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第92首 完全な忘却
よしさらば わするとならば ひたぶるに あいみきとだに おもいいづなよ
もういい、仕方ないわ。
わたしのことを忘れたなんてね。
でも、そんなことを言うのなら、もう完全に忘れてよ。
あの夜のことでさえ思い出さないでね。
【ちょこっと古語解説】
○よし……まあいい、仕方ない。
○さらば……そうであるならば、の意。ちなみに、別れの挨拶としての「さらば」もこの意が発展したものという説があり、「そういうことであるなら、今はもうお別れの時、では」という意味が込められているという。
○ひたぶるに……元の形は「ひたぶるなり」で、「ひたすらだ、いちずである」の意。
○逢い見……「逢う」も「見る」も、男女が関係を結ぶことを表している。
○だに……「~さえ」の意。
よしさらば忘るとならばひたぶるに逢い見きとだに思い出づなよ(続後撰和歌集)




