002
その晩、トルトは妙な気配を感じて目が覚めた。抑えきれていない殺意を出しながら、潜めている何者かの気配。この村の住民のものではなく、穏やかではなさそうだ。
トルトは枕元に置いておいた剣を掴むと、一時的に寝泊りすることになっていた粗末な家屋の入口脇へ体を滑り込ませた。そこから顔をのぞかせ、周囲の様子を窺ってみる。相手に悟られないよう、慎重にだ。
いた。民家の脇に積まれた木箱の陰に隠れ、しきりに周囲を気にしている男がひとり。闇夜に紛れる暗い衣に身を包んでいる。盗賊だろう。盗賊は誰もいないと判断したのか、民家の窓に目を向けていた。そこから侵入しようとしているのか。
やらせない。サッと駆け出したトルトは、窓枠に手をかけていた盗賊を後ろからつかみ、締め上げた。
「カ……ァ……」
初めは抵抗しようともがいていた盗賊だったが、次第に力を失っていった。抵抗しなくなったのをみて、トルトは拘束をといた。盗賊の体が、ドサリと地に倒れる。まだ、殺意を放っているものはいた。
「盗賊だー! 盗賊が出たぞーっ!」
トルトが次の相手を探そうとしたとき、村の反対側から叫び声が聞こえてきた。
「殺せェーッ! 徹底的に殺してやれェーッ! ヒャヒャヒャ!」
トルトの周囲から、反応するようにいくつかの声があがった。まだこちらに隠れていたとは。まずは手近な相手からだ。
声を頼りに、盗賊達を探し出す。恐らく、このあたりには2,3人だろう。村への侵入が露見したことを悟った彼らは、もう隠れる気はないらしく、その欲望を全身から溢れ出させていたので、見つけるのは容易だった。
通りを駆け抜けていく盗賊がいた。トルトは剣を抜き放ち、目の前に躍り出た。右肩を狙って剣を振ったが、防がれた。つばぜり合いとなり、お互いに様子をうかがった。盗賊の剣には、血がこびりついていた。
こいつ、すでに村人を殺していたのか。そう思うとトルトはカッと体が熱くなった。相手の剣を、力任せに押しやる。足で腹を蹴り飛ばしてやると、盗賊はあっと叫んで尻餅をついた。
剣で盗賊の首を斬り飛ばそうとし、そこまできてトルトは我に返った。ここで盗賊の首を斬ってしまえば、同じ人殺しである。怒りに任せてただ殺すというのでは、なんとも情けない、とトルトは思い直した。空いている左手で盗賊の頭を鷲掴みにし、地面にしたたかに叩きつけてやるまでにとどめた。
トルトは、他にも2人いた盗賊をあの手この手で気絶させると、先ほど村人の声が上がった方へと急いだ。途中、何度か村人とすれ違った。
トルトは走った先で、逃げ惑う村人達を背に、ひとりの青年が、盗賊の集団と戦っている姿を目にした。トルトに快く一軒の家屋を貸してくれた村人だ。腕は立つとは言っていたが、複数人を相手にして一歩も引いていないところを見ると、実際にそこそこやれるのだろう。
青年は、斬りかかってきたひとりの短剣を弾き飛ばした。反対側から迫っていたひとりに、容赦なく袈裟斬りを浴びせ、剣を取り落とさせる。後ろから踊りかかってきた者の首を掴み、そのまま振り回して盾にした。顔色一つ変えていない。肝が据わっている、それに、一対多の戦い方を心得ているようだ。
トルトが助太刀する間もなく、青年は群がってきていた数人を追いやった。
「おーい、大丈夫か?」
ひとまずは安全だろう、と思ったトルトは、そこで声をかけた。どういう状況なのか確認したい、と思ったのもある。
「おぉ、大丈夫――」
しかし、トルトの声を聞き振り返った青年の背後に、一つの影がゆらり、と動いた。
「待て、後ろっ!!」
まずい。咄嗟にトルトは叫んだ。トルトの一声によって、青年は背後から迫る凶刃に辛うじて反応し、剣を合わせて防ぐことができはした。そのままつばぜり合いの格好となったが、トルトには明らかに力量の差が見てとれた。
