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第85首 遠い場所で
かくこいば たえずしぬべし よそにみし ひとこそおのが いのちなりけり
胸が苦しい。
こんな風に恋い慕っていたら、きっと死んでしまうに違いない。
結ばれずに終わってしまった人。
もう遠くから見るしかないあの人が、わたしの命だったなんて。
【ちょこっと古語解説】
○かく……このように。
○恋いば……恋をするの意の「恋う」の未然形に、接続助詞「ば」がついた形。未然形+ば、で仮定を表すので、「恋い慕っていたら」くらいの訳。
○たえず……たえられず。
○べし……「当然」の意味で、「~のはずだ」くらいの訳。
○よそに見し人……ここではない場所で会った人。
かく恋いばたえず死ぬべしよそに見し人こそおのが命なりけり(続後撰和歌集)




