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子供嫌いの無意識矯正  作者: 襟端俊一
第二話 恋という名の処方箋
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 俺は今、リビングで緑茶を飲んでいる。

 何故こうなったのか、順を追って説明するとだ。


 玄関のドアに貼られた張り紙を見た俺は、まず宿を探す羽目になった。

 でも俺が厄介になることは事前に伝わっていた筈だし、こんな住宅街に宿泊施設なんてあるわけがない。だから、どうにか侵入できないかと考えたんだ。

 そこで今一度張り紙をよく見てみると、米粒くらいの小さな文字で『鍵は石垣の何処かにあります』と書かれているのを発見した。

 流石に冷や汗を掻いたよ。この家、石垣に囲まれてるからな。

 そんなわけで探してる間に夜になってしまったんだ。


 何とか家に入ることができた俺は、一通り散策してからリビングで一息吐いた。

 屋内は随分と掃除が行き届いていた。

 どうも家主がいなくなったのはごく最近らしい。

 冷蔵庫の中も食材がたんまりと入っていて、如何にもお客さんを迎える直前という感じだった。

 家の中が荒らされた形跡はなかったが、不安を感じた俺は最終手段として母さんに連絡した。

 本当は極力頼りたくなかったけど、今回は例外だ。

 電話した結果、親戚のお姉さんがどういう女性なのか発覚した。

 何かあるとすぐに自分探しの旅に出てしまう、超が付くほどのネガティブ思考の持ち主で、今回も本当にただ旅立ってしまっただけなんだとさ。

 忘れた頃に帰ってくるから安心して、とのこと。

 他に家族がいないことも分かったので、俺は開き直って一人暮らしを満喫する! と決意を固めた。

 んで、早速高級そうな茶葉を使って緑茶で一服していたのだ。


「くつろいでる場合じゃないんだけどな……」


 お金は適度に口座から下ろせば問題ない。

 食材も豊富に用意されていたので、工夫を凝らせば夏休み中は保つ。

 電気もガスも水道も無事。

 洗濯はしたことないけど、携帯で調べれば何とかなるだろう。

 ネット環境も整っていたし、後から届く予定のパソコンも使える。

 目下一番解決すべき問題は、転寝汀子という名の小学生に関してだ。

 あの子が持っている、俺の恥ずかしい台詞の録音データを何としてでも消去しなければならない。

 手っ取り早い方法をとるなら、スマホ自体を破壊してしまえば良い。

 さっきは子供の脅迫に屈してしまったけど、悪いのはあの子達なんだから。

 強引に奪い取って、「どうだ参ったか! これに懲りたら、二度と脅迫まがいの悪戯なんてするんじゃねーぞ!」と言い放つ。


 ……大人げねぇー……。


 都合の良い台詞なんかじゃなく、本当の意味で大人げないぞこれは。

 強攻策をとらないなら、気付かれないようにスマホを拝借して、データだけ消して返す方法もある。

 けどこれにはもう一人か二人、協力者が必要だ。

 明日も来るであろう遊音が適任だが、果たして協力してくれるだろうか。

 彼女は中立の立場を重んじていた。

 例え悪いことだと分かっていても、友達を裏切るような真似はしないかもしれない。


「くそ……くそくそくそ!!」


 何なんだよ。何で小学生の言いなりになってんだよ。

 俺、高校生だぞ?

 それが何で弱み握られてビクビクしないといけないんだ?


「くそったれが! ガキにスマホなんぞ持たせてんじゃねーよ!! これだから子供を溺愛する馬鹿親は! モンスターなペアレントめ!」


 いくら悪態を吐いても反応はなく、ただただ空しさだけが募る。

 分かってるんだ。

 ただ溺愛してるからってだけじゃなく、子供の安全のために持たせてるってことは。

 防犯ブザーだってその延長上の産物だ。

 それが当たり前になったのも、子供を狙った大人――クズ犯罪者のせいだって、ちゃんと分かってるよ。

 だけど。

 そういった道具を悪質な悪戯に使う子供もいるってこと……大人は分かってるのか?

 守る守るって言って、視野が狭くなってないか?


「はあ……」


 頭の中が一年前と同じ暗闇に覆われていく。

 全く……誰に対して文句言ってるんだ俺は。

 今回の件は、自分の身の安全を最優先にするあまり、身近な危険に気付けなかった俺の不注意が原因じゃないか。

 いつもの俺なら絶対に気付けていた。

 あんなあからさまな台詞を聞かされた時点で、怪しんでいた。

 それでも分からなかったのは、決心が鈍っていたからだ。

 もう一度信じてみようなんて、何をトチ狂っていたんだ。

 改めて子供への怨みを増幅させた俺は、夕飯も取らずに明日の対策を練りながらリビングのソファーで就寝したのだった。


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