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第72首 別れの鳴声
おのがねに つらきわかれは ありとだに おもいもしらで とりやなくらん
鶏が朝を告げていた。
もう帰らなければいけない、と起き上がる彼を見るわたしの胸がしめつけられる。
朝。
恋人との別れのとき。
そんなつらい時を告げるものだなんてことさえ知らないで、鶏はただ鳴いているのだろうか。
【ちょこっと古語解説】
○おのが……自分の。
○ね……音、なき声、響き。
○だに……「~さえ」の意。
○で……打消接続を表し、「~ないで」の意。「しらで」は、「知らないで」くらいの訳となる。
○らむ……現在推量を表し、「~しているだろう」の意。
おのがねにつらき別れはありとだに思いもしらで鳥や鳴くらむ(新勅撰和歌集)




