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子供嫌いの無意識矯正  作者: 襟端俊一
第五話 子供相手、だからこそ
27/33

 安心させたくて一心不乱に汀子の頭を撫で続けていたら、


「……下手っぴ」

「ご、ごめん」


 慌てて両手を上げる。

 まるで満員電車の中でやる、痴漢に間違われないための防衛策のような情けない格好になってしまった。

 仕方ないだろ! 女の子の頭の撫で方なんて知らないんだからさ!!


「後、汗臭い」

「……調子出て来たじゃねーか」

「あだっ」


 デコピンを食らわせると、仰け反るような形で汀子が俺から離れた。

 同時に俺の背後から声がした。


「――!! こ、これは……」

「汀子!!」

「えぇ!? う、嘘……私達のアジトが……」

 遊音と繭、それに途中で合流したのかミラクルも一緒だった。


「あ……お姉ちゃ――キャ!」

「うぐっ」

「汀子……良かった……」

「……ごめんなさい……私……」


 繭は俺を突き飛ばして迷わず汀子を抱き締めた。

 ははは……そりゃ、そうだよな。

 本物の兄妹までの道程は険しい。

 でもまあ、姉妹喧嘩の方はこれで一件落着かな。

 問題なのは汀子と同じようにショックを受けている遊音とミラクルだ。


「「……」」


 二人共、茫然自失としたまま微動だにしない。やはり女子全員で作ったこのアジトを滅茶苦茶にされたことが相当こたえているんだ。

 最初に口を開いたのは遊音だった。


「クラスの女子をかき集める」


 素早くスマホを取り出す遊音。

 今度はそれを見た汀子が繭の抱擁を振りほどいて止めた。


「だ、駄目! お願いゆーね、それだけはやめて。こんなの見せられないよ」

「誰も汀子のせいだなんて言わないから」

「そうだよ! 悪いのは男子だよ!!」

「それでも!! こんな思いするのはアタシ達だけで充分でしょ!?」

「じゃあこのままにしておくの!?」

「待て待て。遊音も、ミラクルも」

 ヒートアップしそうだったので慌てて割って入る。


「今のお前等の気持ちを他の女子全員が共有したら、取っ組み合いの喧嘩になりかねないぞ。そうなったら不利なのはお前等女子だ」

「それは――っ。……そうですね」

「うぅ~~……悪の心が疼くよぉ~~っ」

「その剥き出しの歯をしまいなさい」

「むぐぅ」


 一先ず二人を宥めることができた。

 ケイスケ君や他の男子、このアジトをどうすべきか……ここからだな。


「あの、おにいさん」

「なんだ?」

「汀子の気持ちを汲むのは分かりましたが、夏休みが終わればここは女子の溜まり場になりますよ」

「それは分かってるけど、少なくともお祭り中に他の子が来ることはないだろ」

「絶対に来ないとは言い切れません」

「あ、なら立て札はどうかな!? 工事中とか立ち入り禁止とか書くの」

「そんなのがあったら逆に目を引くって。好奇心旺盛な子供には効果抜群だ」

「なら……早く元通りにしないと」


 それが難しいことだと分かっているのか、汀子の声には力がない。

 第一、これを元通りにするのは汀子達の仕事じゃない。

 自分でやったことは、自分で片を付けてもらわないとな。


「無茶言うなって。みんなでお金出しあって揃えた家具なんだろ?」

「……私のお小遣い、使っても」

「そういう問題じゃないんだ、繭。これを俺達が元通りにしたら、ケイスケ君はまた似たような悪戯を汀子に仕掛けてくる。今度はもっと酷い悪戯を」

「「「「……」」」」


 うっ。別に、脅すつもりで言ったんじゃないんだけどな。

 俺以外の四人が急激に生気を失ってしまったぞ。


「だ、だからさ。ちゃんと叱って、間違いを正さないといけない」

「そんなことが可能なんですか」

「俺がなんとかするよ」


 ケイスケ君は、汀子だけでなく俺に対しても思うところがあるみたいだった。

 赤の他人の男子高校生では介入の余地はなかったけど、どうも今の俺は違うらしい。

 それなら、やってやれないことはない。


「分かりました。この件についてはおにいさんに任せます。私達にできることはありませんか?」

「んー……。ケイスケ君の目的が果たされた今、お祭りデートには来ないだろうしな。夜のお祭りを楽しむことかな?」

「楽しめるわけないです」

「だよねー」

「おにーさん、無茶言わないでよ……」

「無理……」


 ですよね。

 でもお祭りは今日と明日だけだし、ケイスケ君一人のせいで台無しにされるってのは癪じゃん。

 汀子達が傷付いたまま何もせずにいるのは、ケイスケ君の思うつぼだ。

 無茶でも無理でも、強引に楽しむことこそが汀子達の反撃になる。


「ほら、せっかく浴衣着てるんだしさ!」

「汗でベタベタです……」

「「同じく」」

「私は着てない」

「~~~~っ。なら奢ってやるよ! 焼きそばでもチョコバナナでも何でも!」

「本当ですか?」

「「本当!?」」

「太っ腹」

「元気じゃねーか!!」

 結局お金は使うことになるのね。トホホ。


 その後、お祭りまでの時間をどう使うか審議した俺達は、またしても転寝家にお邪魔することになった。

 男用の浴衣があるみたいで、俺に着させたいらしい。

 笑いの種にされるのは目に見えていたから、断ろうとしたんだけどさ。

 繭も浴衣を着るって言うんだもん。

 想像しただけで惚れ惚れする。

 並んで歩かせてもらう俺としては、Tシャツとジーパンじゃ心許ないだろ?

 どうせなら胸を張って恋人同士のように振る舞いたいし。

 男用の浴衣……有り難く貸してもらおう。


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