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天使を探す少年

現代ファンタジー?少年と少女と天使。ほのぼの?


「いい加減、諦めたら?」

「絶対に、いるんだよ!」

「あんた、そう言い続けて天使探して、いったい何年目?」

「今年で10年!」

「だから、天使なんていないの。」

「絶対にいるんだ!!」


 少年が、叫ぶ。緩やかに癖のある深みのある茶色の髪に、黒の瞳。漆黒に金ボタンの学生服に身を包む姿から、中学生と窺い知れる。名前を、吉岡智よしおかさとしという。現在15歳で、本来なら受験勉強に勤しまなければならないはずが、幼い頃からの習慣で、今日も彼は天使を探していた。

 誰に言っても、呆れられる。その代表的存在が、5歳の頃からの幼馴染みである隣の少女。淡い栗色の髪をポニーテールに結わえ、度の殆ど入っていない眼鏡をかけている。伊達眼鏡でもしないと、道行く人から声をかけられて大変なことになる美少女なのだ。白地に紺のスカーフを巻いた可愛らしいセーラー服がよく似合う。彼女は榊原梨香子さかきばらりかこといって、主に智へのツッコミ役だ。


「しかも、何でそこまでムキになるかなぁ…………。」

「天使は俺の命の恩人なんだよ!あの天使を探して、俺はお礼を言うんだ!」

「安心したら?仮にもし逢えたとしても、10年前の事なんて、忘れてるって。」

「俺は絶対にそのヒトを見つけ出す!」

「聞きなさいよ。」


 カバンで智の頭を殴りつけて、梨香子は突っ込む。流石長年の相棒だけあって、その辺は容赦がない。隣を駆け去っていく友人達は、いつもの二人の微笑みを向けるだけだ。どうでも良いが、自分に人権はあるのだろうかと智は思う。常々梨香子の理不尽な行動には、そう思わざるをえないのだ。

 智が天使を探す理由。それは、幼い頃に彼が崖から落ちたことにあった。脚を滑らせて崖から落下した彼は、地面に激突する寸前に、天使に助けられたのだという。そのヒトのせにはしっかりと白い翼が映えていて、彼を地面に降ろすと人が来る前に去っていってしまった。

 意識が朦朧とする中で覚えているのは、真っ白な翼と、夕日を反射してキラキラと輝いていた綺麗な髪だ。そしてそれだけを手がかりに、翌日から実に10年間、彼は天使を探し続けてきた。ひたすらに、天使を探し続けてきたのである。

 10年かけて見つからなければ、諦めてしまえばいいモノを。けれど智は、諦めない。どれほど梨香子に阿呆だと言われても、彼は諦めないのだ。いっそ意地を張っているのではないかと思えるほど、彼は頑なで、長年の付き合いである梨香子ですら、たまに見捨てようかと思う時がある。


「何で、そこまでムキになって探すわけ?」

「だって、お前に見せてやりたいし。」

「……は?」

「お礼もしたいけど、やっぱお前にも見せてやりたいんだ。綺麗なんだぜ、そのヒトの翼。髪も、凄く綺麗でさ。」

「そんなくだらない理由で、10年間天使探してるわけ?」

「くだらなくない。」


 ふて腐れて智が呟く。あんたやっぱりバカよ、と梨香子が溜め息をついた。いい加減にしてくれと、彼女は呟く。だがしかし、その呟きは智には聞こえなかったらしい。彼は元気に今日もまた、天使にあった崖に昇っている。

 そこに何かの手がかりがないかと、想いながらだろう。一縷の望みに縋るように、彼は天使を探している。探すの止めたらと、何度も梨香子は言ったけれど、その度に彼は笑って嫌だというのだ。

 先を行く智の背中を身ながら、梨香子は溜め息をついた。そっと目を伏せると、その背にふわりとした翼が現れる。真っ白な、天使の翼が。淡い栗色の髪が、夕日を反射してキラキラと輝いていた。


「……っとに、そんなに探さないでよね、バカ……。」


 天使であることは、秘密。誰にも言ってはいけないと、言い聞かされて育った。それが、人間界で生きている、多くの天使達の暗黙の了解だから。助けた同い年ぐらいの少年が、まさか隣の家の子供だったなんて。驚いて両親に告げれば、絶対に言ってはいけないと言われたから。

 だから、10年も秘密にしているのに。だから、必死に止めさせようとしているのに。見つける理由に、自分への想いがあるなんて。そこまで必死に自分を探してくれるなんて。嬉しくなりそうで、困る。


「どうでも良いけど、10年側にいて気づかないあんたには、きっと一生気づけないと思うわよ?」


 かなり離れた場所で崖下を覗き込んでいる智を見て、呆れたように梨香子は呟いた。そんな智が、好きなのだけれど。



 実は天使は、物凄く近くにいたということ。



FIN

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