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子供嫌いの無意識矯正  作者: 襟端俊一
第五話 子供相手、だからこそ
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10

 ケイスケ君の演説を皮切りに、ジリジリと男子一同が俺との距離を縮め始めた。性格に難はあれど、リーダーとしての才能は確かにあるようだ。


「はは……マジかよ」

「あなたが思っている以上に、みんな追い詰められてるんですよ」

「その原因を作った君が言うな!!」


 まずい。

 まずいまずいまずい。

 小学校高学年ともなると、発育の都合上、色んな体格の子供がいる。

 大人の平均身長を超えている子だっているんだ。

 俺よりでかい奴も一人……くそ、健やかに育ちすぎだろ。

 そんな子供達十数人を、一切手を出さずに圧倒するなんて無理!

 それどころか、勝ち目があるかどうかすら怪しい。


「……、」


 囲まれているとはいえ、逃げることならできる。

 けどそれは俺のプライドが許さない。

 それ以前に、ここで逃げるのは前言撤回も甚だしい選択だ。

 どうする。

 どうすればいい。


「うおおおおおおおおおお!!」

「!」


 誰かが飛びかかるように俺の胸元に突っ込んでくる。

 咄嗟に俺はケイスケ君の右手を離して躱したが、彼の行動が引き金となって男子全員が一斉にこちらに向かってきた。

 一人一人がパンチやキックを的確に放ってくる。

 俺はドッジボールで一人だけ残ってしまったときのように不格好に避けることしかできず、どうしても何発か食らってしまう。


「いって――この野郎!!」

「ひっ!!」


 つい苛立って振り払うように反撃してしまった。

 危なかった。

 もう少しで思いっきり肘が当たってたぞ。


「良いぞ! もう少しだ!!」


 ケイスケ君はいつの間にか安全地帯に避難して、応援する側に回っている。

 それでいて上手く殴られろ、と言っているのだ。

 彼等の目を覚まさせるには、一度意識を逸らさないと。


「子供は子供同士……遊んでみるか」


 この殴り合い、いつまでもこのままでいたらその内俺が手を出してしまう。

 そうならないために、この騒動を遊びに変える。

 男のプライドをへし折ることができ、確実に俺が勝てるもの。

 それは。


「食らえ!」

「!」


 また一人男子が俺に殴りかかってくる。

 かなり小柄な子だ。

 俺はその拳を躱しつつ――



 彼のズボンを、パンツごとずり下げた。



「え――」

「あはははは! 可愛いなオイ! 流石小学生だな!」


 笑ってやった。

 思いっきり見下してやった。

 その男の子は、顔を真っ赤にして必死にズボンを履こうとするが、恥ずかしさのあまり上手くいかず、立てないでいる。

 続けざまに向かってくる男の子達も、同じ要領でずり下ろす。

 ずり下ろしまくる。

 大抵は可愛いゾウさんだ。

 中にはジャングルの中を悠々と歩くマンモスもいて度肝を抜かれた。


「なにぃ!? き、貴様小学生の癖に……っ」


 俺が小学生の発育に驚愕していると、またしても一人の男の子が俺めがけて突進してきた。

 しかし、今度の目的は俺への暴力じゃない。


「お返しだ!」

「甘い!」

 ヒラリと躱す。


「くっそ惜しい! おい、みんな! 絶対に脱がしてやろうぜ!!」

「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」

「な、なな……」


 遠くで見ているケイスケ君の表情が崩れ始めた。

 よく見ろケイスケ君。

 これが子供本来の姿だ。

 人を傷付けたり悲しませたりして自分の欲求を満たすのは、子供のすることじゃないんだよ。

 好きな人を苛めるにしても、子供のやり方ってのがある。

 余計なことを考えず、馬鹿な遊びに一生懸命になれる。

 ミラクルが実践していたじゃないか。

 これこそが子供だ!


