四食目 八咫カモメのレッグチキン照り焼き
厨房に飛び込んできて蜘蛛の巣の罠にかかり、首を折られた八咫カモメ。
その胴体は鶏の三倍以上、翼を広げると二メートル近くあった。
「しとめた八咫カモメを厨房で解体作業をすると、血の匂いで他のカモメに仲間を殺されたとバレるかもしれない。
蜘蛛の巣を片づけた部屋に運んで、作業しよう」
「それなら私に任せてください。よく狩りの獲物を運んで、捕らえた鳥の解体作業をしました」
それから俺とセピアの二人掛かりで、大きな八咫カモメを三階の部屋に運ぶ。
この部屋の蜘蛛の巣は、罠にするため全部使ったが、すでに新しい蜘蛛の巣が四つ張られていた。
そして蜘蛛の巣の真ん中に、何故かコスモスに似たピンクの花が咲いている。
「部屋は密閉されているのに、花はどこから飛んできた?
うわっ、花が動いた!!
これはもしかして、蜘蛛が花に擬態しているのか」
俺はピンクの花を摘もうと手を伸ばすと、花の下から茎に擬態した八本の足が現れる。
そして花蜘蛛は素早い動きで俺の手を避けると、天井の隅に隠れてしまった。
「ツカサ様、珍しいモノを見ましたね。
あれは花魔蜘蛛といって、滅多に姿を表しません」
「姿を見せたという事は、俺たちに巣を壊されて、怒っているのかな?」
俺は花魔蜘蛛のことを気にしながらも、捕らえた八咫カモメの血抜きをして解体作業を始めた。
俺は叔父の田舎で数回鳥を絞めたことがあるだけで、セピアの方が手際よく作業を進める。
「コイツは肉付きが良いから、羽を毟りやすいです。この羽はホワイト姫様の枕にしましょう」
せっせと羽を毟しりながら話すセピアは、痩せた鳥は肉が固く、羽が毟りにくいと言う。
「なるほど、この八咫カモメは食い意地が張っていたから、肉付きが良いのか」
ここでもドイツ製の良く切れる万能包丁は重宝して、異世界の鳥の骨を簡単に切断した。
半額セールで一万円したお高い包丁セットは、万能包丁と果物ナイフと包丁とぎがセットになっている。
「解体した八咫カモメの肉に、かぶりついて食べたいよな。
それに八咫カモメの足は三本、俺たちは三人だからレッグチキンを一本ずつ食べられるぞ」
俺が何気なくそう言うと、ホワイト姫とセピアが口元に涎を浮かべながら、コクコクと勢いよく頷いた。
その様子を見るとまた契約モードになって、二人に飯を食わせたい焦燥感に襲われる。
「はっ、今ツカサ様の考えが、私の心に浮かびました。
たーきー、けんたっきー、てりやき、からあげ、ちきんなんばん。
とても美味しそうな鳥料理です」
「えっ、俺の考えを、ホワイト姫が読んでいる!!」
俺が何気なく考えていた料理のアイデアを、ホワイト姫が言い当てる。
「はい、私とツカサ様は契約で結ばれているので、ツカサ様の考えは全て私の心に刻まれます。
そして私は、ツカサ様の考えを否定することは出来ません」
「えええっ、と言うことはこの三日間、俺の頭の中をホワイト姫に覗かれていたのか!!」
まさかこんな小さな女の子に、俺のような汚れた大人の脳内を覗かせるなんて、精神衛生的に良くない!!
