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子供嫌いの無意識矯正  作者: 襟端俊一
第一話 子供がやるとただの悪戯になる不条理
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「悪の味方、参上!」


 開口一番にそう宣言して、バッババッと何やらポーズを決める彼女。

 その度に結った髪があっちに行ったりこっちに行ったりしてめまぐるしい。


「ふっふっふ! 待たせたな少年!」

「別に待ってないし、小学生に少年とか言われるのは違和感満載だし、そもそもどうやってここの鍵を?」

「はっはっは! そんなの悪の力を持ってすれば簡単に」

「私が開けたのよ」


 ふんぞり返って役になりきっていた女の子を、女性警察官が冷静に窘めた。

 ああ……この子めっちゃ不機嫌になったぞ。

 ノリノリで何かしてるところに水を差されると興が冷めるもんな。


「良かったね虎間君。もう帰って良いよ」

「……へ? も、もしかして君が誤解を解いてくれたの?」

「え? 違う違う。私は悪の味方だもん」

「悪の……。つまり、俺が犯罪者だから助けに来たってこと?」

「ニヤリ」

「あ、阿保かお前!」


 駄目だこいつ! このままじゃいつか大変な事件に巻き込まれる!!

 悪に憧れるのは分からんでもないけど、実際の犯罪者に近付こうとするのは危険すぎる。

 ……俺は犯罪者じゃないし危険でもないぞ。


「ロリコンさんご案内~」

「お前は今すぐに正義の心を知ってくれ! って何で俺の無実が証明されたんですか? この子はむしろ煽ってるような」

「そうなんだけどね。君に会わせてって聞かないから、神社で見たこと教えて? って聞いたらそのときの状況を事細かに覚えてて」

「それだとこの子の行動、支離滅裂なんですが」

「そこはほら、やっぱり子供だし」


 女性警察官は苦笑しながら俺の携帯を返してくれた。

 要するに、この悪の味方を公言する小学生にとって、実際に犯罪をしたかどうかは二の次だったのだろう。

 大勢の前で防犯ブザーを鳴らされて、大人に抑え付けられて、交番に連れて行かれて……それだけで魅力的に映った。

 てっきり何処かに行ったのかと思ってたけど、まさか一部始終を見ていたとはね。

 何にせよ、俺はこの子のお陰で救われた。

 素直に認めなければ。


「ありがとう。俺の無実を証明してくれて」

「どういたしまして! って……私、悪の味方だよね?」

「今のところは、俺の無実を証明してくれた正義の味方だな」

「そ、そんなー!?」


 自称悪の味方はショックのあまりその場に崩れ落ちた。

 わざとらしくピクピクと体を痙攣させて、「む、無念……」とか呟いている。


「あ、そうだ。良かったらこの子、送ってあげてくれないかな」

「……実は俺、今日この町に来たばかりで。土地勘全く無いし、自分が住む家も探し中なので送りようがないです」

 というか小学生と行動を共にしたくないです。


「えぇ!? そ、そうだったんだ……成る程ね」

「だから、できればどの辺かだけでも教えてもらいたいんです。この……写真の裏に住所が書いてあるんですけど」

「ふむふむ……ああ、この辺は特に入り組んでるから仕方ないかも。ちょっと待ってて、簡単な地図書いてあげるから」

「助かります」


 女性警察官は手際よく紙とペンを用意すると、唸りながら事務机に向かって地図を書き始めてくれた。

 それを見てホッと安堵の息を漏らす俺。

 大人にもみくちゃにされながら連行された俺は、この交番が何処にあるのかも分からない。

 親切な人で助かった。

 地図が完成するのを待っていたら、床で死んだ振りをしていた自称悪の味方が、ビーチフラッグのスタートのような勢いで立ち上がった。


「ど、どうした」

「これが私の――本当の姿、だああああああ!!」

「別に何も変わってないじゃん」

「いいの! 大切なのは心の持ちようだよ!」

「な、成る程」


 見たところ、やはり小学校高学年くらいだ。

 アニメにしろ漫画にしろ特撮ものにしろ、この年でキャラになりきることに抵抗ないのかな。

 俺もアニメキャラの必殺技を大声で叫んでいた時代があったっけ。

 修行とか言ってアスレチックを延々やったりね。

 俺は低学年くらいで卒業したけど。


「うーん……あの辺は確かー……むぅ~」


 ふと女性警察官の様子を窺うと、必死に記憶を絞り出そうとしていた。

 この交番、地図置いてないのかな。

 この調子だとまだまだ時間が掛かりそうだ。

 丁度良い機会だし、気になっていたことを聞いてみるか。

 小学生と面と向かって話すなんて今日が最後だ。


「あのさ。君、あの子の友達だよな? 防犯ブザー鳴らした」

「悪に友達なんていないよ!」

「……組織の仲間だよな?」

 幼稚園児にする気遣いじゃないか? これ。


「うん。てー子は私の仲間だよ」

「その、てー子? って子と仲間なら、こうやって悪戯だったことをバラしたらまずいんじゃないか? 嫌われたりとか、怒られたりとかさ」


 子供は残酷だ。

 普段遊んでいる友達でも、ちょっとしたことで簡単に仲間はずれにしたりいじめたりする。

 そういう場合、いじめっ子は必ず仲間を作る。

 味方を作って自分を数的有利な状況におく。

 あのツインテールの女の子ならやりかねない。

 今の俺の状況を省みれば、この自称悪の味方にも矛先が向かう可能性はある。

 別に心配してるわけじゃないぞ。

 単純に、俺を助けたせいでこの子がいじめられたりしたら気分が悪い。

 それだけだ。


「平気だよ? だって、てー子に頼まれたんだもん。有望な悪の新人を助けてあげてって」

「お前良いように使われてるなー……それで悪を助ける云々に繫がる訳か。……待てよ。なら本人は自覚してるってこと? 反省してた?」

「分かんない! 助けた後に連れてきて、とも言われてるけどね!」

「……ふーん」


 謝ってくれるのかな。

 最初に相談するのが友達ってとこが少し不安だ。

 小学生の引率で小学生に会いに行くというのも、とてつもない危険を孕んでいるし。

 どうしたものかと思案していると、地図を書くのに悪戦苦闘していた女性警察官が勢いよく席を立った。


「よーしできた! はい、これ」

「お疲れ様です。……、」


 渡された紙には、赤ちゃんがクレヨンで落書きしたような芸術が描かれていた。

 えーっと。

 こういうの、時間の無駄って言うんだよな。


「か、活用させて頂きます」

「うんうん。それで、その子のこと頼める?」

「そう……ですね。じゃあ、地図を書いてもらったお礼ということで」


 この地図で辿り着けるとは思えないし、もしものときはこの自称悪の味方に道案内を頼もう。

 悪の組織に絡めれば大抵のことはしてくれそうだ。

 それはそれでまずい気がするけど、間違った思想を矯正するのは友達や親の仕事だろう。

 俺はそれとなく、付いてくるよう自称悪の味方に手で合図して部屋を出た。

 交番を出ると、見送りに来た女性警察官から見当違いの名言をいただいた。


「二度と来るなよ?」

「……それは刑務所から出て来たときの台詞です」


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