「くそっ!」
叫んで、トルトは剣を抜き、駆け出した。彼自身としては相当早く反応したつもりだった。
しかし、トルトの目の前で、青年を襲った何者かは、青年の剣をあっさりと弾き、返す刃で青年を斬りつけようとした。青年はこれによく反応し、再び剣を振るったが、今度は弾き飛ばされてしまい、何者かの剣の軌道を急所からわずかに逸らすことができただけだった。
「うぐぅっ!」
青年は右肩に浅く傷を負い、うめき声をあげてうずくまってしまう。それを見て、そいつは手にしていた剣を両手で高く掲げ、一気に振り下ろそうとしていた。気配が、残虐なものへと変わった。あのままでは青年が死んでしまう。間に合え。トルトは全力で駆けた。
「やらせるかよぉっ!」
二人の間に滑り込みながら、トルトは剣を横に構えた。直後、金属同士がぶつかり合う甲高い音が響いた。間一髪、トルトは攻撃を受け止めていた。
青年に襲いかかっていた人間は、外套で頭を覆っており、影になって顔が見えなかった。体格もはっきりとはわからないが、おそらく男か。力をこめた一振りをトルトに防がれたのを見た男が、舌打ちする気配があった。
「んの野郎っ!」
激昂し、トルトは押さえつけられていた剣を力で無理矢理押し上げ、すぐさま力任せに剣を振り下ろした。しかし、トルトの渾身の一撃はかわされた。男は剣が弾かれた勢いを利用して、後ろに飛び退っていたのだ。お互いの間に距離があき、剣を構えての睨み合いとなった。
「……邪魔が入ったか」
男は忌々しげに吐き捨てた。そして、体勢を変えずにじわじわと後ずさる。
「奪えるものは奪った、撤収だ!」
それから残っていた盗賊達に呼びかけると、即座に踵を返して駆け去っていった。
「待てっ!」
トルトは追いかけようとしたが、盗賊団は既に闇の中だった。追跡は困難だろう。
「……あんた、大丈夫か?」
悔しさを押し殺し、トルトは振り返って青年に声をかけた。青年は顔をしかめつつ、「なんとか……」と答えた。
「利き腕がしばらく使えなくなりそうなのは不便だけど、死ななかっただけマシかな。おかげで助かったよ」
そう言って、青年は力なく笑った。
「すまねぇ、俺がもっと早く駆けつけてればそんなことには」
「よしてよ」
詫びようとしたトルトを、青年がさえぎった。
「元々、僕だけでなんとかしようと思ってたんだ。旅人さんには迷惑かけてらんないからさ。結局、助けてもらうことになっちゃったけど」
「あぁ、いや……」
青年のなんでもないというような姿に、トルトは口ごもった。トルトの力を借りずに済ませようとしたのは、本当だろう。盗賊団を相手にひとりで圧倒する程度には実力があったようだし、トルトの方へ助力を乞いに行くこともできたはずなのに、青年はそれをせず、恐らく襲撃に気づいたときからあそこで立ち回っていたと思われる。
それでも、とトルトは思った。最後にやりあったあの男は、相応の使い手のようだった。青年が本調子で最初から構えていたとしても、どうなっていたかは分からない。トルト自身がもっと早く加勢できていれば、と思わずにはいられなかった。が、それを告げても青年は困ったような顔をするだけだろう。トルトは結局、黙って剣を鞘に収めた。
トルトは非道が嫌いだった。特に、無意味な殺生が大嫌いなのだ。あの盗賊達は、明らかに殺しを楽しんでいるようだった。そんな奴ら、到底許すわけにはいかない。
「……無闇に殺しを働いたらどうなるか、力ずくで分からせてやる」
トルトは、盗賊団が去っていった闇夜を睨みつけ、人知れず誓った。
「――ルト? トルト? 聞こえていないのですか?」
ウィスの呼びかけが聞こえ、トルトはハッと我に返った。
「どうしたのです? やはり体調が優れませんか?」
心配そうにしているウィスを見て、トルトは申し訳なくなった。
