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ワカコイ ~恋の和歌~  作者: coach
色色の歌
51/297

ちょこっと和歌技法1 序詞1

 「ワカコイ」50首達成を勝手に記念して、和歌の技法を一つ、ご紹介します。

 和歌にはいろいろな技法、つまりテクニックが使われています。

 それらのテクニックは、詠み手の想いをより正確に伝えるものであったり、より豊かに伝えるものであったり、想いとは全然関係ないものであったりします。

 いずれにせよ、テクニックが理解できると、和歌の内容をよりよく捕まえることができます。

 今回、ご紹介するのは、序詞(じょことば)というテクニックです。

 序詞というのは、どういうテクニックか、実際の和歌を例にしながら、ご説明します。

 例にする和歌は、「ワカコイ」第1首の和歌。

 時鳥(ほととぎす)鳴くや五月(さつき)のあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな

 現代語訳は、以下の通りになります。

「時鳥が鳴く五月に咲くあやめ草、その『あやめ』ではないが『あやめも知らない』、つまり道理も分からない恋をしているのだなあ」

 ……ん? なんだこれ? という感じになりませんか? 訳の真ん中あたりの意味がよく分からないと思います。なんでわけ分からない感じになっているかというと、序詞が使われているからなんですね。

 さて、では、序詞とはなんぞやと。

 この「時鳥――」の和歌で最も伝えたいことは、「あやめも知らぬ恋もするかな」という部分です。「あやめ」というのは、「物事の筋道、道理」くらいの意味です。「筋道、道理」というのもなかなか難しい言葉ですが、簡単に言うと、「みんなが納得できること」という意味です。例えば、1+1=2、みたいな。すると、「あやめも知らぬ」というのは、「みんなが納得できることも分からない。もう何にも分からない」という意味になって、「あやめも知らぬ恋もする」とは、「きみのことが恋しくて、もう何にも分からなくなっちまったゼ」てな、感じになります。

 この和歌で最も言いたいことはそこなんですけれど、和歌の冒頭からいきなりそんなことを言ったら品が無い。今はスピード社会なので、何でもストレートに言った方がいいのかもしれませんが、古代の人はそれじゃ面白みが無いと思ったんですね。そこで、本当に伝えたいことの前に、一見関係ないように思えることを詠みます。「時鳥鳴くや――」という出だしで、相手に、「え? 鳥の話?」と思わせておいて、実は恋する気持ちを伝える、という、その転換が面白いわけですね。

 この一見関係ないように思える部分、上の和歌では、「時鳥鳴くや五月のあやめ草」が、序詞に当たります。

 とはいえ、一見関係ないように思えることでも、ちゃんと関係が無ければいけません。全然無関係なことを詠んでいては、「なんで詠んだの、それ!」ということにになっちゃいますからね。

 では、この和歌の「時鳥鳴くや五月のあやめ草」の部分は、「あやめも知らぬ恋もするかな」という部分とどういう風に関係があるのか。両方ともに、「あやめ」という言葉が共通していますね。二つのあやめは意味的には関係ありません。「あやめ草」は、そういう植物のことですし、「あやめも知らぬ」の方の「あやめ」はさきほど言ったとおり、物事の筋道のことです。しかーし、音は同じですね。どっちも、「あやめ」です。……終了。

 いや、音が同じだから何なの! と思うでしょう。確かにその通りです。音が同じだから何なのっていう話なんですが、その同じ音の語を重ねるところに面白さがあるわけですよ。

 この和歌で最も言いたいことは、繰り返しになりますが、「あやめも知らぬ恋もするかな」という部分です。その冒頭にある「あやめ」という音を持つ別の意味の語を、前に持ってくる。すると、「あやめ」「あやめ」という音の繰り返しという面白い現象が起こって、「あ、なるほど、『時鳥鳴くや五月のあやめ草』っていう部分は、『あやめも知らぬ恋もするかな』という部分を言いたいために持って来られた部分なんだ」と聞き手に思ってもらえるわけですね。

 このように、和歌の中で、気持ちを伝える前に置かれる一見関係ないように思われる部分のことを、序詞と言います。

 序詞にもタイプがあり、今回ご紹介したのは、「同音反復」による序詞というものです。あと2タイプあるのですが、それはまた別の機会にご紹介したいと思います。

 引き続き恋の和歌の世界をご堪能ください。

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