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大魔法使いの憂鬱

ファンタジー。魔法使いと司祭と悪魔と天使。ギャグ。

 余りある力を持ったところで、退屈には勝てないのです。



 とある世界のとある大陸のとある森の一角に、その世界で一番強いといわれる大魔法使いが住んでいました。その大魔法使いは強いだけでなく頭も良く、ついでと言っては何ですが誰もが羨むほどの美貌の持ち主でした。唯一の欠点はその人を喰った性格ぐらいではなかろうかと、知人はしみじみと語ります。

 今日も今日とて、大魔法使いは欠伸を噛み殺しながら水晶に映った世界を眺めていました。ある国では戦争が起こり、ある国ではお祭りが催され、またある国では世継ぎの王子が生まれていました。それぞれの国がそれぞれの世界を作り上げるのを見て、大魔法使いは溜め息をつきます。形良い唇から、小さな声がこぼれました。


「むっちゃくちゃ退屈ー…………。いっそ、魔法で大陸一つ吹っ飛ばすかなぁ?」

「…………ヲイ。」

「それとも、何処かに悪魔でも召喚するか。もしくは合成魔獣を創り出して嗾けるとか、精霊をたらし込んで災害を起こさせるとか……。」

「待たんかい、ヲイ。」


 次から次へと物騒な事を言う大魔法使いの頭にハリセンを叩き付けて、突然現れた青年は眉間に皺を刻んでいます。大魔法使いが振り返ると、そこには見慣れた司祭服の友人がいました。彼はこの世界で五本の指に入ると言われる程の法力を持った、天才と名高い大司祭様です。

 大魔法使いは腰までの真っ黒の髪に、太陽の輝きを封じたような黄金の瞳をしています。対照的に、大司祭様は短く切り揃えた白髪に、誰もが驚く程優しい晄を宿した銀色の瞳をしています。二人並ぶと誂えた一対の絵のように映る二人ですが、その類い希なる美貌とは裏腹に、非常に口が悪かったりするのです。


「己は、何寝言ぬかしてやがる、あ?」

「俺は暇なんだ。」

「てめぇの暇の所為で災害引き起こされてたまるか!ったく、久しぶりに嫌な予感がしてやってきてみれば、このボケは……。」

「相変わらず頭が固いな、大司祭様。

 お前は平和の為に祈りを捧げるなんて、退屈じゃないのか?」

「別に俺は平和の為に祈りを捧げてなどいないぞ、大魔法使い。ただ単に、平和の為に祈りを捧げていれば、お布施が山程集まるからな。」

「お前、実は俺以上に腹黒だろう?」

「何を言う。お前には劣る。」


 きっぱりはっきりと否定する大司祭様です。大魔法使いが嘘を付けと呟くのを聞いて、大司祭様はニッコリと微笑みました。その笑顔は、それだけ見ていればまるで聖人君子のようです。けれど、その裏でどんな腹黒い事を企んでいるのかも、大魔法使いにはお見通しでした。



 類は友を呼ぶという言葉の見本でございます。



「だいたいな、大魔法使い。お前がこんな所に隠遁しているから、退屈なだけだろう?俺を見習って行脚してみたらどうだ?」

「そんな疲れることやってられるか。」

「金は貯まるぞ。」

「その気になれば、ひょひょいのひょいっと生み出せばいい。法力使いのお前と違って、俺は魔力持ちだからな。そういうのもお手の物さ。」

「そもそもそれは、幻術とかの類の紛い物作りだろうが。」

「そうともいうか。」

「そうとしかいわねーよ。」


 冷ややかに突っ込みを入れる大司祭様。再び振るわれたハリセンを指で挟んで受け止めて、大魔法使いはニヤリと笑いました。性格の悪さが滲み出まくった笑顔ですが、大司祭様は気にも止めません。とりあえず、空いていた方の手で相手の頭を叩きます。大司祭様が暴力を振るっていいのかどうかは、この際無視しておいて下さい。この二人はいつもこんな感じなのですから。


「じゃあ、どうやって暇潰せって言うんだ?」

「どうって……。研究は?」

「飽きた。つーか、俺がやってない研究なんて、

 ちゃちすぎて今更手を出すのも馬鹿馬鹿しすぎる。」

「お前、またそうやって難易度の高い所からやってたのか?捻くれてやがるなぁ……。」

「お前にだけは言われたくないぞ。」

「失礼な。俺は捻くれているのではなく、ねじ曲がってるんだ。」

「あぁ、なるほど。」


 ぽんと手を打つ大魔法使い。そうだろうと微笑む大司祭様。そんな二人の背後に、ふわりと二つの影が現れました。どちらも背に翼を抱いています。純白の翼を持った金髪に青い瞳の少女と、漆黒の翼を持った銀髪に真紅の瞳の青年です。間違えることなく、彼らは天使と悪魔でありました。


「マスター!またそうやって無茶な事を仰ってるんですか?!」

「こら、エセ司祭。己は俺が目を離せばすぐにそうやって、間違った事ばかり口走ってやがるのか。」

「お帰り、大天使。小言は聞き飽きたぞ。」

「相変わらず口煩いな、大悪魔。」

「誰の所為だと思ってらっしゃるんですか?!」

「お前の所為だろうが、このエセ司祭がっ!!」


 罵声を浴びせる大天使と大悪魔を見て、大魔法使いと大司祭様はにっこりと微笑みを浮かべました。怖いぐらい綺麗な笑顔ですが、そんなモノに騙されるような二人ではありません。何分、嫌と言うほどこの二人と付き合ってきたのですから。

 青年二人を見て、大悪魔と大天使は顔を見合わせました。今更何を言ったところで、この二人が考えを改めるわけがないのです。それでもついつい突っ込みを入れてしまうのは、二人の性格の所為でしょう。大天使の少女は天使らしいまっすぐとした真面目な気性をしていますし、大悪魔の青年は口は悪いのですが、面倒見がよく随分と真っ当な性格をしているのです。


「退屈なんだよ。仕方ないだろう?」

「こいつが俺に被害を与えるような暇つぶしをするんだ。何か他の方向へと動かしてやるべきだと思わないか?」

「そういう、傍迷惑な事は止めて下さい、マスター!」

「己は、自分さえよければ他はいいのか?!」

『自分が良くて何が悪い?』

『悪いに決まってるっ!!!!!』


 怒鳴りつけてきた大天使と大悪魔を見て、大魔法使いと大司祭様は肩を竦めました。いい加減にしてくれよなと言いたげな顔をしています。この二人は自分本位でマイペースなので、付き合う方が疲れるのです。証拠に、大天使と大悪魔はとても疲れていました。


「とりあえずー、手っ取り早く孤島一つぐらい吹き飛ばしてみるかな?」

「あ、俺がこれから行脚する予定の南東諸島には手を出すなよ。」

「了解。」

『…………。』


 にこやかに微笑みながら会話をする大魔法使いと大司祭様。その二人を見て、大天使と大悪魔はがっくりと肩を落としました。もういいと、泣きそうな気分になりながらつぶやきました。

 じゃあなと見送られ、大司祭様はブツブツと文句を言う大悪魔を連れて立ち去っていきました。残された大天使は、じっと大魔法使いを見ています。出来る限り、無茶をさせないように頑張ろうと思っているのです。ヒトはそれを、無駄な努力というのかもしれませんが。



 とりあえず、鬱状態と退屈に支配されると、大魔法使いは災害を引き起こすのです。



FIN

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