「いや、そういうんじゃねぇ。大丈夫だ」
「なら、いいのですが」
頭をわしゃわしゃと掻きながら言うと、ウィスはなお心配だという顔をしつつも、ひとまずは引き下がってくれた。
冷静に考えてみると、3日前に盗賊団を深追いしすぎたのは、あのときのことがあったからだろう。馬鹿なことをしたものだ。
「あぁ、そうだ。ウィスよ、俺の持ち物はどうなってる?」
トルトは、自分が行き倒れていたことを思い出した。そのとき持っていた、剣や貨幣は。着ていた外套は。確認しておかないと、今度こそ旅が続けられなくなる。
「それでしたら」
ウィスはそう言うと、立ち上がって箪笥の前まで行き、引き出しを開けてみせてくれた。トルトが腰に巻いて常備していた貨幣袋と、丁寧に畳まれた外套がしまわれていた。特に貨幣袋は、重要だった。
「それと、剣はこちらに立てかけてあります」
言いながら、ウィスは箪笥の向こうから剣を持ち上げてみせてくれた。トルトの方からだと死角になっていたが、そこにあったのか。これで、ひとまず安心か。
「すまんな、助かった」
「いえいえ」
トルトが礼を述べると、ウィスはにこりと微笑んだ。
「しっかし、これからどうすっかね……とりあえず、なんか、がっつり食いたいな」
お金はある。大事なものもまだある。町には辿り着けた。そういう安心感を改めて認識したところで、トルトはお腹がすいてきた。
「いやいや、いきなりしっかりしたものを食べたら、胃がびっくりしてしまいますよ」
ウィスは、慌てた様子で言った。そう言われてもなぁ、とトルトは思った。せっかく町に着いたのだ、好きなものを食べたっていいじゃないか。トルトは、考えを変えるつもりはなかった。
「粥一口で大分復活したんだ、もう肉くらい食えるかもしれねぇだろ? 今の時間はどんくらいだ」
トルトがそう言うと、ウィスは諦めたようにため息をつきながら、「ちょうど日が暮れたところです」と教えてくれた。
「ってことは、夕食時か。いいね、この宿の食事は?」
「下の一階に、食堂がありますよ」
食堂。トルトは、目を輝かせた。久しぶりにまともな肉にありつけると考えると、気分が高揚してくる。
「……仕方ありませんね。まずは食事といきましょうか」
「そうこなくっちゃな」
立ち上がり、当たり前のようにいそいそと準備を始めたトルトを見てか、ウィスはまたため息をついていた。
食堂は、町の規模相応、と言えた。円形の机が数個に、それぞれ椅子が2つずつ用意されており、それらのかたまり同士の間隔は多少のゆとりがある。予備の椅子もいくつかあって、部屋の隅に置かれている。奥にはカウンターがあり、宿泊目当ての者はそこで手続きをすることになっていた。端には階段があり、個室のある2階へはそこから上がることができる。一般的な宿屋の構造だ。こういう構造ゆえ、宿屋の食堂は宿泊客以外にも開放されるのが普通で、このコウ町のように旅行で訪れる者が少ない環境では、もっぱら飲食店として町の人に親しまれているのであった。
食堂にいる客は、数人だった。宿に泊まっている旅の商人、仕事を終えた町の若者たち、そしてトルトとウィスである。どの席も和やかな雰囲気で食事を楽しんでいるようだった。
「うめぇ……」
トルトは肉を口いっぱいに頬張り、幸せで満たされていた。元々人よりは大食いであり、肉が好きであったが、しばらく食事をとれていなかったという環境は、トルトを肉の虜にさせた。久方ぶりのまともな食事を噛み締めるように、トルトはしみじみといった風につぶやいていた。
「……がっつりしたものとは言っていましたが、本当に肉を選ぶとは」
その様子を、ウィスはあきれた様子で眺めていた。彼はというと、野菜を主にして煮込んだスープをちびちびと飲みつつ、パンを小さく千切って食べていた。