「隙アリ!!」


 俺がケイスケ君に気を取られている間、数人の男の子に回り込まれ、ついに俺の下半身は剥き出しにされてしまった。

 だが。


「な、なにぃぃ――――――――――――!?!?!?」

「どうだ。これが高校生だ!!」


 下半身丸出しで何を言っているんだ、と自問自答してしまう辺り、俺は完全な子供ではないらしいな。

 嬉しいやら悲しいやら。


「ち、ちくしょう……アレには勝てない……」

「負けた……全てにおいて……」

 男子達が膝から崩れ落ちていく。


「安心しろ。お前等も成長すればそれなりにはなるから。多分」


 これで見晴らしが良くなった公園に立っているのは、俺とケイスケ君だけになった。

 ケイスケ君は何か言いたそうだが、下半身丸出しの俺を前にしてプルプル震えるばかり。

 終いには、


「く、くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 ヤケクソとばかりに俺に向かって体当たりしてきた。

 軽くいなして、今までの男子同様にずり下ろす。

 ついに正体を現したケイスケ君のそれは。

 マンモスにはほど遠く、かといってゾウさんですらなく、なんというか……エノキ?

 とにかく、今までで一番可愛らしいものだった。

 それを見た男子達が堪えきれずに噴き出す。


「あははははっはははは!! お前、それっ」

「ひーっ! 腹いてー!!」

「……うっ、うぅ……」


 衆目に晒された自身のそれを必死に隠し、ヒクヒクと泣きじゃくり始めるケイスケ君。

 本当は、これでもまだ足りない。

 盗撮された女の子達からしたら、ケイスケ君のアレをサンドバッグにするくらいじゃないと怒りは収らないだろう。

 でも、俺の求める結果にこれ以上は必要無かった。


「お前等、ちょっとこっちに集まれ」


 俺の真剣味のある声を聞いた男の子達は、笑うのをやめてすぐに集まってくれた。

 ケイスケ君もぐずりながらではあるが皆に習う。


「今のお前等なら、自分達がしなきゃならないことも分かるよな」


 シンと静まりかえる一同。

 俺は構わずに、地面の下を指さして続けた。


「この下に、お前等が謝るべき相手がいる。当然、言葉だけで許して貰える訳がない。実害が出ている以上、お前等はそれを元通りにする義務がある」


 アジトの修復。

 今日徹夜して、明日お祭りそっちのけで頑張れば、この人数なら何とかなるはずだ。

 それが分からない子達じゃない。


「大丈夫。ちゃんとやることやれば、元に戻れるさ。アジトも、男子と女子の関係も」


 男子達は皆覚悟を決めたのか、顔を引き締めて立ち上がった。

 最初に行くのは当然ケイスケ君だ。

 本当の戦地へと赴く戦士達に、俺は指揮官として一言だけ命令した。


「いいかお前等。『そのまま』で行けよ」



『ギャー!! 次から次にいなり寿司が下りてくるうううううううううううう!?』



 地下からそんな声が聞こえてきたのと同時に、俺はホッと胸をなで下ろした。

 厳密にはまだ終わりではないが、俺のやるべきこと上手くいった。

 俺は格好いい大人になるための、最初の一歩を確かに踏み出したんだ。

 そう思うと、寒いくらいに清々しかった。

 何とか遊音達が来る前に片を付けることができた。

 後で色々と言われそうだし、今の内に報告しておこうか。

 俺がポケットに手を突っ込むと、タイミング良く(悪く)遊音達が公園に入ってきた。


「おにいさん、すみません! ミラクルを見つけるのに手間取ってしま――!?」

「と、虎間さ、その、格好、は……」

「いやーん! 冤罪のおにーさんが露出狂のおにーさんになってる!!」


「……あっ」


 そーだよ!

 俺も脱がされっぱなしだったじゃねーか!!

 ま、繭に見られたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


「違うんだ! これはその、えっと」

 ……説明のしようがねぇ!!


「おにいさんのことですから、色々と事情があるんだと思いますが」

「そ、そうだよ! 流石遊音だな!」

「小学生女子と中学生女子に剥き出しの下半身を見せつけた時点で、色々とアウトです」


 遊音が徐に取り出したのは。

 ストップウオッチによく似た小型の機械。

 中央にはボタンがあって。

 押すとけたたましいサイレンが鳴り響く、危険な道具で。


『分かったからさっさとズボンを履きなさいよこの変態共!!』


 汀子の大声を聞いた直後、遊音は容赦なく防犯ブザーのボタンを押したのだった。


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