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ナマコスライムを捕まえて、料理する

 今日の収穫は、人面トマトとキノコとうり坊。

 そして俺たちは、庭園の中をうろつく巨大黒曜魔イノシシを避けるため、慌てて城に帰る。

 その途中、庭園の苔蒸した石の柱に張り付く何かを見つけたうり坊が騒いだ。


『ぷひぃ、ププふぃ、プヒプヒ』

「形が丸っこくて頭の先がとんがって、某ゲームのスライムに似ている。

 ナメクジにしては弾力があるし海が近いから、もしかしてナマコか?」


 石柱にこぶしサイズの黒光りするナマコスライムが、数十匹が集まって張り付いている。

 うり坊はその石柱に体当たりすると、落ちてきたナマコスライムを額の角に突き刺して、動かなくなったヤツをそのまま食べてしまう。


「雑食のうり坊が食べるって事は、このスライムは食用……」


 俺の呟きに、セピアが即効で反応する。


「いやぁあぁーー、スライムは無理無理ぃ!!

 聖なる神の教えで、スライムは水に溶けた魔物の魂が凝縮されて生まれた、呪わしき生き物です。

 そのスライムを食べるなんて、魂が汚れてしまいます」

「また汚れか、この世界はどれだけ汚れの安売りをしているんだよ!!」

「セピア、諦めましょう。ツカサ様はすべてを喰らい尽くす悪喰の魔人。

 スライムすら食べるつもりです」


 普段なら俺だって、無理して軟体動物を食べようと思わないが、今は緊急事態だ。

 ナマコは高タンパク質でコラーゲン豊富だから、痩せて頬のこけたホワイト姫に必要な栄養素が揃っている。

 俺は何のためらいもなく、黒々と蠢くむき出しの内蔵みたいなナマコスライムを鷲掴みすると、柔らかいナマコスライムは指の間からヌルりとすり抜けて逃げた。


「これはうり坊がナマコスライムを捕まえた時みたいに、石柱を叩いて落とした方法がいいのか。

 うっ、グズグズしている間に、石柱の上の方に逃げた」


 慌てて俺は石柱を叩いてナマコスライムを落とそうとしたが、警戒状態のナマコスライムはしっかり張り付いて落ちない。

 

