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僕等の愛すべき日常

現代。イケメン双子とパパラッチ美少女。ギャグ。

 僕、羽柴慎一はしばしんいちと傍らの弟・羽柴賢一はしばけんいちは、親ですら見分けがつかないと言われるような一卵性双生児だ。身長体重、座高に視力までまったく同じ。ただ一つ違う事といえば、僕が右利き、賢一が左利きという事ぐらいか。それでもまぁ、仲がいい事は確かである。

 世間一般的に、兄弟で登校する事はないという。現在中学二年生である僕と賢一は、周囲に不思議に思われながらも、特に意味もないままに2人連れだって登下校をしている。別に図ったわけではないが、2人揃ってサッカー部だったりする。小学校時代からやっていたので、それなりに出来るのだ。

 僕が、司令塔の10番、MF。賢一が、エースストライカーである9番、FW。サッカー部のエース二枚看板である僕等は、常に仲間達に囲まれ、楽しい学生生活を過ごしている。…………いや、過ごして、いた。



 あいつが転校してくるまでは。



 その日もまた、僕等は平穏に過ごしていた。しかし歩み寄る崩壊の魔の手。危険を察知したらしい賢一が、僕の方へと歩いてくる。がっしと俺の手を両手で握りしめ、真剣な顔をして口を開いた。


「…………シン、逃げるぞ。」

「ケン、まさかあいつ、また来たのか…………?」

「逃げるんだ、兄者よ。俺達の心の平穏、ひいては身の安全の為に、今はあえて逃亡の汚名を甘受しようではないか!」

「お前、昨日見た時代劇の影響受けすぎ……。」


 妙に芝居がかった仕草で言う賢一の、自分とそっくりな顔を見る。サッカー部で陽に灼けた、そのくせあんまり威圧を与える事のない甘い顔立ち。多分、中性的な顔立ちをしている父親の遺伝だろう。髪の色は栗色で、瞳も色素が薄いのが特徴。別にどこぞの外国人の血など入っていないのだが、生まれつきこれだ。

 だがしかし、逃げるという案には賛成だ。逃げる。それはあまりにも情け無い事かも知れない。だがしかし、僕達は逃げなくてはいけないのだ。今このまま教室に留まっていれば、僕達は多大なる被害を受ける事になる。

 けれど、遅かった。サッカーでは無敵の反射神経を誇る僕達も、どうやらこの件に関してだけは、無理らしい。すぱーんという小気味よい音を立てて、教室の引き戸が開けられた。どうでも良いが、何で学校の扉って引き戸なんだろう。無駄にうるさい音がするのは、止めた方がいいと思う。


「コンチハ羽柴ブラザーズーーっ!!元気かーーっ?!」

「でやがったな諸悪の権化!立ち去れ悪霊!!」

「…………ケン、ちょっとだけ、言い過ぎ……。」

「喧しい、シン!こいつがいるから俺達の平穏は消え去るんだぞ!」


 にかっと笑って姿を現したのは、セーラー服姿の美少女。ちなみに、物凄く美少女だ。それこそ、アイドルになっていてもおかしくはないような、そんな美少女。長い艶やかな黒髪に、二重まぶたの漆黒の瞳。華奢な人形のような肢体の少女が、僕達の目の前にいた。

 この少女こそが、諸悪の権化。僕達2人の平穏な日常を脅かす、只一人だけの天敵。幼稚園時代の幼馴染みで、遠くに引っ越したはずの白川姫しらかわひめだ。親のセンスを疑う名前だが、悔しいが姫は美少女で、名に恥じていない。だがしかし、その性格は、決して『姫』ではない。


「姫、何しに来たんだ……?」

「そっちは慎一だな。毎度お馴染み、2人の写真を撮りに来たv」

「くるんじゃねぇ、このボケぇっ!!」

「前から思ってたんだけど、何で同じ顔なのに口調違うわけ?」

『突っ込むべきはそこじゃない。』


 思わずハモって反論した僕達を見て、ニコニコと姫は笑った。口調が違うのは、見分けをしてもらう為の苦肉の策だ。伊達眼鏡をかけてもみたけれど、それだとサッカーの時に邪魔になる。仕方ないから、僕は丁寧口調、賢一は少々粗雑な物言い。昔はどっちも普通の口調だったんだけど、今は仕方ないと思う。

 しっかりとカメラを構えた姫を見て、僕達は思わず身構えた。姫は、こっちに戻ってきてから、新聞部に所属している。どうやら校内のアイドル扱いされているらしい僕達の、2人揃っての写真を撮るのが彼女の仕事らしい。お陰で、休み時間になる度に追いかけ回され、僕等は微妙にカメラ恐怖症だ。


『…………ッ、運動部全員集合!!!!!』

『了解!』

「ちょ、止めなさいよ人間の壁!!」


 そして姫対策に、僕等は全運動部の同級生達に、協力を願い出た。ずらりと揃った運動部の友人達は、まさに生きた壁。僕と賢一を隠して余りあるその壁を相手に、姫が叫んでいる。何故彼等がそれを受け入れいているか。それは簡単だ。

 彼等は皆、姫のファンなのだ。僕達2人の回りをうろちょろしていれば、必ず姫に接触できる。その後の事は勝手にしてくれればいいと、僕等は宣言した。その為に、彼等は協力してくれている。姫の外見も、この時ばかりは役に立つ。


「……逃げるぞ、賢一。」

「了解、慎一。」


 人間の壁を姫にぶつけておいて、僕達は走り出した。姫に見つからないように教室を出て、叫ぶ女子生徒達を右へ左へ除けながら、サッカー部の部室へ駆け込む。唯一の聖域である場所で僕達は、お互い顔を見合わせた。


「…………姫の奴、今度こそ、しめる……。」

「やめておいた方がいいよ、賢一。そんな事したら、そのシーンを撮られる。」

「………………。」


 遠い目をした賢一を見て、僕は溜め息をついた。目立つ自分達も、傍迷惑な姫も。心の底から嫌いなわけではないけれど、やっぱり、疲れると呟きたくなるような、そんな日常なのだ…………。


FIN

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