノコもどきの胡椒だなんて思わないだろう。

 「汚れた」という先入観とグロい見かけで、普通に食べられる食材を放置していたのだ。

 俺の代わりにセピアがその事を説明をすると、デカい女戦士は目を丸くして驚く。


「ところでバイオレット、城の外の様子はどうなっていますか?」


 そうしている間に、やっと食事を終えたホワイト姫がバイオレットに尋ねた。


「申し上げます、ホワイト姫様。

 実は今、城の外は大変なことになっています。

 岬に張り巡らされた結界の外に出ると、凶暴化した魔獣がうろついていました。

 そしてこの四ヶ月間、一滴の雨も降らず川の水が枯れ、辺り一面干からびた荒野が広がっています」

「四ヶ月と言うことは、お父様が暗殺されてから、雨が降らなくなったのね。

 この地はお父様の水魔法の恩恵を失い、元の荒野に戻ったのでしょう」

「それで自分が訪ねた集落は、魔獣に畑を荒らされていました。

 食料は少なく水に困り、金貨より食物をよこせと言われ、食料調達を断られました」


 つまり女戦士バイオレットは結界の外に食料調達に出かけたが、集落では食料を金で買えなかった。

 しかし城の外が干ばつだとは、とても思えない。

 窓の外から湿った海風が吹き、日に数回にわか雨が降って、庭園には怪しげな植物が大繁殖している。


「そういえばツカサ様は、まだ一度も城の外を見ていませんね。

 蜘蛛の巣を片づけたから、上の階まで上れるようになりました。

 確か城の四階バルコニーから、南側の大地が見えます」


 そしてホワイト姫の提案で、俺たちは城の上から周囲を眺めることになった。



 ***



 城の四階に上がる階段は重厚な扉で塞がれ、俺とセピアのふたりがかりで扉のかんぬきを外そうとしても、ピクリとも動かない。

 しかし豪腕族のバイオレットは、片手で簡単にかんぬきを引き抜いた。

 もしかして豪腕族とは、巨人や鬼の末裔かもしれない。

 背中に巨大なバトルアクスを背負ったバイオレットを先頭に、俺たちは階段を上る。

 四階は三階と似たような間取りだが、窓ガラスが割れ雨風が部屋の中まで入り込んでいた。

 所々に八咫カモメの巣の残骸があり、卵がないか探したが見つからなかった。


「部屋の中に八咫カモメの羽が落ちているし、ここは連中のテリトリーらしい」

「雨の日は、八咫カモメが窓から中に出入りしています。

 もっと人手があれば、四階もお掃除して連中を追い出せるのに」


 ホワイト姫をおぶったセピアが、進行方向のゴミや埃を箒で払いのけながら文句を言う。

 床に落ちた鳥の羽やフンを見ていると、八咫カモメたちは決まった窓から出入りしているらしい。


「セピア、掃除するのはやめて、そのままの状態にしよう。

 八咫カモメが出入りする窓に罠を仕掛ければ、連中を捕まえられる」

「そういえばツカサ殿は、あの八咫カモメを、どうやって捕らえたのですか?

 やつらは動きがすばしっこくて、自分の投げた斧を避けて、逆に襲いかかってくるんですよ」

「バイオレットなら襲いかかってきた八咫カモメを、返り討ちできるんじゃないか?」

「やつらは、自分の上にフンの雨を降らすんです!!」


 なるほど、八咫カモメはセピアやバイオレットより、一枚も二枚も上手うわてだ。


「八咫カモメを捕まえるには、花魔蜘蛛の巣で罠をしかけるんだ。

 バイオレットがいれば、高い場所の巣も簡単に取れそうだ」

 

 そんな話をしている間に、俺たちは四階の突き当たりの部屋にたどりつく。

 部屋の奥からバルコニーへと繋がる扉は、蝶番は半分取れて原形をとどめず、部屋そのものが半屋外状態。

 体の大きなバイオレットが、扉の手前で立ち止まった。


「自分はバルコニーを踏み抜いてしまいそうだから、ここで待っています」


 そういうバイオレットの様子に不審に思いながら扉の外を覗くと、バルコニーの手すりが崩れ落ちて床に大きな穴が開いている。


「このバルコニーの穴は、バイオレット様が床を踏み抜いて開けたものです。

 それからバイオレット様は高所恐怖症になって……」

「大丈夫ですよ、ツカサ様。床の穴は氷で塞ぎます」


 ホワイト姫はそう言うと、セピアの背中から飛び降りてバルコニーの方へ駆け出す。

 危ないと止めようとした矢先、裸足のホワイト姫が歩いた床は分厚い氷で覆われる。


「そうか、ホワイト姫が直接触れた場所は、コオリマホウを使えるから、バルコニーの穴も塞がるのか」


 そして俺はホワイト姫の後ろから付いて、四階バルコニーに出た。

 最初に見えたのは、空に浮かぶ二つの小さな太陽、そして城の周囲の亜熱帯に近い植物。

 ここから城の真後ろにある海は見えない。

 城の広すぎる庭園の向こうに石造りの城壁があり、城の外も青々と草木が生い茂っている。

 そしてさらに向こう側に氷の壁のような結界が張られ、その外は荒涼とした茶色い大地が広がっていた。


「なんでこれだけはっきりと、緑と荒野が分かれているんだ?」

「ツカサ様、元々この土地は海ばかりに雨が降り、陸に雨は降りません。

 それを我が一族の当主、私のお父様が水魔力で月に数回雨を降らし、緑の大地にしたのです」

「でも御当主様が殺されたから、もうこの地に雨は降りませんよ。

 私たちを見捨てて勇者王になびいた連中は、干からびてしまえばいいんです」


 全てを諦めた顔のホワイト姫と、とげのある言葉を放つセピア。

 そういえばセピアは、最初俺に世界を滅ぼせと願っていたな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