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第56首 床上で想う
ながからん こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもえ
あなたが帰り、わたしはベッドの上でひとり。
長い黒髪を乱れさせたままで、もの思いにふける。
ずっと変わらないよと言った昨夜のあなた。
その気持ちがどこまで本気なのか分からないから。
【ちょこっと古語解説】
○長からん心……「長から」は、「長し」の変化。「ん」は、文法用語で「婉曲」といって、現代語ではうまく訳すことができない。全体で、「長い心」となるが、これは、「長く変わらない心」くらいの意味になる。
○ものをこそ思え……「思え」は、「こそ」という語の効果によって、「思う」が変化させられたものであり、思いなさい、という命令形ではない。全体の意味は、「ものを思う」と変わらない。恋のもの思いをすること。
長からん心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思え