「最高だぜ……おーい、もう一皿くれー!」
小切れにされた焼肉をぺろりとたいらげたトルトは、追加を所望した。行き倒れという事情を知っていた宿の主人が、気を使って小さいものを出してくれたのだが、トルトはそんなものでは満足しきれるはずもなかった。
「いやぁ、まさか食事でこんなに感動できる日が来るとはなぁ……おほっ、これもうまそうじゃねぇか!」
新しく運ばれてきた料理を見て、トルトはつばをごくりと飲み込んだ。よだれがでそうだ。
「やれやれ……体の調子はどうなのですか?」
「んぁ? 別に、どこもおかしくないぜ」
けろりと答えたトルトを見たウィスは、そんな馬鹿な、とこめかみを手で押さえた。
「これも竜伝説と関わりが……いや、それは流石に……」
「なにぶつぶつ言ってんだよ」
食事もそっちのけでひとりごとを言い始めたウィスに、今度はトルトが怪訝そうな表情をした。
「いえ、なんでも」
ウィスはそう答えてから、今は考えても仕方ないか、とつぶやき、食事に戻った。
「そういや、ウィスは学者って言ってたよな。ここの出身なのか?」
それには触れず、トルトは話題を変えた。
「まさか。クノウレですよ」
「えっ」
トルトは驚きで目を見開いた。クノウレと言えば、遠方にある有力な都市だ。神殿以外の施設として図書館が存在し、学者たちが代々積み上げた知識を、本として管理している。知識の森と称されるようなところだ。学者を名乗るウィスがクノウレ出身なこと自体は納得がいくが、トルトが驚いたのは別のことだった。
「あんた、旅の仲間は?」
「いませんよ。ひとりでここまで来ました」
「……学者なのに?」
いくら街道が存在するといえど、クノウレからコウ町まで続いているそれは、人の目のつかないところが多い。利用者が少なく、廃れていると言ってもいいような道だ。盗賊もいるし、危険な野生動物も生息していた。護衛なしでは通れないような、危険なところである。それを、荒事が苦手そうな学者が、たったひとりで通ったというのか。トルトが驚いたのは、そういう理由だ。
「ふっ、見くびらないでもらいたい。こうみえて、肉体労働は得意なのです」
ウィスは、自信満々に言って、腰に佩いた剣を軽く叩いてみせた。曰く、ひとりという身軽さを利用して野宿は隠れやすい場所を選び、襲われたら無理のない範囲で追い払う。そういうことをして、ここまで来たのだと言う。
「先ほども言いましたが、私は竜伝説に興味がある。それで、現地に赴いてさらなる資料を見るべく、ディヴィンまで向かおうと思っているのです」
「それでクノウレからこんなところまで」
「えぇ。孤独な旅でした。なにしろ私は世の人からすれば変わり者らしく、私の知的好奇心を満たすことに協力しようという人はいなかったのですよ。同志はおろか、護衛すら雇えませんでした。ひとりで旅する力がなければ詰んでいましたね」
さもつらそうにウィスは語っていたが、トルトは話半分で聞いていた。いかにも周囲が悪いという言い方だが、トルトとしてもウィスが調べようとしていることには興味がないのだ。そんなことを調べてなんになる。竜が使役できるのならそれでいいが、所詮空想の話、利になることはないだろう、というのがトルトの心境だった。
大体、金も積まずに護衛を雇おうなど、今のご時勢としてはケチすぎる考え方である。一人旅になって当然だ。
しかし、この自称学者がトルトの命の恩人であることは確かだ。命の恩人が困っているのであれば、その手助けくらいはしたい、と思うのがトルトという男である。
「なぁ、ウィスよ。提案があるんだが」
「はい?」
ウィスの話が一区切りついたところを見計らって、トルトは切り出した。
「あんたはディヴィンを目指してるんだろ? 俺も、この近くで最後の試練を終えたら、あとはディヴィンにまっすぐ帰る予定なんだ。どうだ、せっかくだし一緒にディヴィンまで旅をしようじゃねぇか」
