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第91首 月を恨んで
こぬひとに よそへてまちし ゆうべより つきちょうものは うらみそめてき
なかなか来てくれないあの人を、なかなか現れない月にたとえてみた。
来ないあの人、現れない月。
あの人を待ちながら、月を待つ。
あの人も来ないし、月も出ない。
もしか、あの人が来ないのは、月が現れないから。
月が現れれば、あの人も来てくれる。
それなのに、月は出ず。
その頃からだ。
わたしが月を恨み始めるようになってしまったのは、
【語句解説】
よそえ……元の形は「よそう」で、「たとえる」の意。
てふ……「という」の意。
来ぬ人によそえてまちし夕べより月てふものは恨みそめてき(続後撰和歌集)




