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第74首 思い出して
くもとなり あめとなりても みにそわば むなしきそらを かたみとやみん
突拍子もないことだけど、わたしが朝には雲、夕べに通り雨になって、そういう風にしてあなたの身に寄り添うことができたとしたらの話。
もしもそんなことができたら、わたしがあなたと離れたあとも、何にもない空を見るだけで、あなたはわたしのことを思い出してくれるのかなあ。
【ちょこっと古語解説】
○雲となり雨となりても……古代中国の故事を踏まえる。楚の国の王が、ある日、夢に神女と交わった。神女は去るとき、「朝には雲、暮には通り雨となって、王のもとへ来ます」と言ったが、果たしてその通りだったという。ちなみに、この故事から、男女の交わりを「雲雨」というようになった。
○形見……死んだ人、遠くに去った人を思い出すよすがとなるもの。
○や……疑問文を作る語。
○ん……「~だろう」という推量を表す。
雲となり雨となりても身にそわばむなしき空を形見とや見む(新勅撰和歌集)




