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第54首 祈り届かず
うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを
神に願った。
ぼくをつらい気持ちにする彼女がなびいてくれますようにと。
ところが彼女はいっそう冷たくなった。
まるで山から吹きおろす風のように。
そんなこと祈りはしなかったのにさ、どういうことだよ、神様。
【ちょこっと古語解説】
○人……和歌で使われるときは、「恋しいあの人」と取ってよい。
○初瀬……奈良県桜井市初瀬のこと。長谷寺という有名なお寺があり、観音信仰が盛んだった。観音様に祈るとご利益がある。
○山おろし……山から吹きおろす冷たく激しい風。
○ものを……「~けれども」の意。
憂かりける人を初瀬の山おろしよはげしかれとは祈らぬものを




