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丘の上の幸せ荘

現代。管理人と個性的な住人達。ギャグ。

 初めまして、皆さん。私はここ、小高い丘の上に立つ幸せ荘の2代目管理人です。幸せ荘を作ったのは私のおじいちゃん。年を取って管理人の仕事ができなくなったおじいちゃんに代わり、大学を卒業して間もない私が管理人として就任したのは、半年程前。

 この仕事はやりがいがあるし、何よりのんびりできる。おじいちゃんは設ける為にこれをやっていたわけではないので、別に躍起になって仕事に励まないといけないわけでもない。なかなかに好待遇だけれど、少しだけ、後悔しているのかも、しれない……。

 何故ならば、おじいちゃんは重大な事を私に教えておいてくれなかった。ここの住人は、あまりにも無茶苦茶すぎる。マトモといえる人なんて一人もいない。私は自分が普通ではないような自覚はそれとなくあったけれど、ここのメンツに比べれば、充分可愛いモノだと思う。

 警察官志望のヤクザの若頭。(101号室住人)

 常に爆発を起こすマッドサイエンティスト。(102号室住人)

 アイドルにしか見えない男装のお姉さん。(103号室住人)

 人目を引きまくりなホストの双子兄弟。(201号室住人)

 並の女よりも綺麗なオカマバーの売れっ子。(202号室住人)

 悪霊に取り付かれて共存している神父。(203号室住人)

 名作となる遺書を残そうとしている自殺志願の男子高校生。(204号室住人)



 …………おじいちゃん、どうしてこんな人達を住人に選んだの?



 そんな事を思いながら私は時計を見た。現在朝の六時半。手早く身支度を調えて、私はクッションを被った。何故って?そんな事を聞かないで欲しいわ。ほら、聞こえたでしょう、爆発音が。

 収まってからクッションを放り出し、バタバタと外へと走り出る。相変わらず、何でこう、毎朝毎朝爆発させるのよ!いい加減にしてくれないと、私だって怒るわよ!

 バンとドアを開けて外に出た私は、そこに黒スーツの黒髪青年と、瓶底眼鏡をかけた白衣の青年を見つけた。はうぅぅっ!!!やっぱり起きてきてしまったのね、若!しかもマッドの首を揺さぶってるし!!…………仕方ないか、若低血圧だし。


「どーも、マッドに若、おはようございます。」

「あぁ゛……?……管理人か、早いな。」

「あー、管理人さん、この危険人物を何とかして下さいよ。」

「危険は貴方の方ですけど。」

「あ、それヒドイぃ……。」

「ヒドイのはおんどれじゃ、安眠妨害しくさりおってぇぇーーーっ!!!」

「……若、言葉乱れてますけど。」


 ぼそりと突っ込んだ私の言葉を聞いて、若ははっとして口を閉ざした。若は生まれも育ちもヤクザの息子である所為か、時折ひどく言葉が乱れる。本人は警察になりたいらしく、必死に普通の言葉を使っているのだけれど。

 若から解放されたマッドは、やれやれと肩を竦めていた。…………なんて呑気な男なのかしら。まぁ、毎日同じ繰り返しをしているなら、慣れるでしょうけど。でも、だったら少しは控えてくれても良いのに。いくら部屋が特別製で爆発に耐えられるからって……。

 そして、後始末があるからと、マッドが部屋に戻っていく。不完全燃焼状態の若は、燻ったダイナマイトみたいなモノだったりする。その為、私はそろそろと若から離れようとした。そんな私の肩に背後から手がかかる。驚いて、私は背後を振り返った。


「……え?」

「おはよう、管理人。若はまた不機嫌なのか?」

「はい、そうです。ところで、今日は早いんですね王子。」

「あぁ、早朝会議があってね。」


 ニコリと笑った王子は、並のアイドルよりも完璧に格好良い。これで女の人だなんて、詐欺だわ。ちなみに彼女は、女子校で体育教師をしているらしい。こんな教師がいた日には、生徒の目が全部ハートよね。


「……王子か。」

「相変わらずだな、若。マッドを相手にするだけ無駄だろう?」

「解ってる。だが、俺の安眠妨害をするのは許せん!」

「怒るだけ無駄だぞ。あの男は豆腐だ。」

『…………は?』

「グニャグニャで掴めなくて潰れる。」


 サラッと言われた王子の言葉に、なるほどと二人揃って頷いてしまった。流石に王子だわ。でも、それで若が収まってくれるのかしら?ちらりと垣間見た若は、毒気を抜かれた顔をしていた。どうやら、怒りは収まったというか、気が抜けたらしい。


