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失敗だらけの半人前

ファンタジー。見習い魔法使い。ギャグ。

 ドカン。目の前で爆発を起こしたそれを見て、あたしは溜め息をついた。果たして、これで今日何回目だろうか。今月に入ってから何回目とかいう数は、考える気もおきない。爆発したツボと、飛び散った液体と、呆れた顔をする幼馴染み。


「……ラーナ。」

「解ってる!解ってるから、そんな目をしないで、セーラ!」

「だからってねぇ、ウィルラーナ?あんた、いったい何時になったら魔法薬が作れるの?同い年のあたしは既に新米魔法使いだってのに、いつまで半人前なのよ……。」

「だって、魔法薬作るの、苦手なんだもん……。」


 偽らざる本心を、あたしは告げる。あたしの名前はウィルラーナ。魔法薬を作るのが大の苦手な魔法使い見習い。隣にいるのは、幼馴染みのフィラレセーラ。ちなみに彼女は短い茶髪に緑の瞳の美少女だったりする。同じ師匠に学んだ幼馴染みの彼女は、既に新米魔法使い。…………あたしの駄目っぷりが良く解るだろう。

 我が家は代々魔法使いを排出してきた家柄。父さんも母さんも、優れた魔法使いとして有名。その血を引いているあたしは、決して魔法使いの適正がないわけじゃない。むしろ、魔術に関しては文句なし。ただ一つの欠点は、魔法薬を作ると爆発させる事にある…………。

 咄嗟に張ったシールドのお陰で液体はかからなかったけれど、周りを見渡せば泣きたくなる程ムチャクチャ。仕方ないといいながら片付けを始めてくれるセーラはイイヒトだ。彼女曰く、早くあたしを一人前にしないと、師匠が哀れだとか。…………どういう意味よ。

 がらり。立て付けの悪い扉を遠慮無く開く音がした。怯えながら振り返れば、見慣れた豪奢な金髪と白の法衣が見える。本名・ディエンダル、通称ディー、人呼んで『白の大魔導師』。あたしとセーラの師匠であり、指折りの魔法使いである男がそこにいる。


「お、お帰りなさい、師匠……。」

「お帰りなさいませ、師匠。お疲れ様です。お仕事は如何でした?」

「出張授業などやるものじゃねーっつーの。あぁ、思い出してもウザイ!クソくだらん賛美何ぞいるか!」

「……で、猫被ってたせいで、余計に疲れたんですね、師匠。」


 ぼそりと呟いたあたしの言葉に、師匠はぐるりと振り返った。黄金の髪に縁取られた顔の中で、白の双眸があたしを見ていた。……怖い。うわ、物凄く不機嫌だし。何でこんなに不機嫌なのよ、師匠!ただでさえガラ悪いのにーーーっ!!

 ぐいっと伸ばされた腕が、あたしの肩上で切り揃えた赤毛を掴む。師匠の白の瞳に、あたしの蒼い瞳が映っている。はうぅぅぅ……。セーラ、呑気に片付けしてないで、助けなさいよぉぉっ!!この男がガラ悪くて危険人物だって事、知ってるでしょう?!!


「その、お疲れの師匠を迎えるのが、これか?ん?ラーナ?」

「い、いえ、あの、それはですねぇ……。師匠にいわれた通り、頑張って、魔法薬を作ってたんですが……。」


 冷や汗を流しながらあたしがいうと、ニコリと師匠は笑った。マズイ。この人は笑ってる時の方がかえって危険なんだから!何処の誰よ!この人に『白の大魔導師』とかいうあだ名つけたの!中身はどう見たって真っ黒漆黒、混沌じゃないの!!!

 ニコニコと微笑んでいる師匠の掌が、バチバチと放電している。師匠級になると、詠唱無しに魔術が使える。それくらいよく知ってるけど、今は有り難くない。何にも、ちっとも、有り難くなんて、無い!


「駄目な子には、お仕置きだよなぁ、ラーナ?」

「いりませんーーーっ!!!」

「安心しろ。この程度じゃ死にはしない。」


 貴方の中の基準はそれだけですかーーーっ!!!心の中で絶叫したあたしの気持ちなど、師匠は無視している。せめてでも苦痛を和らげようと、あたしは目をつむった。師匠の掌が近寄ってくるのが解る。雷撃の音が、近くなる。

 けれど、痛みはなかった。気配で、雷撃が四散するのが分かる。驚いて目を開ければ、呆れたような顔をした青年が一人。短い漆黒の髪に漆黒の瞳、全身黒づくめの青年が、いる。


「…………ロイ様……?」

「久しぶりだな、ラーナ。それにセーラも。元気そうで何よりだ。」

「……何故邪魔をする、ロイ。」

「何故?ディーの雷撃喰らって平気なのは、俺を含む大魔導師ぐらいだろう?必死にやってるラーナにそこまでする事はない。しかも、八つ当たりはなお悪い。」

「だったらお前は、この部屋の惨状をどうするつもりだ!」

「んなもん、魔術でちゃちゃっと片づければいいだろうが。こんな風に。」


 ロイ様が手を鳴らすと、部屋があっという間に綺麗に片づく。モノが勝手に動き、勝手に掃除を始めるのだ。呆然としていると、『黒の大魔導師』と呼ばれる青年は笑った。本名をロイファイルというこの人は、師匠の親友らしい。どうやら、同じ師の元で学んだ兄弟弟子だとか。

 喧嘩を始める師匠とロイ様。無敵で通る師匠も、この人の前では猫を被らない。何でも、弟子入りする前からの幼馴染みだった所為で、今更猫を被っても無駄なのだとか。とりあえず、片づいた部屋で、日が暮れてきたのであたしは燭台に炎を灯す。こういう魔術の類は、セーラよりも得意なんだけどな、一応。


「相変わらず素敵よね、ロイ様。」

「セーラ、それ師匠に聞かれたら暴れるよ。」

「あら、師匠も勿論素敵だけど?ただ、ロイ様の方が人間ができてるじゃない?」

「いや、否定しないけど……。でもあの二人、どっちも数世紀は生きてるでしょ?」

「言っちゃ駄目よ。あの辺りのレベルまで行くと、年齢止めるの容易いらしいし。」


 ケロリと言い放つセーラに、あたしは溜め息をついた。師匠とロイ様の実年齢を聞くのは、野暮だ。あたし達はそう肝に銘じて生きている。まぁ、外見だけなら二十代の半ばの美青年二人だし、それで良いと思う。中身がオカシイと思う事は多々あるが。

 片づいた部屋で、あたしはもう一度ツボに向かう。その途端、口げんかをしていたはずの師匠達の方から、本が飛んできて頭にぶつかった。……痛い。間違いなくこれは、こういう事するのは、絶対に、師匠だ!


「何するんですか、師匠!」

「喧しい!これ以上家を汚すな!続きは明日にしろ!」

「……課題出したの、師匠のくせにぃ……。」

「何か言ったから、ラーナ?」

「なんでもありません!」


 ぶんぶんと首を振って答えれば、満足そうに頷く師匠。……嫌い。もう、この人やっぱり嫌い。数世紀も生きてる化け物なんて、大嫌い。



 アァ、早く一人前になって、この人の側から離れたいなぁ……。



FIN

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