それを聞いたウィスは、キョトンとしていた。急になにを、と言いたげな顔である。
「その最後の試練に付き合うのが手間ですし、私ひとりでも問題なくディヴィンまでいけるので、申し訳ありませんが――」
「無事ディヴィンまで着いたら、ディノス家に紹介してやる。立場はそこまで強くないが、平等を重んじる人だから悪いようにはならんさ」
「さぁ、試練とやらを教えなさい。私も手伝うのにやぶさかではありません」
丁重に断ろうとしていたウィスだったが、トルトの追加の提案を聞き、瞬く間にてのひらを返した。
(チョロすぎだろ……)
トルトは、思わず内心でそうつぶやいた。とはいえ、元々恩返しのために、親しい間柄となっているディノス家に紹介はするつもりだった。それで、ウィスのディヴィンでの調査活動は多少円滑に進むはずだ。ウィスのとびつき様を見るに、恐らくディヴィンでも孤立無援で、それでも調査を始めるつもりだったに違いない。
「そうと決まれば、ウィスのためにも早いとこ試練を済ませちまわないとな。っても、試練のほうは手伝ってもらうつもりはないぜ」
「おや、どうしてですか」
すっかり乗り気だったらしいウィスは、首をかしげた。
「さっきあんた自身が言ってたろ、手間だって。それに、その最後の試練ってのは力を試す危険なやつだ。部外者を巻き込むのは気が引ける」
それに、とトルトは口には出さずに考えた。ウィスは一人旅をしてきたと言うが、その実力がどれほどのものか、トルトにはまだ判断できない。うっかり連れて行って死なせてしまうのは、トルトとしても避けたいことだった。
「やれやれ、まだなめられているようですね。私としても、加護継承試練には興味がある。どういうことをするのか知りたいですし、実際に目にしたい。そういう下心があるだけですよ。なに、私の手に負えないとわかればここでおとなしくしてますから」
「……自分で判断してくれるってなら、まぁいいか」
トルトは考え直した。加護継承試練は、基本的にどの神殿でも共通のもので、竜伝説の手がかりとなるとはあまり思えなかった。が、そういうところにも、大事な情報はないかと目を光らせるというのがウィスのやりたいことらしい。これも恩人への手助けの一環だ、とトルトは思ったのだ。
「ここから歩いて2日のところに、ダンゲロ山ってとこがある。荒れ果て、獰猛な生物の住処と化している危険な山だ。そこを登りきって、山頂に住む担当官から証をもらうってのが最後の試練さ」
「なるほど、ダンゲロ山ですか……」
ウィスは食事の手をとめ、考え込みはじめた。危険と照らし合わせ、着いていく価値があるかどうか判断しようとしているのだろう。
「いいでしょう。それくらいなら、私も同行しますよ」
顔をあげたウィスは、はっきりとそう告げた。てっきり町に居残る方を選ぶと思っていたトルトは仰天した。
「はぁ!? あんた、あそこの危険がどんなもんかわかって――」
言いかけてから、トルトは思い直した。ここでとめては、ウィスの意思をないがしろにし、彼を見くびっていると言っているようなものだ。本人が大丈夫だと言っているのだから、それを信じるべきだろう。
「……いや、そう言ってくれるとは思わなかったが、力を貸してくれるってんならありがたい。感謝するぜ」
「いえいえ。では出発の日程を決めましょうか。明後日の朝はどうです」
「明日は盗られた分の旅道具の調達にあてたかったからな。それでいいと思うぜ」
トルトは、食事を始めたときとは違う意味で満たされていた。ウィスの実力がどんなものか楽しみだし、これで恩返しもできる。試練に関しては、トルトのもっとも得意な分野なので、失敗の恐れはない。心配事はなかった。