「……もう一眠りするか。」

「それが良い。お休み、若。」

「あぁ。……仕事か?なら頑張れよ、王子。」

「おやすみなさーい。」


 大人しく部屋に戻っていく若。若って、前から王子にだけは素直なのよね。やっぱりこれは王子の人徳の成せる技かしら。流石だわ。

 そして、学校へ向けて出勤していく王子を見送った後、私は揃って帰宅してくる3つの影を見つけた。私を見つけると、彼等は走ってくる。左右対称、完全なるシンメトリーの双子青年達と、肩出しドレスが何とも艶めかしい美貌のお姉様……もといお兄様。夜のお仕事組が、どうやら今帰宅したらしい。


「お帰りなさい、ツインズに姫。」

『ただいま、管理人。』

「三人で飲んでいたから遅くなっちゃったのよ。心配かけたかしら?」

「全然心配してませんけど。」

「アラ、それは残念ね。」


 クスリと笑った姫は、女の私が見てもどきりとする程美人だ。おまけに両サイドにホスト街でも指折りのツインズを連れてるんだから、きっと思いっきり人目を引きまくったんだろうなと、思わせる。まぁ、この人達はヒトの視線にサラされるのが仕事でもあるし、今更その程度でどうこうなる人達でもないし。


「たまには遊びに来てくれても良いのに。」

「そうだよ、君なら大歓迎なのに。」

「遠慮します!」

「だったら、ウチのお店に来る?結構女の子もいるのよv」

「い、い、行きません!」


 そんなところに行ったら、お金がいくらあっても足りないじゃない!自分達が売れっ子だって事を自覚して下さいよ、あなた方!怖くて近寄れたモンじゃないんだから……。ファンの子達がここを突き止めていなくて良かった……。


「じゃ、アタシはそろそろ寝てくるわね。」

『僕等も寝てくるよ、お休み管理人。』

「おやすみなさい。」


 花と光と点描をバックに散らしながら、人目を引きまくるキラキラ三人組が部屋へと戻っていく。……本当にもう、何でこう、妙なヒトばかり集まるのよ……。ふと、視線を感じて私は振り返る。そこにいたのは、神父服を着たお兄さん。


「おはようございます、神父。お元気ですか?」

「神父なら寝てるぞ、管理人。」

「……って事は、貴方悪霊ですか?!」

「悪霊言うな!俺はこいつと共存してるんだぞ?!」

「そんな事言ったって、貴方悪霊じゃないですか!」

「他の奴に身体取られるよりは俺が護ってやってる法がマシだろうが!」

「人格変わりすぎててイヤなんです!!!」


 私の叫びを聞いて、悪霊が眉間に皺を寄せた。この悪霊はひょんな事から神父に取り付いて。そして何時の間にやら共存関係を結んでしまったらしい。何でも、神父は非常に悪霊に取り付かれやすい体質なのだとか。だから、身体を借りる代わりに、悪霊が神父を護っているという事らしい。

 しばらく私を見ていた悪霊は、やれやれと頭を振った。そして俯くと、顔を上げる。そこにあったのは、穏やかな微笑みだった。……あ、戻った。


「おはようございます管理人さん。」

「おはようございます、神父。悪霊は?」

「彼なら、奥の方で眠ってますよ。少し拗ねてます。」

「はぁ?」

「あんまりいじめないでやって下さいね。根はイイヒトですから。」

「……あのー……。」


 おいおいとツッコミを入れ駆けた私の言葉は、神父の晴れやかな笑顔に封じ込まれた。ミサに行ってきますと微笑んで立ち去っていく。何となく釈然としないながらも、私はそれを見送った。流石、神父となると一般人と感性が違うのね。


「あのー、管理人さん。」

「はい?どうしたの、少年。」

「万年筆のインクが切れたんですが、予備って持ってますか?」

「?あるけど、何するの?」

「遺書の良いフレーズが浮かんだんで、書いてみようかと。」

「止めなさいこの阿呆!!!!」


 拳を握りしめて絶叫した私を二階から見下ろして、少年はキョトンとしている。何でこの少年は、遺書に全力投球をしようとするの?素晴らしい文章を残したければ、詩でもエッセイでも良いじゃないの!なんででそれが、よりにもよって遺書でないといけないのよ!!


「……そうですか、解りました。コンビニ行って買ってきますね。」

「ヒトの話を聞きなさい!」

「お手数おかけしました、管理人さん。」

「コラ、少年ーーっ!!!」


 ニッコリ笑って部屋に戻ってしまった少年。部屋のドアがバタンと閉まる音を聞いて、私は肩を竦めた。なんてムチャクチャなのよ、あの子は……。

 ……部屋帰って、ご飯食べよう。その後洗濯して、お掃除して……。おじいちゃんに手紙書いて……。友達に愚痴電話でもかけてみようかしら?



 とりあえず、幸せ荘の住人は、今日も元気です。



FIN

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