この世界に召還されて三日間、俺は色々と忙しかったから、イカガワシい妄想はしなかった……ハズだ。
ホワイト姫の衝撃の発言に、俺はショックで立ちくらみに襲われ、無意識のうちに額の印に触れた。
「あっ、ツカサ様が額の印を隠すと、心が見えなくなります」
「そうか、契約の印が原因なら、ハチマキを巻いて印を隠せばいいんだな!!」
俺はズボンのポケットからハンカチを取り出すと、大急ぎで額に巻く。
ハンカチは別れた彼女から貰ったキティちゃん柄だが、今はそれを気にしている暇はない。
俺の考えを読めなくなったホワイト姫は、とてもガッカリした顔をした。
***
八咫カモメの解体が終わり、俺はとり出した内臓の柔らかい部分を刻んで、花魔蜘蛛の巣の近くに置いた。
「八咫カモメの肉を、蜘蛛は食べるかな?」
それから肉を厨房へ運び込み、調理開始。
しかし大型海鳥のレッグチキンは、フライパンからはみ出してしまう。
「さすがにデカすぎるか。しかしどうしても、大きな肉をホワイト姫に食べさせたい。
どこかにバーベキュー板みたいな、鉄板はないか?」
周囲を見回すと、食堂の壁にちょうど楕円形の鉄の板が二枚飾られている。
「おおっ、コレなら素材は鉄っぽいし、チキンレッグを三本並べて焼けるぞ。
平たい鉄板をバーベキュー板に、丸みのある板は鍋蓋にしよう」
「ちょっと待ってください、ツカサ様。
それは御当主様が魔王を討伐した時の戦利品。
いかなる魔力も跳ね返す究極の盾と、浄化の盾ですっ!!
ああっ、やっぱり悪喰の魔人のツカサ様は、盾の魔力が効かないっ」
セピアが何か叫んでいるが、それより料理を作ることが最優先だ。
平たい鉄板(究極の盾)をたわしで水洗いすると、強火にした釜戸の二口の上に乗せる。
そして鉄板(究極の盾)を熱している間に、八咫カモメもも肉の皮部分に切れ目をいれ、塩を擦り込んで、コショウ風味の水玉キノコを薄切りして肉の間に挟む。
「さすがツカサ様、いかなる魔力も防ぐ究極の盾が、異界の炎に炙られています」
真っ赤に熱したバーベキュー板(究極の盾)に油を敷いて、下味を付けた八咫カモメもも肉を三つ並べて乗せる。
じゅわぁーっ、ジュワジュワッ。
鳥皮に焦げ目が付くように強火で焼くと、じんわりと透明な油がにじみ出てた。
「鶏油を他の野菜と一緒に炒めたら、コクが出て美味しくなるんだよな。
肉と一緒に炒めるモノは、そうだ、これは肉の臭み消しになるかもしれない」
俺は調理台の上に転がっていた岩石リンゴを手に取る。
これは八咫カモメが窓ガラスを割るために投げ込んだ岩石リンゴで、それを肉と一緒に焼いてみることにした。
バーベキュー板に鍋蓋(浄化の盾)をかぶせて、肉を蒸し焼きにする。
それから10分ほどすると、釜戸のそばでバーベキュー板を監視していたホワイト姫が声を上げる。
「ツカサ様、八咫カモメの焼けるジューシーで甘い香りが、部屋中に充満しています」
「えっ、甘いって砂糖は使ってないけど、なんでだ?」
俺は不思議に思って鍋蓋を取ると、すごい熱気が立ち上り、肉の臭み消しで入れた岩石リンゴが煮崩れて、フルーツソースになっている。
それが八咫カモメの肉汁と混ざり合い、チキンレッグの表面は照り焼き状態になっていた。
「堅くて食べられないはずの岩石リンゴが、このバーベキュー板(究極の盾)と鍋蓋(浄化の盾)で焼きリンゴみたいになっている。
そうか、これは鍋蓋の重みで圧力がかかり、ダッチオーブンと似た仕組みになったんだ」
「その究極の盾と浄化の盾、そして異界の炎だから短時間で高温の料理が出来るのです。
炎魔法の炎は、一人分の魔力で鍋一杯のお湯を沸かすのがやっとです」
この世界は火を炎魔法で起こせるけど、普通はお湯を沸かせる程度の炎魔法しか使えない。
「つまりこの世界の住人は、弱火のコンロで料理しているのか」
「上位炎魔法なら大きな火を起こせますが、優秀な炎魔法使いは皆王都へ連れて行かれます。
ですから王都には、優れた炎魔法で調理された美味で溢れています」
「ホワイト姫様、王都にはおぞましい勇者王が住んでいるのですよ。
それに熱々こんがり焼かれた肉は、王都のどんな料理より美味しそうです」
セピアは口の端から垂れる涎を拭おうともせず、瞳をギラギラと輝かせながらテーブルに皿を並べて待機する。
そしてホワイト姫も、潤んだ目で【八咫カモメの骨付きもも肉、岩石リンゴソース味】を見つめていた。




