第30首 連れ出そう
なにしおわば おうさかやまの さねかずら ひとにしられで くるよしもがな
( 三条右大臣)
さ寝なんていう色っぽい名を持つならさあ、さねかずらくん。
きみのつるで、あの人をするするとたぐりよせたい。
ひっそりと、誰にも知られず会うために。
【ちょこっと古語解説】
○名にしおはば……「名におふ」は、「その名を持つ」という意味で、「ば」は「~なら」の意を持つので、「名にしおはば」で「その名を持つならば」くらいの訳。
○逢坂山……京都府と滋賀県の国境にある山。「逢ふ」という語を中に含み、逢ふ、すなわち一夜を共に過ごす、ことを連想させる。
○さねかづら……モクレン科のつる草。茎を煮て整髪料を作っていたため、美男葛の別名を持つ。「さね」という語を中に含み、さ寝、すなわち共寝、を連想させる。
○人……ここでは、「他人」の意。
○で……「~ないで」の意。
○くる……二つの意味を持つ。一つは「来る」で、もう一つは「操る」だ。繰るとは、たぐりよせる、という意味。
○よし……方法、手段の意。
○もがな……「~であればなあ」という願望の意。
名にしおはば逢坂山のさねかづら人にしられでくるよしもがな
(後撰和歌集/恋3-701)




