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第3首 恋心秘めて
よしのがわ いわきりとおし ゆくみずの おとにはたてじ こいはしぬとも
(詠み人知らず)
白い波頭が見える。
まるで岩を切り崩すような勢いで、川の水が流れている。
きみに寄せるぼくの気持ちは同じくらい激しいけれど、決して外には表さない。
言いふらすような軽い気持ちじゃないから。
じっとこらえて、秘めたまま。
たとえ、この恋心に苦しんで、死んでしまったとしても。
【ちょこっと古語解説】
○吉野川……奈良県中央部を流れる川。
○音には立てじ……「音に立つ」とは、「うわさになる」の意。「じ」は、「~しないようにしよう」という意味なので、「音には立てじ」で、「うわさにならないようにしよう」くらいの訳になる。
吉野川岩切り通し行く水の音には立てじ恋は死ぬとも
(古今和歌集)