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第73首 一言の別れ
わすれじの ただひとことを かたみにて ゆくもとまるも ぬるるそでかな
忘れないよ。
その一言だけを残して、あなたは去っていく。
次に会えるのはいつのことになるだろう。
去っていくあなたも、とどまるわたしも、ただ涙の中。
【ちょこっと古語解説】
○じ……「~しないよ」という、打消意志を表す。「忘れじ」で、「忘れないよ」くらいの訳。
○形見……亡くなった人や遠く離れた人を思い出す手がかりとなるもの。
○袖……和歌の中で「袖」と出てきたら、「涙」をイメージしましょう。
忘れじのただひとことを形見にてゆくもとまるもぬるる袖かな(新勅撰和歌集)