「俺じゃあ馬力が、蹴る力が足りない。そういえば馬力がありそうなヤツがいるじゃないか」

「えっ、なんでツカサ様、私を見ているんですか。

 私の主人でもないのに腕を掴まないで……もしかして私に石柱を蹴ってスライムを落とさせるつもりね!!」

「そこまで理解しているなら、説明はいらないな。

さすがケンタウロスの血を引くだけはある、足を踏ん張ってぴくりとも動かない」


 俺は逃げ腰のセピアを無理やり引っ張って石柱の下に連れてこようとしたが、もちろんセピアは断固拒否する。

  俺のいた世界でも、ナマコを初めて食べたやつは勇気ある。と言われているくらいだ。

 こっちの世界でスライムを食べるなんて考えは、よっぽどの悪喰だろう。


「でもセピア、ホワイト姫の痩せこけた頬を見ろ。

 セピアは固い草を食べられるが、ホワイト姫が食べられる食料は無い。

 この柔らかいナマコスライムならホワイト姫でも食べる事ができる。

 それに俺のいた世界では、ナマコは漢方薬に使われるくらい滋養強壮があるんだ」

「このナマコスライムが滋養強壮の薬、ホワイト姫様が以前のように元気になるなら……、でも私は絶対食べませんよ。

 ふぉおおおっ、ナマコスライムを全部叩き落とすっ!!」


 次の瞬間、セピアは俺の腕を振り払うと、体を低くして石柱に突進する。

 半分折れた羊のような角で頭からぶつかると、ものすごい衝撃音がして石柱がグラグラ揺れた。

 その衝撃で石柱から剥がれたナマコスライムが、下へと落ちてくる。


「でかしたぞ、セピア。

 見た目はあれだけど、俺がちゃんと美味しく食べられるように、ナマコスライムを料理してやる」



 ***



 廃城に戻った俺は、早速料理を始める。

 調理台の上には、小人の生首ではなく人面トマトと、毒々しい紫色と巨大えのきと水玉模様のキノコ、そして生け捕りにしたナマコスライムが手提げ袋の中でうごめいていた。


「皮が固めなトマトは……、作業がスプラッタだから俺一人で調理しよう」


 俺の呟きを聞いたセピアは、料理に興味津々のホワイト姫の手を引いて、厨房の外に避難した。

 さっそくトマトのへたを取る作業にとりかかるが、その場面は想像にお任せする。

 次に沸騰した大鍋にトマトを沈めると、すぐ取り出した。

 こうすればトマトの皮の湯むきができるが、見た目小人の生首トマトの皮むきはとてもグロイ。

 そんな作業も平気で行える俺は、異世界召喚されてから何処かおかしくなっている。

 それから人面トマトの形が無くなるまでダイス状に刻むと、鍋で念入りに煮詰めた。

 次にカラフルな水玉キノコを炒めると、刺激のあるスパイシーな香りが漂ってきた。


「この刺激のある香りはもしかして、コショウ?

 すごい、この水玉キノコは大当たりだ。

 虹色の水玉で毒々しいけど、細かく刻めれば気にならない。

 塩、酢、胡椒キノコ、それにトマトピューレがあれば、料理のバリエーションが増える」


 胡椒の発見に喜んだ俺は、刻んだ胡椒キノコを見中になって炒めていると、スパイシーな香りに釣られてホワイト姫が厨房を覗きに来た。

 人面トマトの調理は済んでいるので、台所を覗かれても大丈夫だ。

 

「ツカサ様、この不思議な、目の覚めるような香りはなんですか?」

「ちょうど良かった、ホワイト姫に手伝ってもらいたい事があるんだ」


 俺はそう言うと手提げ袋の中から、生きたまま捕らえたナマコスライムを取り出す。


「ツカサ様、わ、私に何のご用ですか」

「うり坊はナマコスライムを角で突き刺して中身を出してたから、同じ方法で内蔵を取り出せばいい。

 でもナマコは包丁を入れた途端、内臓が吹き出すんだ。

 そこでホワイト姫に頼みがある」


 俺の手の中でグニグニうごめくナマコスライムに、ホワイト姫は警戒しながら近づく。


「このナマコスライムをホワイト姫のマホウで、氷がすぐ溶ける程度のシャーベット状に凍らせて欲しい」

「このナマコスライムは、私のお薬になるのですね。

 私の汚れた氷魔法が、ツカサ様お役に立つのなら、何でもします」


 とは言っても、見た目ブヨブヨとうごめく黒光りしたナマコスライム。

 それでもホワイト姫は勇気を出して、人差し指でちょこんとスライムに触れると、瞬く間にスライムは氷漬けになった。

 

「ホワイト姫のコオリマホウは、とても役に立つんだよ。

 冷たくて手が痺れるけど、ほら、スライムを凍らせたまま切れば中身の内蔵が飛び散らない」


 ドイツ製のよく切れる包丁で凍ったナマコスライムを真っ二つにすると、シャーベット状の体液や内蔵を簡単に取り出せる。

 そして凍らせた状態の柔らかいナマコスライムを、薄くスライスして切った。

 切身の向こう側が透けて見えるくらい、薄くスライスしたナマコスライムに塩を振って味見すると、柔らかくて弾力のある食感で少し生臭いが、これなら普通に食べられそうだ。


「港町に住むおじさんの家で食べたナマコ酢、美味しかったな。コイツ、生でもいけるか?

 しゃきしゃきのススキモドキ草と一緒に合わせたら、ツマミになりそうだけど、ホワイト姫は生ものなんて食べないだろう」


 いきなり生ものを食べて腹を壊したら困るので、スライスしたナマコスライムをしゃぶしゃぶのように湯にくぐらせ、ススキモドキ草と胡椒を効かせたマヨネーズで和える。

 そして俺の料理を食い入るように眺めていたホワイト姫に、一口味見させた。


「このナマコスライムは、私の滋養強壮のお薬……。

 ぱくん、あれ、お薬みたいに苦くない。

 それにブヨブヨしていたスライムが柔らかくなって、シャキシャキと歯ごたえのある草と一緒に食べたら、とても美味しいです」


※連載一週間目、応援ありがとうございます。

 

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